学芸出版社2010年
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日本各地からの来場者で会場は満員 | 著者による本の紹介 |
左から、真板さん、田川さん、高梨さん | 左から、小保内さん、伊庭さん、石垣さん、宮城さん |
高梨:日本型エコツーリズムとはなにか。日本の土壌の中にエコツーリズムをどう生かし、実践していくか、本に収めた一端を、パネルディスカッションで明らかにしたい。エコツーリズムは円運動。自然資源、自然と密接に関係した文化資源、それを観光資源として活用することによって、地域振興に結び付けていく。それによって、地域の人たちが資源を保全していく。そしてまたそのことによって、資源価値が高まっていく。観光客が増加し、地域が潤っていく。
エコツーの原則と実践を明らかにしたい。観光資源の価値が大きすぎて、観光客が殺到し、地域が破壊されることもありうる。厳しすぎる規制をかけると、経済効果が生まれず、結局税金で資源を守ることになってしまう。
先日の国際会議では、里山型のエコツーリズムを日本型エコツーリズムとして紹介した。資源により、さまざまなエコツーリズムの形がある。
石垣:米を作りながら、妻と一緒に織物をしている。海にも行く、猪もとる。島の男はなんでもやる。西表は豊かな島。イリオモテヤマネコは島の神様。島の人たちが暮らしのなかで大事にしてきた動物達が天然記念物になった。1972年の復帰時に島に戻った。島を守るため。この復帰時に外の人間に買われた土地が、現在のリゾート開発につながっている。当時は年寄りと子供ばかり。島を盛り立てようと若者が集まった。東京にある沖縄協会の人たちが応援してくれた。島の観光の未来も当時から考え始めた。真板先生との出会いもあり、3年勉強会に東京に通った。1980年に西表の自然を中心にしよう、とエコツーリズムという言葉を始めて使った。
小保内:宝探しは18年目。行政、とくに市町村は住民と一番近いところにいる。住民の声を聞く、地域に入って物事を解決する。151町内会自治会に、1360人あまりの職員が張り付いている。そこでカルテを作り、総合計画までもっていく、という作業をしている。行政の反応が早いので、住民も反応してくれる。職員は三つくらいの地域を2,3人で見るような体制。
伊庭:最初から宝探しをするつもりはなかった。特産品を作りたくて真板先生を招聘。先生から足もとを見ようといわれアンケートなどを始めた。水がきれいと気付き、水から生み出される食品に気付いた。商工会の実働部隊として女性部、青年部があり、この一連の取り組みは女性部会で動いている。
宮城:さとうきび産業が安定している。1農家8ヘクタール。地域自体に力がある。島に生まれてよかった、という思いを持ってもらうために宝探し活動。そこから観光につながる動きがでてきた。行政・NPO法人協働の動きも宝探しの中から生まれてきた。子供たちは9年間の宝探しプログラムをすることによって、自主的に島のことを調べたり、研究し始めたり。島外からの研究者を案内するのも、大人より詳しい。
真板:(前記地域について補足)
西表について。五分の三が国立公園。ヤマト文化から評価された自然部分が保護されている。保護されていない五分の二は、人と自然がかかわってきた文化エリア。エコツーリズムが成功し、観光客が増えるほど外部資本による開発圧力が高まる。危機に陥る。でも金星さんには余裕がある。経済は一時のもの、文化力がある限り島は滅びないと力強い。
二戸について。エコツー成功の3点は、@運動論、A組織論、B計画論。二戸はこの三つがバランスよく機能している。市民と行政が半分ずつ委員を出し、3点をうまく展開しているのが特色。
高島について。合併すると過疎化が進むのが常識。しかし高島は合併により、山から湖までまるごと一つになり、それを自らの強さと認めていることが素晴らしい。水はその象徴。
南大東について。100年はサトウキビ開拓のきびしい歴史。島にはもう開発の余地がないほどサトウキビ畑で、サトウキビは国が買上げてくれるから安定。しかしそれに対する危機感から観光への目覚めが。
