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サンフランシスコ:まちの話題第11号 2001年3月

防犯とまちづくり - 犯罪サミットに参加して

 

改行マーク今回は、 原稿提出がいつもより遅れ、 3月号を待っていてくださった読者におわびを申し上げます。 実は、 先の3月7日にサンフランシスコで開催された「第1回犯罪サミット」という会議に以前から傍聴を申し込んであったので、 今月号では皆さんにその報告をする予定でした。 私は犯罪の専門家ではないので、 自分の分野から余りはずれるような話題には深入りしないように、 とは思いますが、 それでも都市と犯罪との密接な関係については、 まちづくりにかかわる我々の多くが関心を持たざるを得ません。 会議の後半では、 まちづくりにおける防犯の工夫がいくつか見られます。

 

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写真1:第1回犯罪サミットのパネリストたち
 
改行マークところで、 「犯罪サミット」というのはやや変った言い方ですが、 正確には「犯罪に関するサミット(Summit on Crime)」です。 これは、 犯罪の専門家や関係官庁の指導者諸氏をはじめ、 地元のコミュニティで防犯活動や犯罪者対象の仕事に携わっている民間人、 さらに元犯罪者で現在更生している人々などが一同に集まって、 講演やパネル・ディスカッションを行うものです(写真1)。 したがって、 防犯が犯罪を減らす最も有効な方策であることは会議でもしばしば強調されるものの、 必ずしも「防犯サミット」ではありません。 その会議の概要を報告する前に、 現在の犯罪状況を外観してみましょう。


米国とサンフランシスコにおける犯罪状況

改行マーク世界中どこの都市生活者にとっても、 常に最大関心事のリストの上位を占めるのは、 住宅問題や物価などと並んで犯罪であることは周知の事実です。 犯罪、 特に暴力犯罪を社会からなくすことは、 我々の夢にすぎないのか、 犯罪を大幅に減らすには、 その構造的な原因を根絶する必要があるのか、 あるいは、 犯罪の凶悪化は社会の進化や文化の変遷と関係があるのか、 多くの方々が取り組んでおられる問題ではないかと思います。 後節で、 専門家の意見を聞いてみましょう。

改行マークさらに、 犯罪が都市社会に大きく影響する要因は、 犯罪被害の「多重性」です。 加害者ですら社会的な被害者と見なすことも場合によってはあるようですが、 その是非はともかく、 犯罪の被害者は直接の被害者だけではありません。 被害者の家族、 加害者の家族をはじめ、 周辺の人々に修復不能な傷を残します。 もうひとつの大きな傷は、 社会的善意の侵食、 つまり善意を持った人どうしが、 互いに疑い合いながら暮さなければならないということです。 また、 何年か前「ビジネス・ウィーク」という雑誌で、 全米の犯罪コストを試算する特集がありましたが、 長期的捜査や公共的に支払われる医療費のコストなどを総計すると、 納税者にも莫大な負担をかけています。

改行マーク犯罪の凶悪化という問題を考えた場合も、 「種の拡散」、 つまり人類が増えて人間とその生活様式の多様性が増すと、 神により近い人々と共に、 より離れた人々も出現するということが要因としてあり得るのか、 または人間の本質は太古の昔から変らないが、 犯罪の手段が先鋭化して凶悪化しているのか、 あるいは、 心の豊かさの減衰と消費文明にひたった物欲が人々の心を砂漠化させているのか、 それとも加速度的に進展する社会全体のシステムが、 一部の人々に自己管理できないストレスを与え続けるのか、 ひとつの明快な答えはどこにも見つかりません。

改行マークただし米国では、 最近の統計を見る限りその犯罪状況は好転しています。 米国のほとんどの主要都市では、 92年に犯罪件数がピークに達してから、 2000年にかけて毎年ほぼ直線的に減少する傾向にあるのです。 FBIの全米犯罪白書(Uniform Crime Report)によると、 大都市における重犯罪率、 つまり殺人、 傷害、 強盗、 強姦などの重罪事件のうち、 報告された件数を総人口で割った指標は、 95年から99年にかけてロスアンジェルスの40%減少に続いて、 ニューヨークでは34%、 サンホセでは33%、 サンフランシスコでは32%、 それぞれ減少した、 という結果が出ています。 逆に見れば、 これらの都市では、 今まで重犯罪率が高すぎたとも言えます。 なお、 この期間、 例外的に重犯罪率が増加した主要都市は、 インディアナポリス、 フィラデルフィア、 ダラスとなっています。

