季刊まちづくり26号特集

「地域づくりの視点から都市計画制度に提案する」
連続ワークショップ

記録(文責・米野史健)

 

 

■連続ワークショップ第1回

 米野です。
 昨日連続ワークショップの第1回が無事終了しましたので、ご報告します。すでにご案内のように、内容は以下の通りでした。

□6月24日(木)

 テーマ:都市計画を定期的に見直す仕組み

  はじめに.特集全体の解説:米野史健
  提案24.時限的な規制の方策を組み入れる:米野史健+石田武+山本一馬+泉英明
  提案05.住民がまちの定期検診を実施する:栗山尚子+米野史健

[趣旨]まずは、制度改正に関する近年の議論を簡単に紹介しつつ、今回の特集全体について解説します。続いて論点の一つである「見直し」に関連して、時限的な都市計画に関する提案24と、見直しでの住民の役割を考える提案05について説明します。
 


 
 参加者は計28名(著者・関係者7名:一般参加者21名)で、会場のサイズにちょうどよいくらいの人数にお集まりいただきました。
 「特集全体の解説」では、この間の法改正の動きと、本企画の趣旨と構成を説明しました。この部分については、改正関係の動きを皆さんご存じなのか、それともあまり関心ないのか分かりませんが、質問や意見はほとんどなかったです。
 続いて「提案24」を私・米野が説明し、賛否両論いろいろな意見をいただきました。“否”では「そもそも都市計画は短期的に考えるべきではない」「規制の仕組み自体がおかしいところにこんなものを入れると混乱する」というようなご指摘、“賛”では「B:検討時猶予のような仕組みは住民提案の際に有効」というご意見だったでしょうか。長期的なビジョンとの関係や、実施する際の手続のあり方あたりが、主に議論されたように思います。
 最後に「提案05」を栗山さんにご説明いただきました。ここでは「都市計画として行う支援」と「まちづくりや地域自治の意味で行う支援」との関係が、論点になったでしょうか。「都市計画」と「まちづくり」との違いをどう捉えるかといったあたりですが。また「行政による継続的な支援と組織の自立性のあり方」(いつまでも行政が支援し続けるのはよくない、など)「支援を受ける組織が活動する空間の規模」(町内会程度か学区規模か)なども議論されたかと思います。
 多様な意見が出されたので、(説明者としては)対応が結構大変ではありましたが、読者の方々の意見を直接うかがうことが出来て、個人的には有意義でした。
 ただ、提案されている内容がどのような「地域」や「対象」で使われるかというイメージが、それぞれの人によって異なっているために、こちらの言っていることが伝わらない、議論がかみ合わないような部分も感じました。このあたり、制度提案ということもあって、原稿の中では対象をあまり具体的に規定しませんでしたが、ある程度「こういう地域」として示した方が分かりやすかったのかなとも思います(その分議論が限定的になる面もありますが)。
 ということで、ご発表いただいた栗山さん、ご参加いただいた執筆者の皆様、お疲れ様でした。
 

■連続ワークショップ第2回

 米野です。
 昨日連続ワークショップの第2回が行われましたので、ご報告します。内容は以下の通りでした。ご発表いただいた著者の皆様、ご苦労様でした。

□7月8日(木)

 テーマ:市民・住民が担う都市計画


  提案18.市民提案の活発化に向けた都市計画提案制度見直しを行う:藤井さやか+泉英明
  提案06.都市計画に都市計画教育を位置づける:山本一馬+山崎義人+武田重昭
  提案17.密集市街地の路地へ対応する:松原永季+姫野由香

[趣旨]近年では市民・住民が都市計画に直接関われるようになっていますが、そのための仕組みに関する提案18、関わる市民のリテラシーを論じた提案06について議論します。また一つの具体例として、住民の望む生活空間を残すという観点から提案17について考えます。
 


