写真1 有権者に郵送された'99年度統一市民選挙のパンフレット(208ページ) |
住民投票選挙は、 大統領選の年の11月のほか、 臨時にその他の月にも行われることもあります。 州民選挙は一般に偶数の年に行われますから、 その年に市民選挙が行われる場合は、 イニシアティブによる州規模の住民投票も市のプロポジションに対する選挙と同時に行われることになります。 これらの選挙の実施過程と有権者登録、 および市の選挙局の行政事務に関して、 11名の一般市民から構成される「市民選挙諮問委員会」が市に意見を上申して、 選挙制度を監視しています。 この諮問委員会は現在、 市長に任命された委員5名、 市議会に任命された委員6名から成ります。
市の選挙局についての詳細は、 次のウェブ・サイトを参照してください。
Department of Election: http://www.ci.sf.ca.us/election/
アミアーノ氏がもし市長に当選すると、 全米で初めて、 ゲイであることを公表した市長の誕生となります。 彼は、 1978年に市庁舎内でモスコーニ市長と共に凶弾に倒れたゲイのミルク市議の後継と目されているようで、 ゲイ・コミュニティを代表するだけでなく、 ブラウン市長に失望しつつあるアフリカ系住民や、 賃貸住宅に住むテナント層にも幅広い支持基盤を持っています。 ジェントリフィケーション(新開発によって既存の零細ビジネスや低所得者住宅などが地区外へ追い出されること)に「宣戦布告」を言明したのは注目されますが、 政策の積極的な具体性にやや物足りない面もみられます。
一方、 現職のブラウン氏は、 州議会時代からの強力な人脈と、 ほがらかでユーモアのあるカリスマ的な人柄を武器に、 次々と大型の計画を実行に移し、 連邦・州政府からだけではなく、 民間からの資金調達の能力が評価されています。 特に、 市長室住宅局が中心となって推進している民間非営利団体によるアフォーダブル住宅の建設は、 彼の任期中に2,600戸が完成し、 さらにほぼ同数が資金を既に確保して今後1、 2年内に竣工の予定で、 前任のジョーダン市長の実績を大きく上回る点は特筆に値すると思います。
地方検察官についても現職のハリナン氏と、 前回敗れてまき返しをはかるファジオ氏の決戦投票が市長選と同時に行われる予定です。 ヘイト・クライム (偏見に基づく、 憎悪による犯罪)、 家庭内暴力、 薬物乱用など、 いま注目されている犯罪に対する取締りや防止プログラムを中心にその政策と信頼性を競い合います。
イニシアティブによる法案提出には大きく分けて2種類あります。 市の憲法にあたる憲章(チャーター)を改正する提案を行うものと、 新しい条例の条項および政策宣言を提案するものです。 憲章改正の場合は、 州の選挙事務所に登録された前回の市民選挙における有権者数の10%にあたる市民の署名を必要とし、 新条例の場合は、 前回の市長選の投票数の5%の署名が必要です。 今回の選挙では、 前者は約4万4,900人の署名を必要としましたが、 憲章改正の5件はたまたま市議会による提案となり、 4人以上の市議の署名で提案されました。 新条例は残りの6件が住民投票にかけられましたが、 それぞれ約1万500人の署名を必要としました。
有権者による法案提出の場合、 提案者は集めた署名と200ドルの申請料をLetter of Intent と呼ばれる趣意書と共に約4ヶ月前までに市の選挙局に提出しなければなりません。 有権者であれば、 誰でも法案を提出する資格がありますから、 まさに直接民主主義のシステムが生きているわけです。 可決されたプロポジションどうしで矛盾・対立がある場合は、 投票総数の多い方が支配することになっています。
そのほか、 11名のスーパーバイザーからなる市議会による法案もプロポジションとして住民投票にかけられます。 今回の選挙では、 11の法案のうちプロポジションAからEまでの5件が市議会から提出されたものです。 一方、 住民投票で採択された条例が、 連邦や州の法規に違反していると見なされたり、 反対派の訴訟によってその施行を裁判所に差し止められた例もあります。