改行マークサンフランシスコ市内における99年度の犯罪状況を外観すると、 成人の犯罪については、 重罪、 軽犯罪、 違反を含めた犯罪による逮捕者は、 延べ約6万6,000人にのぼります。 逮捕できなかったり、 報告されなかった犯罪も含めると実際の犯罪件数はこれより何割増しかになるはずです。 このうち、 約3万9,000人がDA(District Attorney's Office)と呼ばれる地方検察局に送られましたが、 DAから事件として告発されたのは、 そのうちの約1万9,000人です。 さらに、 その約7,800人が有罪となり、 3,600人が未だ審理中です。 有罪確定者の行き先は、 州立以上の監獄(prison)が約520人、 郡以下の刑務所(jail)が1,250人、 同じく刑務所の実刑でも仮保釈の可能性付き(with probation)が約5,500人、 執行猶予の保護監察が140人、 罰金または賠償命令を受けた者が約200人です。

改行マークこれらの数字からわかることは、 被疑者が逮捕されても、 告発される率はそのうちの29%(19,000÷66,000)に過ぎないということです。 実刑に服する率に到っては、 わずか11%({520+1,250+5500}÷66,000)ということになります。 つまり、 犯罪者にとって犯罪が「割に合う」と読めるような危険な様相を呈しており、 人的、 物的資源の制約という問題を露呈しています。 一例をあげると、 市内の各裁判所では、 裁判官一人あたり一年に約900人の被告に判決を下さなくてはならない状況です。 また、 たとえば駐車中の車の窓ガラスを割って、 ラジオなどを盗む犯罪は日常茶飯事で、 私も何度か被害にあったことがありますが、 その程度では警察も真剣に取り合ってくれないのが現状です。

改行マーク予算面では、 犯罪対策費で最も大きいのがもちろん警察関係です。 2,140人の警官を抱えるポリス・デパートメントは、 2000年度に約2億5,000万ドルを支出しました。 これを市内の人口(80万人弱)で除算すると、 市民一人あたり毎日1ドル近くを警察官に払っていることになります。 そのほか司法関係では、 前述のDAオフィスが同じ年度に2,800万ドル、 一方のPD(Public Defender =公定弁護人)のオフィスは1,300万ドルを支出しています。 特筆すべきは、 97年のロッキアー・アイゼンバーグ裁判所財源法という州法により、 裁判所の費用が州の財源で大幅に補足されることになったので、 市の負担が軽減されたことです。 ロッキアー氏は、 州の現司法長官で、 後に会議に登場します。

改行マークところで、 ひとくちに犯罪といっても、 大きなものは権力の犯罪から、 非暴力ではあっても社会的影響力の絶大な汚職、 背任、 詐欺などの「ホワイト・クライム」をはじめ、 今後ますます蔓延するのではないかと心配されているID窃盗(他人のIDや口座番号などを盗み、 当人になりすまして犯す犯罪)など、 いずれも無視できない重大なものですが、 サンフランシスコを含む米国の大都市における現況を反映して、 サミットの話題はほとんどが青少年の銃による犯罪に絞られました。

改行マークつい先日もサンディエゴの高校で銃撃事件があったばかりです。 学校での銃撃事件は、 「スクール・シューティング」として今や米国の最も悲惨で深刻な社会問題となっています。 さまざまな専門家や政治家が今まで以上の努力を払っているようには見えますが、 なかなかその成果は現れてきません。 サンフランシスコでは幸い、 近年になってスクール・シューティングは発生していませんが、 先月には、 我が家から約3分の所にあるジャパンタウンの一角で、 社会に出たばかりの若い青年が、 20人以上もの目撃者の目前で凶弾に倒れ、 犯人はまだ検挙されていません。

