西村幸夫 東京大学都市工学科卒業、同大学院修了。工学博士。明治大学助手、東京大学助教授を経て、96年より東京大学教授。2011年より東京大学副学長。この間、マサチューセッツ工科大学客員研究員、コロンビア大学客員研究員、フランス社会科学高等研究院客員教授等を歴任。
 

「証言・まちづくり」を語る

『証言・まちづくり』を編集された西村幸夫さんに、今までまちづくりをひっぱってきたリーダー達の生の声を聞き、その人間的魅力にふれることの意味をお話いただきました。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

○本の狙い

前田:
 まず、本書の狙いについてお話しください。
西村
 『証言・町並み保存』という前の本は、町並み保存の第一世代の人たちの貴重な肉声を聞くということだったのですが、今回は町並み保存に限らず、まちづくり一般に広げて、活躍されている方の本当の生の声を聞くことを目指して、8人の方にお願いしました。
 毎回、あるところまで来て頂いてお話しをお聞きするのですが、それぞれ人間的に魅力があるのですよね。地域を愛しているということがすごく伝わって来るのです。
 やっぱりリーダーというのは、その人のために他の人もやってあげようというような思いが感じられるような、すごい熱い人が多いんです。その魅力みたいなものと、町の魅力は重なっているんだと思います。そういう人たちの熱い思いが記録できれば、それはすごく大事なことじゃないかと思います。

前田:
 記録はうまく取れましたか?

西村:
 取れましたよ。
 面白いのは誰も自慢話という感じではないんです。また自分の町を語りはじめるのが、ごく自然に、なんかいままで話していた「ほら、あそこがね」という感じの語り口なんですね。
 つまり誰かに紹介して堅苦しく「この町は人口がいくらで」という感じじゃない、町と自分との距離感みたいなものが、すごく近いという感じがするんです。
 そういう人がこういう町のことを担っていくのかなあ、という感じがしました。

○次の世代の人たちへの期待は

前田:
 時代が変わってきているのですが、これからまちづくりに取り組む次の世代の人たちにこの本から何を読みとってほしいとお考えですか。
西村:
 今の人たちは、もう少し個人的な小さな達成感を積み上げていこうということが大きいんじゃないかと思うんですね。今のまちづくりにおいてね。それが小さな公共だったり、スモールビジネスだったり、コミュニティビジネスだったりするのでしょうね。
 それはそれで確かに重要なことだと思うのですが、やはりその根底には自分たちの町を魅力的にしたいというような大きな構想があって、その大きな構想と自分たちがやっている小さな現実性・可能性みたいなものをうまくバランスさせていく必要があるんじゃないかな。
 えてして今の若い人たちは大きな構想のほうは大人がやってくれればいいや、みたいな感じがあるのかもしれない。あんまりそういうことを語ることが現実離れをしてしまうと思ってしまうのかなという気がしますが、そうじゃない生き方があるんだ。大きな構想と小さな現実が一つの人間のなかに重なっていてということ。それが、あるところに住み続けるということの意味だと思うんですね。どこかから移り住んで、今たまたまいて、そこにどういう形で根を下ろしていくかというのとはちょっと違う、みんな長期に町に関わるということが前提でいろんなことが動いているんですよね。
 そういうふうにある種、長期に価値を高めていくことは、短期に最大の収益を上げるのとは違うんです。それはたとえば人間関係をうまく築いていかないといけないとか、そういう下地があって次のステップがあるといういうことですね。それを感じさせてくれるお話しですし、その意味でも長期のビジョンをもっていらっしゃる方たちだということを実感して貰いたいと思います。読んでいただければ、そういう気持ちは行間に読みとれるんじゃないかと思います。
前田:
 後輩から見ると、スーパースターにすぎて、追いつけないよなあ〜という感じがあるのではないでしょうか。
西村:
 スーパースターって!?
 最初からスーパースターじゃないんだから、最初は普通の人だったんですよ。思いはあったかもしれないけれどね。
 長い蓄積みたいなものがスーパースターになるような状況をつくりあげていったと思うんですね。
 みんな、最初は一歩からスタートしているんです。
前田:
 そのあたりも読みとっていただけるかな?と。
西村:
 そうですね。
前田:
 どうも有り難うございました。
 

証言まちづくり・目次

まちづくりとリーダーシップ
―日本の「まちづくり」はどのような想いに支えられてきたか―
  西村幸夫

市村次夫 −小布施−/産地から王国へ

栗の町・小布施/ 北斎と田んぼの中の美術館/ 栗菓子屋の文化戦略/ 町並み修景事業/ 産地から王国へ/ イベントの展開/ セーラ・マリ・カミングス/ まちづくりの発想/ まちづくりのきっかけ/ 町並みをコーディネート/ 小布施のブランドづくり/ 空間の快適性/ 知的刺激を受けて豊かな生活を目指す