 
 参加者は前回より少なく計20名(一般参加者14名、著者・関係者6名)でした。
 まずは「提案18」について、泉さんからご説明いただきました。提案の趣旨はおおよそ理解されたかと思いますが、その上で意見交換では「仕組みは法律で定めるのか条例で定めるのか」(条例が望ましいが国法で定めないと動かない部分もある)、「意識の低い自治体に支援や受入後のプロセスをどうやってやらせるか」(心ある自治体は仕組みがなくても受け入れて支援するが)、「提案要件はどこまで緩和するのか」(1〜2割でもよいか過半数が望ましいか、地域特性に応じた率を考えるなど)、といったことが議論されました。
 続いて「提案17」は、松原さんが関われている神戸市駒ヶ林地区の紹介も含めてご説明いただきました。意見交換では、駒ヶ林地区の取り組みでの課題や問題点についての質問のほか、「指定基準を見直す際には、どのような指標を考えるか」(まちの性能をどう評価するか、ハードのみならずソフトも必要)、「駒ヶ林地区で検討されている近隣住環境計画の持つ意味」(但し書きの判断の際に参照される計画であり、また住民との話し合いの第一歩として重要)、などが議論されたかと思います。
 最後に「提案06」について、山本さんからご説明いただきました。「都市計画の教育と住民自治・団体自治の教育とが合わせて行われるべき」という点が中心的な主張だったと思います。意見交換では「教育とは何か?」を巡る議論となり、「学校教育なのか市民教育なのか」(学校教育の場合はいつどのように行うか)、「教えるべきなのは都市計画の知識なのか基本的な思想なのか」(技術的知識は理解してほしいが、心・原論の部分も重要)、「まちづくりの取り組みを記録して伝えることも教育となる」(大人がまちでやってきたことを子どもに伝える)、といったことが議論されました。
 実態に即した具体的な話から教育という抽象的な話まで幅広い内容となったこと、また基本的な考え方はおおよそ了解されており細部に関する議論になったこともあってか、前回に比べると一般参加者からの意見や質問が少なく、執筆者・関係者を中心とする議論になった感じもしないでもないですが、提案の内容を改めて考え直して深めるよい機会になったのではないかと思います。
 

■連続ワークショップ第3回

 米野です。
 昨日連続ワークショップの第3回が行われましたので、ご報告します。内容は以下の通りでした。ご発表いただいた著者の皆様、ご苦労様でした。

□8月4日(水)

 テーマ:地域マネジメントの方法


  提案04.都市計画に地域マネジメントの主体を位置づける:嘉名光市
  提案16.新しい都市のパブリックスタイルを育む:武田重昭
  提案07.都市の空洞化にどう向き合うか:嘉名光市+山崎義人

[趣旨]地域をどう維持管理していくかが今後の大きな課題ですが、その担い手に関する提案04、公共空間の新たな管理を論じた提案16、担い手がいない場所への対処を考えた提案07を通じて、都市のマネジメントのあり方を幅広く議論します。
 


 
 参加者は前回と同程度の計21名(一般参加者12名、著者・関係者9名)でした。前回から間が空いたためか、あるいは夏休みが近い?からか、申し込まれた一般参加者の方で来ない方が結構多かったのは少々気になるところです。
 まずは「提案04」について、嘉名先生にご説明いただきました。ご紹介のあったアメリカのBIDに関する質問がなされたほか、あのような仕組みを日本で行うためにはどうすればよいか(組織のあり方や経済的自立・継続性、専門家の役割等)が議論されました。また、単にマネジメントの主体となる組織をつくっただけではダメで、併せて都市計画の考え方・仕組み自体も変えていかなければならないというような意見交換がなされました。
 続いて「提案16」について、武田さんに事例や写真をふんだんに使ったプレゼンを行っていただきました。行政が仕掛ける都市のブランディングの話と、市民が行う公共空間の使いこなしの話という、レベルの違う取り組みがどう関係するのか、どのようにつなげていくかという点で、意見交換がなされました。また、公共空間を使いこなすイベント的な取り組みを、地域の継続的なマネジメントへと展開していけるのかといった議論もなされました。
 最後に「提案07」について、山崎さんからは本文に即した説明を、嘉名先生からはランドバンクの詳しい紹介をしていただきました。日本では空き家・空き地がなかなか動かないが、売却や賃貸等で動かしていくにはどうすればよいかに関して意見交換がなされました。その中で、地価の評価や税制、あるいは土地建物の所有のあり方自体も含めて考えなければならないとの議論もありました。最後は農地が議論の中心となり、次回の柴田さんの発表に繋がる形で終了しました。
 地域のマネジメントの話ということで、必ずしも(狭義の)都市計画制度にはつながらない話も含めて、幅広い意見交換がなされたと思います。これまでとはまた違った視点からの議論で、個人的には大変興味深かったです。全体としては、地域単位のマネジメントの必要性は参加者の間で共有されていた様子で、ではどうするかという具体の方法レベルの議論に関心が持たれていたかなと思います。
 