改行マークこのやりきれない状況を、 わがホームタウンだけでも何とかできないものかという期待を胸に抱きながら、 私は、 午前9時から午後4時までのこのサミットを傍聴しました。 次回のサミットに出席してみようと思われる方は、 市長室犯罪サミット係(TEL. 415-554-4719)または、 会計監査官のプロジェクト・オフィス(TEL. 415-554-7500)に連絡されることをお勧めします。 予め登録しておけば誰でも参加でき、 市から充実した資料のパッケージとランチが提供されます。 では、 以下に会議の概要を報告します。 なお、 括弧内の注は筆者によるものです。


犯罪サミットの概要

1. 開会宣言 サンフランシスコ市長、 ウィリー・ブラウン

改行マーク昨年(2000年)度、 当市は通常の予算を1億2千万ドル上回る予算を計上して、 防犯をはじめとする犯罪対策を行った。 それにもかかわらず、 市内における犯罪件数は依然として多すぎて、 市民の恐怖心は取り除かれていない。 これは、 関連各官庁の連絡、 調整の不足にも一因がある。 また、 犯罪の目撃者が報復を恐れて当局に報告しない傾向が昨今特に憂慮される。 犯罪対策の各局面で顕著な効果を生じ得る具体的な対策が今求められており、 防犯面では、 青少年のギャングなど、 フォーカス・グループに積極的に働きかけるアウトリーチ・プログラムや、 近隣街区の特色に合わせて個別にしつらえたブティック的なアプローチが必要である。 今後数年間、 我々の取り得る対策を模索するために、 この第1回サミットを開催する。

2. 開会の辞 カリフォルニア州司法長官、 ビル・ロッキアー

改行マークカリフォルニア州では、 昨年3,300人が銃によって死亡した(自殺を含む)。 銃器に対する容易なアクセスが大きな障害のひとつである。 全米の銃砲店の数は、 ハンバーガーのマクドナルドの全店舗数の4倍にも達する。 「サタデー・ナイト・スペシャル」(発見しにくい超小型拳銃)の禁止など、 カリフォルニア州は他州に比べて厳しい銃規制を実施しているが、 それでも昨年度は、 前科者や精神異常者で銃の保有を許可されていない者が5,000人も不法所持で逮捕された。

改行マーク当オフィスでは、 データベースで常時150万件もの事件を扱っているが、 法執行官を一般市民がサポートできるように、 より積極的なアプローチが必要となる。 たとえば、 目撃者に対する犯人の報復という問題については、 目撃者の移転費用を州から各市のDAオフィスに返済している。 州の犯罪対策予算は、 年間数十億ドルにのぼるが、 その約90%が犯人の逮捕、 告発、 留置などに費やされており、 防犯のための予算は10%にすぎない。 防犯予算の割合を大幅に増加しなくてはならない。

改行マーク安全に対する教育は家庭から始まる。 たとえば、 子供の脳は4歳までにその94%が形成されると言われているが、 それと同じく、 防犯対策も早い時期に行わなくてはならない。

3. 効果的な対応−ボストン・ガン・プロジェクトと停戦作戦(Operation Ceasefire)
ハーバード大学ケネディ・スクール研究員、 デイビッド・ケネディ

改行マーク私は過去20年間、 暴力犯罪、 特に銃による犯罪を米国をはじめ外国諸都市について研究してきた。 ボストンでは、 80年代末に青少年の銃撃事件による犠牲者数が最高を記録したが、 90年を境に減少を続けている。 我々のチームは94年からボストンの青少年、 特にギャングと呼ばれるグループ(注:ドーチェスター、 ロクスベリなど主に南部地区に散在する約50の団体)の銃による犯罪を警察と共同で研究し、 対策を実施してきた。 また、 ギャング間の正確な関係図(スライドで説明)を作成し、 それぞれの抗争の状況を評価し、 96年から彼らに対する干渉作戦を開始した。 これは「停戦作戦」と呼ばれるもので、 各グループのリーダーたちと緊密な連絡を取り合い、 積極的に集会を持って、 一種のビジネス・ディールのような取り決めを行ってきた。 彼ら自身が被害者となることを大変恐れていること、 できるだけ最初に停戦協定を破りたくないと考えていることなどが明らかになった。 さらに、 協定を破った場合の厳罰処置を定め、 犯罪者に銃を売る密売者の取締りを強化した結果、 青少年の銃による死亡事件が3ヵ月間で約20%減少した。 彼ら1,200人ほどのメンバーが、 市内全体の殺人事件の60〜80%を起こしてきたので、 その効果は大きい。