田川:需要創出をしてきた観光業界。もっと地域に入ろう、地域の需要を掘り起こそう、と2006年にJTB分社化。現地にこそ商材があるはず。でもそれを商材にするのにはエネルギーがいる。外部から人が来て評価されないと、地域の宝は磨かれない。自分達はそのお手伝いができる。文化だけでは飯は食えない。磨いて大きく育てて産業に。県単位ではなく市町村単位で物事を考えないと。地域交流もビジネス化しないと長続きしない。会社の衣替えは、ようやく少し形になってきたように思う。
石垣:エコツーリズムとはこういうものだ、と文化祭を開催した。踊りや作品の発表会。来年は第三回を予定。廃墟になったリゾート施設を、芸術家とともに彫刻の森にしようと動き始めたところ。子供たちに文化を伝えていくために稲作文化資料館、文献資料センターも作る予定。このようにエコツー協会も、いよいよこれから具体的な活動を始める。
伊庭:マップづくり、コースづくりをした。だから多くの方に来てほしい。
小保内:座敷童子のいる旅館が燃えたニュースがあったが、自宅。昨年10月。来年のエコツー大会があるが、旅館が少ない。だから青少年の家をエルダーホステルに衣替えしようと計画中。メニューも地元のいいものを食べてもらいたい。新しいツーリズムの拠点になる。
宮城:南大東の活動はまだ10年。20年続けてらっしゃる方たちの活動を参考にしながら、島の未来を考えていきたい。
田川:ぜひ宝を探して、私たちと協力して磨きましょう。
高梨:エコツーリズムは理念を確立する時代から、実践の段階に入っている。全国津々浦々に種はある。
■シンポジウム終了後は、各地からの特産品に、会場一同舌鼓を打った。
マグロやイカの刺身、タコの旨煮などが各地から届きました | おいしい食材とお酒に、お話も弾みます |
■「着地型観光」をあつかっているが、エコツーリズムとの違いがなかなかわかりませんでした。特に、区別する必要はないかもしれないのですが、1つのポイント、「その地域が求めるもの」を掘り起こしてそれを実現させるという点が明確なのがエコなのかも(?)ということに気付きました。 ありがとうございました。お酒も食も、楽しませていただきました。 _______ 吉川章子さん(OSAKA旅めがね)
■たいへん意義深い事例や取り組みが伺えた。参加してよかった。 _______ 山本寿さん(株式会社赤福 総務課)
■各地域でエコツーリズムの報告から、地域に対する熱い思いを聞くことができてよかったです。各地域がどういう仕組みで、どんな人が関わっているのかを本を読ませていただいて理解を深めたいと思います。 _______ 神庭慎次さん(studio-L)
■基調講演のJTB田川社長の話も、4人の事例発表、パネルディスカッションも、最後の交流パーティーも楽しく、参考になり、元気をもらいました。 真板先生の地域社会での付き合い方、エコツー協会等での活躍が、大成功のセミナーにつながったと感じました。学芸出版社様の本も参考になる記事が多く、今後を楽しみにしています。 _______ 古谷さん(滋賀県高島市商工会)
■観光協会に入って3ヶ月余り。長年、旅行業界にいて、どちらかと言えば「マス」を対象に商売をしてきた私にとって、今の仕事場では苦闘の毎日です。
今回のセミナーを通して、エコツーリズムの観点から、智恵を出せばこんなことができるという事例をいくつも見せつけられた感じがします。各地で頑張っておられる方々に敬意を表しつつ、進むべき方向のヒントを得たことに感謝したいと思います。
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青井正雄さん(社団法人びわ湖高島観光協会)
愛知和男
(あいち・かずお/日本エコツーリズム協会会長)
1937 年生まれ。1961年東京大学法学部を卒業。1976年より衆議院議員。環境庁長官、防衛庁長官を務める。2009年に引退。現在、 NPO 法人日本エコツーリズム協会会長。
桑田政美(くわた・まさよし/京都嵯峨芸術大学教授)