これに対して、 やはり州の選挙法に定められたシステムとしてリファレンダムがあります。 リファレンダムは、 議会やその他の公共機関で決議された政策に対して、 住民が一定数以上の署名を集めてこれを無効とするようアピールを提出して住民投票にかけるもので、 最近ではあまり例がありませんがやはり有効な住民参加の仕組みです。 一般には、 イニシアティブのことを混同してリファレンダムと呼んでいる場合もあるようです。
各プロポジションの概要については後に説明しますが、 それに先立って、 選挙の実施プロセスにも大きな影響を与えているサンフランシスコの情報公開法(サンシャイン条例)について述べたいと思います。
「サンフランシスコ市民は公開された社会を望んでいる。 市民は、 自分たちが知らなければならないこと(即ち、 知らないこと)について決定する権利を、 公務につく者(原文= public servants)に与えない。 市民の知る権利は、 投票する権利と同じく基本的人権である。 真実にもとづいて行動するために、 市民は真実を知る自由を持たなくてはならない」(かっこ内は著者の訳注)。
端的にいうと、 この条例は、 市民の選んだ政治家とその任命する官吏が、 市民の知らないところで、 市政にかかわる決定を行うことを違法とするものです。 したがって、 市議会も都市計画委員会もすべて公開(パブリック)でなくてはなりません。 たとえば、 都市計画委員会は、 定例会議が毎週木曜日(第5木曜を除く)の午後1:30から開かれることになっていて、 8日前の水曜日までに予め書類を提出すれば、 限られた時間内で市民が発言することもできます。 また市議会議員が3人以上で集会を行う場合、 すべて公開すべきことも決められています。 つまり一般市民に会議の日時と場所をあらかじめ公示して、 参加を促さなくてはなりません。
この情報公開法のおかげで、 選挙前に有権者に配布される市民選挙の案内書も徹底的にオープンな充実した情報に満ちています。 たとえば、 前述の市議会による法案の提出に際して、 反対または賛成した議員の名前が明記されていたり、 市長や地方検察官の給与額まで詳細に記されているだけでなく、 その公正で理路整然としたシステムには驚嘆すべきものがありますので、 ここでさらに詳しく説明したいと思います。
まず現状に対して何を提案しているかという観点から「投票簡略化委員会」によって各プロポジションの概要が示されると共に、 有権者がイエスと投票すると結果はどうなるか、 ノーと投票するとどうなるか、 が簡潔に解説されます。 さらに、 選挙委員会が一定基準によって選んだ賛成派と反対派の意見(300語前後)が対比して掲載され、 これらの意見に対するそれぞれの反論が同じ書式と規模でその下に続きます。 つまり、 2ページの見開きに賛否両論2つずつの意見文が一目で見られるわけです。
以上の意見文は賛成派、 反対派のそれぞれの代表陳述として無料で掲載されますが、 そのあと賛成派と反対派の人々が有料のページで意見を自由に掲載します。 これは有料ですから、 必ず掲載されるとは限らず、 一方の側の意見だけだったりすることもあります。 ただし、 掲載されたすべての意見について、 市の選挙局はその内容の正確さを保証しません。
さらに重要なのは、 各プロポジションの最後のページに法案の原文が掲載されていることです。 修正箇所に取り消し線を入れ、 追加箇所を下線で示した原文をすべての有権者が投票前に読めるわけです。 「一般市民には、 専門的な難しいことを言ってもムダ」という考え方は全くないことがわかります。 そして市の財務局長が、 もし法案が採択された場合、 市の財政にどのような影響を与えるかをプロポジションごとに納税者に詳しく説明するサービスまで付いています。
情報公開システムは、 単に多くの情報を公開すれば足りるというものではなく、 一般市民に正しい判断を行う機会を公平に提供し、 それを原動力に政治に参加できる仕組みを充実させてゆくことに深く関わっていることを示すよい例だと思います。
一方、 市のレベルでは、 当地の54チャンネル「シティ・ウォッチ」で、 消防局の広報番組などと共に、 市議会をはじめ、 都市計画委員会などの公聴会が連日放映されています(2-3日前の録画が多い)。 これにも先のサンシャイン法が貢献していると思われます。 また25と27チャンネルの「C-スパン」では、 サクラメントの州議会や、 ワシントン D.C.の連邦議会、 上院の小委員会などが毎日のように放映されています。
