「メキシコへ光と陰をもとめて」

   LEM空間工房  長町 志穂

 私の旅は光と陰を探す旅。その国のそこだけの灯に出会いたくて、薄暮の、ネオンの、漆黒の街を
今回もまた徘徊した。熱くて愛のある灯がそこにあった。

夜の広場、音楽と人の影を映すオレンジ色の光
メキシコシティ、ソカロ近くの広場。マリアッチ(6、7人の楽団)の熱気が溢れている。演奏は深夜3時頃まで続く。この広場はマリアッチの集まる場所として有名らしく、恋人や家族にその演奏をプレゼントしようと、車で乗り付ける人々もいる。
海外ではこういう市井の音楽に出会うことが良くある。その度に、言葉を超えて楽しい気分になり、音楽ってなんていいものだろうと毎度思う。ナトリウム灯が作り出すオレンジ色の広場は、楽しさや悲しさや色っぽさに溢れていて、素敵な広場は人の人生と寄り添っているなあとあらためて思わせる。

■屋台には裸電球が一番
メキシコ人の日常食屋台。トルティーヤ、とうもろこし、もちろんテキーラも。
ドライフルーツにチリパウダーをまぶしたお菓子がお気に入りに。やっぱり屋台には裸電球。

■ 空気を染める光
ペイントや素材の色が必ず境界を持つのに対して、光による色彩は「境界があいまいでにじみ混ざっている」と
いうこと。バラガンのギラルディ邸。ガラスにイエローのペイント。自然光の光が黄色のフィルターを通って奥の
ブルーのトップライトの色彩と滲み混ざる。

■街の色、路地の気配
メキシコ屈指の美しい街といわれるグアナファト。銀鉱山の採掘で発展したこのコロニアルシティは、うわさ以上に美しく、あらゆる場所がフォトジェニックだった。昔の地下道を自動車用に使っているおかげで、市街の中心部はとてもヒューマンなスケールで路地を巡り歩くのが楽しい。

鮮やかで色彩に溢れたメキシコの住宅。様々な色が氾濫していても、明度や彩度が整っているから街全体としてはとても調和して見える。微妙なその色彩コントロールが(おそらく)無意識にできているのは、DNAとして根付いている建築の色彩感だから。後から適当に制定された色彩ガイドラインとは違う。

■ 美しい壁は夜もまた美しく
プエブラはタラベラ焼の産地。旧市街の建物を彩るタイルの壁面。ヒューマンなスケールの旧市街では
夜にはその美しい壁面がライトアップされる。意図的に市街地整備がされていることを感じてしまうこと、
うれしい様な悲しいような。

■ 陰をつくるしかけ
グアナファトのユニオン広場。メキシコではどこの街でも街路樹はトピアリーさながらに刈り込まれていることが多かったがここのは別格。上から見ても平面なのは圧巻。

■ マリア・マリア・マリア
スペイン人が持ち込んだキリスト教が土着の信仰と交じり合い、エネルギッシュな独自の信仰として存在する。街角のガダルーペのマリアはメキシコシティの様々な路地で。プエブラ近郊ではウルトラバロックの教会を巡る。この地域には365個の教会があるという。毎日、どこかの人々が神をいつくしむ。マリアにネオンもこの国では似合う。

■ 熱くて濃い点描の光
革命記念日の余韻でにぎわうソカロ(中央広場)。この広場のスケールに合った独特なイルミネーション。革命の偉人達あり、国旗あり。一人称な光のデザイン。

■ 旅のあかり宿にあり
古いホテルが好きだから、今回もまた美しいあかりに出会えた。記憶の中に留まる灯。 
旅人の思い出にデザインが残る。

■ 世界には100万ドルの夜景がいっぱい
ケーブルカーで上りたどり着いたピピラ記念広場からのグアナファト市街の夜景。
薄暮の時間には、家々の様々な色彩とわずかに灯ってきた街路灯のナトリウム灯のオレンジが混ざり合い、
なんともいえない光景。しばらくすると月が山の向こうから昇ってきた。
夕方から夜へのこのわずかな薄暮の瞬間が一番好きな時間。

■ 街の灯を想いながらその夜もテキーラを一杯