関西学院大学大学院博士課程前期課程修了。博覧会等の大型イベント、自治体の観光・コンベンション振興事業等多数に携わる。日本観光研究学会副会長、イベント学会会員、日本イベントプロデュース協会評議員。著書「観光デザイン学の創造」(編著)、「イベント学のすすめ」(共)、「顧客価値創造型営業への進化」(共)等。
田川博己(たがわ・ひろみ/(株)JTB代表取締役社長)
1948年(昭和23)東京生まれ。1971年(昭和46)慶應義塾大学商学部卒業後、(株)日本交通公社へ入社。海外旅行営業部次長、米国法人日本交通公社取締役企画部長、同取締役副社長等を歴任後、(株)日本交通公社 取締役営業企画部長。〜2001年(平成13)、株式会社ジェイティービーヘ社名変更〜2002年(同14年)常務取締役、2003年(同15年)常務取締役東日本営業本部長、2005年(同17)専務取締役営業企画本部長、2006年(同18)専務取締役旅行事業本部長、2008年(同20)6月より現職。「観光カリスマ百選」選定委員、日本エコツーリズム協会副会長、自治体観光アドバイザー、JTB「交流文化賞」実行委員を務め、観光振興に積極的に取り組んでいる。
石垣金星(いしがき・きんせい/西表島エコツーリズム協会顧問)
沖縄西表祖納(そない)生まれ。1975年中学教員を退職後、農業、染織、シマおこし運動に取り組む。1979年沖縄シマおこし研究交流会議を西表で開催、西表観光の未来に「エコツーリズム」を提案。1985年紅露(くうる)工房開設、西表固有の染織に取り組む。1989年西表安心米生産組合設立、完全無農薬栽培米を全国産直。1995年西表島エコツーリズム協会設立。
小保内敏幸(おぼない・としゆき/二戸市長)
1950年岩手県二戸市生まれ。1973年日本大学生産工学部管理工学科卒業後、1974年より二戸市役所勤務。都市計画課長、総務部総務課長等を務める。2006年の旧二戸市・旧浄法寺町合併後、二戸市市民協働部長、総務課長等を経て、2010年より現職。
伊庭盟代(いば・ちかよ/高島市商工会女性部部長)
1943年滋賀県高島市生まれ。1962年滋賀県立高島高校卒。2007年から県下最大規模の部員(約300名)を擁する高島市商工会女性部部長(2期目)。同年『高島ブランド研究会』を立ち上げ、高島の"食"に焦点をあてたまちづくりに取組み、"高島の食暦"・"びわ湖たかしまお宝MAP"を作成、反響を呼ぶ。
宮城克行 (みやぎ・かつゆき/南大東村役場勤務)
1961年生まれ。1983年沖縄国際大学経済学部卒業。1984年南大東村役場採用。国民健康保険・年金課、土木課、財政課を経て2000年教育委員会へ異動 。教育委員会にて文化庁事業「天然記念物活用事業」担当として「島まるごと館」の建設、展示、大池展望台の建設にかかわり、同時に「地域宝さがし」をはじめる。 以後「島まるごとミュージアム構想」のもと「ガイド養成事業」「モニターツアー」 「島まるごと宝マップ」「ガイドテキスト」「ガイドブック」などの作成を行う。
高梨洋一郎(たかなし・よういちろう/サイバー大学教授)
1941年茨城県生まれ。早稲田大学第一政経学部政治科卒。旅行専門誌編集局長などを経て海外旅行のオンラインマガジン社を設立。日本エコツーリズム協会の設立に参画、初代事務局長として協会の基盤づくりに取組む。現在同協会理事。立教大学観光学部非常勤講師などを経て現職。日本旅行作家協会常任理事。著書に『建国の舞台・米国バージニア』(日経BP社)など。
真板昭夫(まいた・あきお/京都嵯峨芸術大学教授)
1949年新潟県寺泊生まれ。1973年東京農業大学農学科卒、2001年東京大学農学博士取得。(財)政策科学研究所、(財)自然環境研究センターを経て、(株)未来政策研究所代表取締役。2001年より現職。著書に『観光デザイン学の創造』(共著、世界思想社、2009年)ほか。
比田井和子(ひだい・かずこ/未来政策研究所主任研究員)
1947年長野県諏訪市生まれ。1970年横浜国立大学経済学部卒業。出版社勤務等を経て、未来政策研究所。地域とのワークショップを行いながら進めた協働著作に、二戸市エコツーリズムマップ、南大東村エコツーリズムマップ。Tシャツのデザイン等をはじめとする市町村のエコツーリズム開発に関わる実践作品多数。