改行マーク我々は、 このプロジェクトの経験から次の3つの重要な点を学んだ。 まず、 作戦の基準を確立すること、 次に彼らを救ってやること、 つまり停戦後の安全を保障してやること、 もうひとつは、 責任関係に固執することである。 サンフランシスコでもかなり短期間で効果が上げられると思う。 ただし、 当局の側の正直さとモラルが欠かせない要素である。

4. 暴力犯罪、 全米の状況 米国司法副長官、 エリック・ホルダー

改行マーク犯罪は孤立したものと考えがちだが、 それは大いに誤っている。 社会システムの欠陥、 失業、 親の責任放棄などが複雑にからみあって、 犯罪を成立させている。 連邦政府のプログラムだけでは、 地元のコミュニティの問題は解決できない。 各レベルの戦略的パートナーシップが、 将来の犯罪問題の中心的課題である。 たとえば、 各市から現在68,000人の警官が参加して、 連邦政府の「コップス・プログラム」で訓練を受け、 地元住民との連携の方法を学んでいる。 幸いFBIの犯罪指標は、 数十年来の最低を記録しているが、 今後も短期的な処置と長期的な防犯対策の組み合わせを実施してゆくべきである。

5. パネル・ディスカッション- 何が有効で何が無効か

改行マーク暴力犯罪には因果関係の悪循環が組み込まれており、 その循環を絶ち切ることが課題である。 また、 継続的に当局がコミュニティと協力関係を保つことが、 今までないがしろにされてきた。 たとえば、 警察と学校との日常的な連携の強化が必要。 学校警察(注:市内の中学・高校・大学にはそれぞれ警官が常駐している)の存在や、 青少年防犯プログラム、 たとえば非行に陥り易い青少年(at risk kids)のためのミッドナイト・バスケットボール(注:オークランドで成功を収め、 サンフランシスコにも採用された)、 仕事の斡旋、 非行青少年に更生の機会を与えるガーデン・プロジェクトなどが効果をあげてきた。 特に青少年の暴力犯罪の多いハンターズ・ポイント地区では、 いま「治安活動リーグ」の施設を計画中である。

改行マーク犯罪捜査の面では、 犯罪のさまざまな分野の専門家の参加を得て、 初期捜査の段階から犯罪の構造を解明するための「立体的捜査」が欠かせない。 警察とコミュニティとの関係については、 おそらくパトロール・カーによる巡回は相互関係を最も傷つける方法であろう。 より多くの警官が自転車や徒歩による巡回を行うことが望まれる。 ゴルフ・カートによる巡回も検討されている(笑)。 警察官にも法執行官としてだけではなく、 コミュニティの一員としての自覚が必要。 それによって初めて、 防犯的な活動が可能になる。

6. サンフランシスコの司法制度 市財政局長、 エドワード・ハリントン

改行マーク99年度、 サンフランシスコでは成人と未成年による重罪事件が4万5,000件発生した。 重罪率は、 全米15の主要都市の平均をやや下回る。 ただし、 暴力犯罪については約63%しか報告されていないと推測される。 銃による犯罪は圧倒的に市の東部と南部地区に多発している(図1)。

 

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図1:99年に市内で発生した銃による殺人および傷害事件−犯罪サミットの資料より。黒丸1個につき1件
 