またご承知のとおり、 インターネットを通じて連邦、 州、 市政府の立法、 司法、 行政に関する情報はほとんど得られます。 今まで、 サンフランシスコ市のホームページ(www.sf.ca.us.org)は、 連邦政府とカリフォルニア州政府のそれに比べてやや整備が遅れていましたが、 最近急に情報が拡充されているので、 皆さんも大いに利用してください。 たとえば、 都市計画関係についても、 都市計画の憲法にあたるジェネラル・プランやゾーニング条例であるプランニング・コードも現在ウェブ上で建設中で、 2000年早々にはアクセスできるようになるそうです。
日本の国会中継もテレビで見られるようですが、 全国の市議会もすべて地元のテレビで公開されるようになると素晴らしいと思います。 ところで、 このような議会中継をはじめ、 政治に関するニュースなどを見て、 いつも大いに感じることがひとつあります。 それは、 日本の政治家と米国の政治家は、 たとえ類似の問題を共有していたとしても、 国民や市民に対する基本的なスタンスが全く違うのではないか、 ということです。
特に、 日本からの政治関連報道で政治家の発言を注意深く聞いていると、 多くの場合「挙党一致」「閣外協力」「三党連立」「選挙戦を勝ち抜く」などと、 自らの組織と活動の問題に終止しているといっても過言ではありません。 時に「国民のため...」などという表現も聞こえますが、 市民に直接訴える具体的な政策が市民に分かりやすく、かつ詳しく言明されることはまれです。
米国議会では、 与党の共和党と野党の民主党の間で「2党の政策の相違を超えて」いう意味で「バイパーティザン」という言葉もよく使われます(第3の改革党が進出してくれば、 「トライパーティザン」という言葉も出現するかも知れません)。 それでも、 米国議会はもとより、 州、 市のレベルでの政治家の発言は、 少なくとも表向きは国民、 市民に向けた具体的な政策、 それを裏付ける根拠およびそれを支える大義などに関連する話題が中心となります。 さらに、 政治演説では多くの場合、 問題提起と政策提言に伴い、 プレゼンテーション・パネルなどを使って具体例が示されます。 「どこそこの誰々は、 この制度が不備なために、 このような困難を強いられている」というような実例が引用されることも珍しくありません。 場合によっては、 一般市民が証人として議会に呼ばれることもあります。
同じ議会制民主主義でも、 国民、 市民に対する政治家の姿勢がこのように違うのはなぜか、 という疑問には、 いくつかの複合した答えがあり得ると思います。 日本では公務員や選挙で選ばれた政治家には「公僕」という言葉もあったようですが、 最近ではあまり聞きません。 一方米国では、 それに相当するpublic servantとその業務であるpublic serviceという言葉は、 いまだ健在です。 米国の政治家は、 少なくとも建前として「選挙民に奉仕する」という旗印を頭上に掲げており、 またそれがないと選挙民に支持されにくい、 というのも事実でしょう。 「いったん選んだ以上、 選ばれた人にまかせなさい」という考え方ではなく、 選んだ後も常に市民の意思表示が政治に大きくかかわってくる制度が日本でも求められているのではないでしょうか。
日本の政治に関する報道について考えてみると、 これが政治家中心であるのは、 必ずしも報道するメディアの問題ではないと思われます。 ただし、 米国でも「報道の自由」の重大な危機に警鐘を鳴らしている人々がいることも見逃せません。 つまり、 政府の発表などについての報道は、 当局によって用意された声明や報道官の発言をそのまま伝えることが多く、 そこですでに報道管制のフィルターがかかっているという問題です。 メディアが時間と予算をかけて独自の調査を行わない限り、 このような微妙な報道管制は残念ながら避けられません。
そこで、 市議会は9対2の票決で、 20年償還の一般市債を約3億ドル発行することを提案するよう決定しました。 これは事業収益から返済する歳入債券と違って、 納税者が返済する一般債券なので、 通過するには投票総数の過半数ではなく3分の2を超えることが必要です。 これが可決すると固定資産税の負担増をもたらします。 折りしも市が告訴していたタバコ業界との和解により、 今後25年間に約3億5,000万ドルが市に支払われることになったので、 その資金によって負担が軽減されると期待されています。 結局この法案は、 投票総数の3分の2をかなり上回る約73%を得票して可決されました。