■連続ワークショップ第4回

 米野です。
 昨日連続ワークショップの第4回が行われましたので、ご報告します。内容は以下の通りでした。ご発表いただいた著者の皆様、ご苦労様でした。

□8月18日(水)

 テーマ:土地利用のコントロール


  提案01.都市計画区域を見直す:姥浦道生+瀬田文彦
  提案08.環境・生態系の視点を都市計画制度に位置づける:田中貴宏+山崎義人
  提案13.都市内に散在する農地を環境整備に活かせ:柴田祐

[趣旨]住民等による地域の運営が求められる一方で、都市全体の管理もますます必要になります。提案01を通じて広域的な制御の方法を考えるとともに、中でも重要となる自然と農地の問題を扱った提案08・提案13について議論し、土地利用制度のあり方を考えます。
 


 
 参加者はこれまでで最も多い30人(一般参加者23人、関係者7人)でした。
 饗庭さんや高校生の皆様(社会科学研究部の研修旅行の一環だそうで)をはじめ、関東からお越しの方がいらっしゃったのが、人数が増えた要因でしょうか。
 まずは「提案01」について、瀬田さんからご説明いただきました。市町村全域を対象とする「市町村空間利用計画」の提案に対して、現状の都市計画区域外まで都市計画を“拡大”していくことの意味や狙い、区域外で計画・規制を行う際の判断の根拠、農政や産業政策と合わせた形でのコントロールの実現性、自治体で実際に計画策定を行う際の仕組みやプロセス、などについて質問・意見が出され、議論がされました。
 続いて「提案08」の、都市環境学の技術や科学的知見を都市計画に反映できる仕組みをつくるとの内容を、田中さんからご説明いただきました。これに対し、環境的にはよいが防災的には問題があるなど相反する場合にどう解決するか、シミュレーション等の学術的知見と計画策定における政策的判断とをどう関係づけるか、環境学の知見はマスタープランレベルに反映するのか具体の土地利用規制にまで落とし込めるのか、などといった点について議論がされました。
 最後に「提案13」について、柴田さんにご発表いただきました。市街化区域内に残る農地を前提とした仕組みの提案について、広域よりは地区単位のまちづくりの中で検討される問題では、本来的には逆線引きをすべきでは、営農を促進する他の施策も含めた検討が必要では、などの意見が出されました。さらに、農地のみならず空地も含めてどうコントロールするかが重要、空地を積極的に農地に転換していくような発想も取り入れた仕組みを、との提案もありました。
 全4回の中では、土地利用という本質的なテーマで、スケール的にも一番大きめな内容だったためか、これまでのように賛否両論が飛び交って議論が盛り上がるというふうではなかったですが、有意義な意見交換は出来たかと思います。議論の中で、考えるべき論点や課題がいろいろ見えてきたというか、改めて確認されたという印象でした。
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 以上で全4回の連続ワークショップは終了です。ご発表いただいた皆様、及び参加して下さった皆様、本当にありがとうございました。
 今後どう展開していくのか…という質問も今回ありまして、議論を踏まえて提案・アイデアをバージョンアップして再度発表する、ということが出来ればよいのかもしれませんが、そこまでは難しいと思いますので、当面は各執筆者の方で議論や意見の内容は検討・考察していただき、今後の研究や実践の中で活かしていただければと思います。
 何かの形でまた執筆者全体で動く必要がある・動ける機会が出てくれば、その時に何が出来るかを検討したいと思います…などと個人的には考えております。

協力:前田裕資(学芸出版社)

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