改行マーク99年度の司法関係の予算総額は約4億ドルで、 特にサンフランシスコでは75年からユニークなCMS(Court Management System)を採用している。 これは、 裁判所、 市警察、 郡警察(シェリフ)、 保健所、 刑務所、 それにFBIや州警察を含めた25前後のエージェンシーを中央制御データ・ネットワークで連結するシステムである(注:各省庁がシステムをアップデートすると、 他との連絡に支障をきたすことが問題化している)。

改行マーク銃犯罪については、 社会的な影響の大きさから司法関係だけではなく、 市の人権問題委員会も積極的にコミュニティのアウトリーチ活動を展開している。

7. ドキュメンタリー映画「銃による暴力:ザ・シティ・スピークス・アウト」
SF 人権委員会、 SF公衆衛生局製作

改行マーク銃犯罪の犠牲者となった家族や友人、 およびコミュニティ・リーダーたちの証言を集めたドミュメンタリー。 映画の後、 各近隣住区の防犯タスクフォースなどで活躍している青少年数人がスピーチ。 清潔で安全に見える物理環境が重要という意見のほか、 テレビやコンピュータ・ゲームなどメディアの無責任さを非難する声が目立った。 コミュニティにおける特定のプログラムが防犯に効果をあげたならば、 長期的な公共の補助を保証されるべきだ、 という見解にも説得力があった。

8. パネル・ディスカッション−青少年の暴力:防犯と干渉

 民間防犯団体「ブラザーズ・アゲンスト・ガンズ」、 ショーン・リチャード

改行マーク95年に兄弟を銃撃事件で失い、 この団体に参加した。 最初は復讐を考えたが、 もっと快適な解決方法があることが次第にわかってきた。 暴力犯罪はしばしば麻薬がからみ、 公衆衛生の問題でもあるので、 市の公衆衛生局ももっと力を貸してほしい。 当団体では現在、 ジェネラル病院での刺青除去プログラムや暴力防止ネットワークなどの活動にも協力している。

 バーナル・ハイツ近隣センター、 ギャング・カウンセラー、 ルディ・コルプス
 (注:もとギャング・メンバー。 市の保護監察局などにも、 もとのメンバーが何人か雇用されている。 )

改行マークサンフランシスコには数多くのCBO(Community Based Organizations)があるが、 資金が足りなすぎる。 犯罪対策全体の資金が足りないのではなく、 資金の行き先が間違っているに過ぎない。

 デランシー・ストリート財団創立者、 Ph.D. ミミ・シルバート
 (注:元受刑者と麻薬中毒者の生活再建のために、 低所得住宅の建設と運営、 および共同生活に参加させ、 過去27年間に12,000人を「卒業」させてきた市内では有名なコミュニティ活動家。 )

改行マークとにかく実行あるのみ。 第一ステップとして議論は重要だが、 最適な人材に資金を投入して活動を起こさせ、 遅々としたプロセスから抜け出すしかない。 デランシー・ストリート財団は、 最近トレジャー・アイランドでライフ・ラーニング・アカデミー(非行青少年の更生・職業訓練施設)を運営しており、 来たる6月には何人かの卒業生が社会に復帰する予定。 子供のための職業訓練所をもっと拡充したい。

 SF市公定弁護人、 市長室刑事司法評議会会長、 キミコ・バートン
 (注:若い日系の美人だが、 犯罪者をリードするような貫禄がある。 )

改行マーク学校の犯罪では、 誰もが「ゼロ・トラレンス」(注:いかなる非行にも断固厳しく対処する意)という方針に飛びつくが、 それは近視眼的な見方だと思う。 非行青少年に対する包容力が肝要。

改行マーク(注:いま学校の現場では、 小さな非行に対して厳格過ぎる方針を修正しようという声が聞かれる。 ただし、 銃による犯罪対策としては、 微小な兆候を早期発見することの重要性が強調されている。 )

 SF保護監察局精神生活コーディネータ、 トニ・ダンバー師

改行マーク暴力は我々の文化の一部だ。 子供たちは、 生まれながらにその文化の中にいる。 彼らに必要なのは、 彼らを愛することのできるソーシャル・ワーカーだ。 「誰も自分を気にかけてくれない」という状態が最もいけない。 暴力は家庭から始まる。 テレビを消して、 外に出よう。 そして声を大にして叫ぼう。 子供たちを刑務所から返せ、 危険な街路から返せ。 できれば、 墓場からも返せと。