フリーウェイの所有者である州は、 市の承認がないとこれを再建できません。 そこで、 再建しない場合、 跡地をサンフランシスコ市に譲渡することを検討しています。 譲渡された土地を市が売却して、 その売上げをオクタヴィア通り(かつての高架の下)の整備と周辺の交通環境改善に使うという計画案です。 さらに跡地の一部にアフォーダブル住宅を含む複合開発も提案されています。 過半数をわずかに上回って可決されました。
市当局は、 フリーウェイを再建しない方針にそって周辺整備計画を進めてきたので、 上記のプロポジションIが市議から提案されたわけですが、 これに対して、 ビジネスに影響を受ける隣接地区の住民が再びフリーウェイの復旧を求めて再度挑戦してきたのがこの提案です。 過半数をわずかに下回って否決されました。 もし可決された場合、 投票総数の3分の2を超えないと再び改正できないことも条文に盛り込まれましたが、 結局フリーウェイ再建派は連敗し、 周辺住民はほっと一息ついているところです。
注:
白熱の市長選
まず市長選については、 現職のウィリー・ブラウン氏をはじめ、 4年前の選挙で敗れた元市長のフランク・ジョーダン氏など14人の候補者が立候補しました。 ところが、 投票用紙の候補者名印刷期限後、 急遽15人目の候補が選挙戦に参加しました。 市議会議長(ボード・オブ・スーパーバイザーのプレジデント)のトム・アミアーノ氏です。 一人だけ記名投票だったアミアーノ氏が後半一気にに追い上げ25%余りを得票しましたが、 首位のブラウン氏が約39%と過半数に到らなかったため、 来る12月14日(火曜日)に両者の決戦投票が行われることになりました。 敗れ去った候補たちの票がどちらに流れるかによって、 情勢は大きく変ってくることが予想されます。
写真2 ブラウン市長再選とプロポジションIに反対、Jに賛成を支持するポスター
写真3 市長選の決選投票に残った市議会議長のトム・アミアーノ氏 (市庁舎前で)
11月末に行われた二人の公開討論会(ディベート)をテレビで見ました。 これは、 政策の各分野の問題について司会者が2人に全く同じ質問を行い、 平等な持ち時間内に意見を発表するものです。 まちづくりの問題に関する限りでは、 アミアーノ氏が既存のコミュニティを保存し、 新しい開発に対して慎重な「成長管理派」であるのに対し、 ブラウン氏は引き続き新しい計画を積極的に推進してゆく「開発推進派」であるとの印象を受けました。
イニシアティブによる住民投票
プロポジションは、 州の選挙法に定められた「イニシアティブ」という住民選挙システムによるもので、 今回AからKまでの11の「メジャー」と呼ばれる法案が有権者に提出されました。 慣例として、 州規模の住民投票にかける法案は「プロポジション200」などのように数字で呼ばれますが、 市の法案はアルファベットで区別されます。 毎回Aから順に告示されるので、 同じ「プロポジションA」といっても、 その年によって全く異なる法案です。
情報公開法(サンシャイン条例)
サンフランシスコには、 行政法の第67条に「サンシャイン法」という情報公開条例が定められており、 その冒頭には、 市政について市民の知る権利と参加する権利が基本的人権宣言(Bill of Rights)として明記されています。 これを訳してみると次のようになります。
日米の議会中継と政治報道
私は、 一般と比較として政治に特別強い関心を持っている方ではないと思いますが、 テレビの議会中継や州議会、 それにサンフランシスコ市議会やその他の公聴会をしばしば見ます。 たとえば、 大学の講義室のような環境で、 緊張の中にもなごやかなユーモアを感じさせるイギリス議会(パーラメント)を見ていると、 真剣勝負そのものの感が強い米国議会(コングレス)に比べて、 どこか大人っぽい成熟さを感じます。 それでも、 原稿を読みあげたり、 きまり文句を並べることの多い日本の国会に比べると、 米国議会では、 弁論術が一種の見せ場をつくり出して大いに興味を引き付けるものがあります。
各プロポジションの概要と賛否