石田芳弘 −犬山−/城下町犬山 都市再生の視座

地方自治体を取り巻く課題/ 無愛不立(愛なくば立たず)/ 都市計画道路の拡幅問題/ まちづくりの哲学/ 祭りは最高のソフトウェア/ 住民主導によるまちづくり検討会/ 外の人の意見を聞く/ 川を媒体とした交流/ まちづくりの歯車が回り出す/ 歴史を見せることが観光/ 町の歴史を読み解く

瀬戸 達 −大聖寺−/楽しく、無理をせず、こころと形に残るように

小さな城下町大聖寺/ まちづくり活動のきっかけ/ 一里塚の再生/ 山の下寺院群の景観整備/ さまざまなまちづくり活動の展開/ NPO法人の設立/ 全国町並みゼミの開催/ まちづくりの活動拠点の整備/ 屋形船の運航/ まちづくりの失敗例/ 町並み景観広場の整備/ もてなしトイレ案内処/ 文化財レスキュー隊/ 心のタッチパネル/ まちづくり活動はまず民間から/ まちづくりのサイクル/ 大聖寺が大好き/ 感じたものだけが心に残る/ 町とうまく関わることが生きるすべとなる

笹原司朗 −長浜−/らしさを捨てろ 長浜の挑戦

観光カリスマになって病気が治った/ 戦国の通り道・長浜/ 楽市楽座で栄えた長浜/ 中心市街地の衰退/ 株式会社黒壁の誕生/ 「らしさ」を捨てろ/ ガラスの文化をまちづくりに/ 口コミによる宣伝/ 土産屋は入れない/ 一千万人が交流する町へ/ まちを良くしないと自分の幸せはない/ 村八分になる/ ガラス文化の発信と古い町並みの整備/ ガラス文化を学び続ける/ まちづくり役場/ ガラスを伝統に/ 祈りのあるものが祭り/ まちづくりの核を見つける

川端五兵衞 −近江八幡−/死に甲斐のある終の栖のまちづくり

商人の町・近江八幡/ ヘドロで埋まった八幡堀/ 堀は埋めた瞬間から後悔が始まる/ 堀再生のための四つの課題/ 死に甲斐のある終の栖/ 堀の再生に向けて/ 官からのまちづくり/ 景観に対する市民意識の五段階/ 現風景から原風景へ/ リバーシブル・ディベロップメント/ 八幡堀再生の裏話/ 市民権を得た八幡堀清掃キャンペーン/ 西の湖の保全、重要文化的景観へ/ 末端行政から先端行政へ/ 観光は終の栖の内覧会/ 歴史を知る者は未来を透徹する/ 熱い想いが新たな道を切り開く

高橋 徹 −伊勢河崎−/まちづくりは継続すると、ジャンプアップする時期が来る

伊勢のまちづくり/ 河川改修によって壊された町並み/ 町並み保存活動のはじまり/ 蔵の再生、町並みの保存/ 行政との対立から協調、協働へ/ 伊勢河崎蔵バンクの会発足/ NPO法人伊勢河崎まちづくり衆の設立/ 住民主体の自治まちづくり/ 伊勢の生活のサイクル/ まちづくりを継続する気持ちが大切/ 勢田川の改修について/ 空き蔵の仲人事業/ 伊勢河崎商人館の管理運営/ 伊勢河崎の暮らし体験/ 天の時、地の利、人の輪でまちづくりが進む/ 御木曳について/ 外の人間だからしがらみがない/ NPO法人伊勢河崎まちづくり衆の活動について/ 自立するまちづくり活動へ

中村英雄 −徳島−/できる人が、できる時に、できる事を

徳島の真ん中・ひょうたん島/ ヘドロで汚れていた新町川/ 上流をきれいに/ ひょうたん島周遊船の運航/ 多彩なイベントの開催/ 儲けようとしないから、皆が応援してくれる/ まずは自分たちが楽しむことから/ 男のロマンより女の不満/ 何のためにするかという大きな目標が大切/ 川を媒体とした交流/ 活動を続けるということの大切さ/ ビジョンを掲げ活動を続ける

溝口薫平 −由布院−/まちづくりは、企画力・調整力・伝達力が必要

誰も名前を知らなかった温泉町/ まちづくりへの「想い」/ ゴルフ場の建設反対/ ドイツに学ぶ/ 旅館ありきではなく、まず地域ありき/ 由布院観光総合事務所の設置/ 各旅館の情報を共有する/ 由布院のイベントは手づくり/ 確かなまちづくりへの挑戦/ 二人のリーダーが町を育てる/ 町長が保証人になってくれた/ 地域を守る/ ナンバーワンよりオンリーワン/ 由布院の景観と観光の問題について/ 一つの旅館が地域を育てていく

あとがき  埒 正浩

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