『メキシコの人・文化・心』

関西大学 建築環境デザイン研究室 黒松 晃子

メキシコの風景はその独特な色使いであり、そこに住む人たちの人柄であり、その文化に対する自尊心である。
  
□メキシコカラー
 メキシコと言えばバラガンの自邸にも見られるような華やかな色彩のコンビネーションである。それはその土地の色であり、人が住むものであり、メキシコ独自の風景である。日本ならば確実に非難の的にされるような色彩の住宅が、配色など考えられているのだろうか?スーパーで果物を選ぶような手軽な感覚で選択され、独特の風景をつくりだしていた。
しかしながら、どの街を見てもどの原色の家々を見ても腹がたたないのである。むしろ夏の終わりの日の光を受けてそれらはメキシコにいることをマジマジと実感させてくれる。赤は土の色、青は空の色、黄色は太陽というようにそれらはメキシの風土を捉え、今メキシコの風景として継承されている。
建築家は当り前だったその風景を思い出し、先人が残した「メキシコらしさ」を学び、そして今残るものを体感して再び未来へ向けて残していく。また一方でそれに住まい、出来事を付加していくメキシコ住人は、そこに「メキシコらしさ」と「自分らしさ」を絶妙にデコレーションしていく。ここでのメキシコ人の自分らしさの現れとは、写真にもあるような住宅街の街路に面するシーンの様なものである。それは牢獄の様に閉ざされた高い住宅の塀に気分を晴れやかにしてくれるような色を施したり、草木の蔓が伝い、花をつけるように造園され、個々の壁に表情が付けられている。それはどこかメキシコらしく、そこに住む個々の個性として、その人がそこに暮らしてきた「生活の時間」が浮かび上がっていた。そしてその単調な生活に花を添えるように・・・
  
□メキシコ人の人柄
 メキシコ人は日本人を珍しがることなく、実に親切だった。話を始めればとめどなく話してくれる。「メキシコは好きか?」と必ず聞かれる。もちろん好きだ・・・
いろんな場面で彼らの世話やきな一面を見た。メキシコを知ってもらいたい。そんな思いが伝わってきた。それは彼らの愛国心から来るものだとすぐにわかる。
私は、行く前から必ず質問しようと決めていたことがあった。スペインの侵略を受け、原住民が持つ独自の文化が脅かされた歴史を持つメキシコの人々にとって、スペインという国がどう見え、そしてそのように出来た新たな文化をどう思うのか?と。
一人のタクシー運転手が答えてくれた。
「彼ら(スペイン人)が入ってこようとも私たちの生活は根本的には変わっていないよ。昔からある文化はもう生活に根付いているし、僕たちは僕たちの生活をそのまま続けてきただけだから。スペイン人はスペイン人、僕らは僕ら。今ある幸せなメキシコでの生活を続けてきただけなんだ」と・・・。
どの街に行っても貧富の差が生活に現れていた・・・それでもどの人もその与えられた環境の中で笑っていたのが実に印象的であり、羨ましくもあり。ただただ人生を楽しく生きる姿がどんな豪華な服をまとうよりもも贅沢に見えた。
  
□メキシコの生活とそこから生まれる風景
バスの中は南米独特のハングリーな雰囲気がかなり魅力的で、まちを歩けばいたるところに出る屋台。街角で見る些細な風景。人々はその国を愛し、文化を愛し、昔からあるメキシコタイムを継承し続けているようだ。そのメキシコを大事に思う思いが、建築された建物に残る「メキシコらしい風景」を継承しているようにも感じた。新しいものばかりを追うのではなく、自分たちが好きな「メキシコ」を残すことが、前述のタクシー運転手が望むところであり、今回の旅で見たメキシコの一場面である。そしてそれがその様に残されたメキシコの風景に魅かれた訳なのだと今実感している。