今回住民投票にかけられた11のプロポジションの内容とその投票結果について、 簡単に説明します。 前述のように、 プロポジションAからEまでは市議会による提案、 F以降は一般市民によるものです。 これらの情報の事実関係は、 市の選挙局の資料に基づき正確を期していますが、 その他の解説は私個人の意見であり、 いかなる機関の公式見解でもありません。プロポジションA: ラグーナ・ホンダ病院の新・改築のための市債発行
ラグーナ・ホンダ病院は、 創立130年以上の歴史を持つミッション風の市立病院です。 現在1200ベッドを擁し、 重度身障者や高齢患者の治療施設をはじめ、 アシステッド・リビングやホスピスも含みます。 以前から建物の老朽化が進んでいたことと、 '89年の大地震の被害によって耐震上安全でないと判定され、 連邦政府から改善通告を受けてきました。プロポジションB: 警察官と消防士の退職時の恩典規定の改善
'76年以降に雇用された警察官と消防士はそれ以前に雇用された者より低いレベルの退職恩典を受けています。 そこで、 彼らの待遇を改善しようというのが、 この憲章改正案です。 規定の過半数を十分超えた約71%の得票率で可決されました。プロポジションC: 市議会議員選出地区の定義変更
現在11名いるスーパーバイザー(市議会議員)は、 地区選出ではなく市内全域(at large)から選ばれていますが、 '96年に憲章が改正される以前は、 市内11の地区からそれぞれ選出されていました。 ところが2,000年から再び地区代表制となるため、 その地区の定義に若干の変更を加えるものです。 72%近い得票率により可決されました。 サンフランシスコは、 特徴のある地区(ディストリクト)に分かれていますから、 代表権が偏らないためには正しい方向と言えるでしょう。プロポジションD: 市職員の有給休暇と有償病欠休暇の委譲制度
市の職員が利用しなかった有給休暇と有償病欠休暇(シック・リーヴ)をプールして、 本人や家族が大きな病気や災害を被った他の職員に委譲できるように憲章を改正するもので、 75%を超える圧倒的な支持を得て可決されました。プロポジションE: ミュニと駐車・交通規制局を統合する交通局の創設
現在それぞれ個別の委員会によって管理されているミュニ(MUNI =市電・市バス、 ケーブルカーを運営する市の部局)と駐車・交通規制局(DPT)を統合し、 より強い権限と大きな予算枠確保によって市民の不評を買っている公共交通サービスを向上させようというものです。 60%を超える得票率で可決されました。 市議会次第では、 将来タクシー委員会も統合される可能性もあります。 問題の多いミュニを民営化すべきだという声もありますが、 市長は市営の継続を決意しています。プロポジションF: 銀行の自動窓口利用料金の規制
市内に自動窓口(ATM)を設置する銀行が、 その銀行の口座を持たない利用者に自動窓口使用料を課すのを禁じる法案で、 66%という高い得票率で可決されました。 これに対して銀行各社は、 正当なサービスに対する料金を政府が禁じるのは違憲であり、 また州の認可を受けている金融機関に対して地方自治体の住民が干渉できないとして、 司法の場で争う構えをみせています。 公共的な民間料金を含む「公共料金」は別として、 民間企業の設定する価格に政府が干渉することは、 たとえ住民投票で決まろうと大変由々しいことです。 自由の国アメリカにも時おり台頭してくる全体主義的な動きに我々も警戒しなければなりません。プロポジションG: 情報公開法の改正
前述のサンシャイン条例の条項を修正および追加して、 市民に対する情報公開をさらに徹底させようという条例改正案で、 市の財政に大きな負担増をもたらします。 たとえば、 市の職員が公共政策または事務手続きに関する会合を開く際や、 市の代表が参加する連邦、 州その他の公共機関の会合にも一般市民の参加を求める条項が含まれます。 ただし、 後者については、 上位機関の法規に抵触する可能性がないとはいえず、 どこまで情報公開を進めるかは、 まだまだ奥の深い問題のようです。 58%の得票率で可決されました。プロポジションH: 州営通勤電車の都心への延長
カルトレイン(州交通局の運営する通勤鉄道)は現在ギルロイからシリコン・バレーを通ってサンフランシスコのはずれにある終着駅に到っています。 通勤客はそこから路面電車やバスに乗り換えてダウンタウンとその周辺に通うわけですが、 この鉄道をミッション通りにある長距離バス各社の終着駅「トランスベイ・ターミナル」まで延長して、 大規模な駅ビルを開発しようというものです。 同時に提案されている全路線の電化計画を除いても、 総工費6億2,000万ドルと見積もられています。 このプロジェクトのためには市債の発行もなく、 また一般会計の中からの支出は難しいので、 連邦・州政府からの補助金に頼るほかありません。 反対派は、 他の公共交通機関に割当てられるべき補助金がこの計画に奪われてしまうことなどを理由に反対しましたが、 結局67%の支持率で可決されました。プロポジションI: オクタヴィア通りの整備
この提案は、 4人の市議によって提出されました。 次に挙げるプロポジションJに対して、 正反対ではありませんが言わば対抗案です。 '89年のローマ・プリエタ地震で、 101号線からウェスタン・アディション地区に出るセントラル・フリーウェイが一部破損し、 安全上の理由で2層高架の上層部と最終出入口の周辺が所有者のカルトランス(州の交通局)によって取り壊されました。 取り壊されたフリーウェイの跡地利用を推進し、 その再建に反対しているのがこの提案です。プロポジションJ: セントラル・フリーウェイの再建
セントラル・フリーウェイをめぐっては、 異なる地区の住民間で数年にわたって提案と逆提案の応酬となっています。 '97年にプロポジションHが可決され、 一部取り壊されたセントラル・フリーウェイを州が1層高架構造にして再建することを市民が承認しました。 ところがフリーウェイの再建に反対する地元住民を中心に、 より低いコストで周辺の街路を整備することを提案したプロポジションEが'98年に可決されたのです。プロポジションK: 市議選の選挙活動資金自主規制の改正
サンフランシスコの選挙活動資金条例によると、 選挙活動に支出する額を最高25万ドルに制限することに同意した市議会立候補者は、 他の立候補者より多額の寄付金を受けることができることになっています。 この最高限度額を7万5,000ドルに引き下げようというのがこの法案です(2,000年から制度が開始される市議選の決戦投票に際しては限度額2万ドル)。 80%近い高支持率で可決しました。
住民投票の問題点
以上、 今回の選挙で住民投票にかけられたプロポジションをすべて紹介しました。 このイニシアティブの制度は、 詳細な手続きの改善は今後とも必要と思われますが、 市民が自分たちの問題を自ら解決するという意味で貴重なシステムです。 ただ、 一見先進的にみえるこの制度にも、 次のようないくつかの落とし穴があることにも注意しなくてはなりません。
1)市のレベルを超えた広域の問題や州、 連邦政府にかかわることがらは、 この制度では対処できません。 たとえば、 市民生活に影響の大きい夏時間のスケジュールや航空機の飛行ルートの問題は、 市民とかかわりのないところで決定されています。
では、 次回の話題をお楽しみに。
2)市民が多数決(または3分の2以上)で可決した提案でも、 違憲であったり、 他の公共機関や民間企業が政治的に、 または司法の場で挑戦してくると、 これが無効になる場合があります。
3)住民投票にかけられる、 またはかけるべき案件の定義が明確でないと、 利益団体の政治的な動きに道を譲ってしまいます。 たとえば、 公園として連邦政府から譲り受けたはずのプレシディオに、 映画のルーカス・スタジオを誘致する計画が一部で検討されているとの報道に、 良識ある市民は憤慨しています。
4)上記のプロポジションIおよびJのように、 住民間でプロポジションの応酬となり、 いつまでも問題が解決しないで費用と時間を浪費する事態も起こり得ます。
5)今回、 11のプロポジションのうち10が可決(Yes)となりました。 これは、 まだ証明されていませんが、 浮動票の場合イエスの方が得票し易いのではないか、 という疑いも当然でてきます。 有権者が法案そのものでなく、 文章の技巧に影響されるという問題とも関連しています。
市長選についてですが、 4年ごとに決まった年にあります。 最長任期は2期(8年)ですが、 辞任、 死亡などの緊急の場合は市議会議長があとを継ぎます。 元モスコーニ市長が暗殺されたときは、 ファインスタイン議長が市長になりましたが、 翌年、 規定通りに行なわれた選挙で当選し、 4年後再選されたので、 彼女は約9年市長を務めました。
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