 

改行マークその他、 公立高校の校長は、 学校での防犯は人間関係と情報収集の2点に尽きること、 教師だけでなく、 多分野の専門家から成るチームとして対策を実施していること(注:日本の学校でも、 専任のカウンセラーが登場してきた)を指摘した。 また 「オメガ・ボーイズ・クラブ」という民間防犯団体の「ストリート・ソルジャー」を自認するシニアの男性からは、 誰かが犠牲になってから対策を講じるのでは遅すぎる、 青少年はみな我々の子供だ、 市当局はもっと真剣に取り組んでほしい、 という要望が出された。 SF公衆衛生局局長は、 ライフ・ラーニング・アカデミー(前述)などの方が刑務所を作るよりよほど安上がりにつくことを例に挙げて、 防犯対策は公共の資金を大いに節約できることを強調した。

9. パネル・ディスカッション−犯罪対応のコーディネーション

 保護監察局成人担当部部長、 アルマンド・セルバンテス

改行マーク保護監察(probation)のコンセプトを、 本来の意味(注:更生できるかどうか試す= prove)に戻してゆきたい。 それには、 我々の部局内での文化を変えて行くことが必要だ。

 連邦捜査局(FBI)ベイエリア担当官、 ビル・スミス

改行マーク当局では、 暴力犯罪の件数を減らすことを最大目標にしている。 捜査官に残業手当てを払って、 犯人逮捕のための調査を日夜続けている。 凶悪犯罪に対しては逮捕するだけでなく、 財産も没収する権限も行使している。 最近の「セイフ・ストリート・イニシアティブ」というプログラムでは、 地方自治体との協力体制を整備して、 照会事件の約75%の逮捕率を達成した。 特にサンフランシスコ、 オークランド、 リッチモンドの3市の市警とは、 FBIデータ・リンクを結んで、 情報交換のネットワークを確立している。

改行マークその他、 先のケネディ研究員の各戸訪問システムによる「防犯サービス」の奨め、 市の地方検察局局長テレンス・ハリナンのコミュニティのNPOとの協力強化の提案、 市警のギャング・ユニット・オフィサーや郡警察からの実情報告などが続いたあと、 最後にブラウン市長が再び登場し、 CBO(前述)を警察の延長として生かせるように工夫することと、 311-SNITCH(密告の意)などというホットラインを設けて、 一般市民による犯罪の通報を促す旨が閉会の辞として述べられた。


銃規制と銃禁止の問題

改行マーク各界からの豪華メンバーが一同に会したこのサミットが終わって、 ふと感じたことは、 銃規制の強化、 さらに特定の銃の所持禁止の問題に誰も触れなかったことです。 日本では、 一般市民が銃を所持することは禁じられているので、 日本人はどうしても「米国ではなぜ、 銃の所持を禁止できないのか」という疑問を持つことになりがちです。 この問題について私も長年にわたって考えてきたので、 ここでその深層を流れる事情について述べたいと思います。

改行マークある統計によると、 米国では約2,000万軒の1戸建て住宅があり、 その26%は1エーカー(約1,200坪)以上の敷地に囲まれています。 ということは、 それらの家に住む住人は、 隣近所との付き合いはあっても、 隣で何が起こっているか分らないほどプライバシーが高いということです。 つまり、 昼夜にかかわらず、 武装した強盗が侵入してきても隣人に助けを求めることは、 それほど簡単ではありません。

改行マーク1〜2年前のことですが、 サンフランシスコ近郊のある町の高級住宅街でこんな事件がありました。 若い夫婦が新しい家具を買って家に配達してもらいました。 ところが、 その2人の配達人が様子を調べておいたその家に、 夜になってから武装して押し入ったのです。 奥さんがうっかりドアを開けてしまった後、 ご主人と犯人一味が家の中で銃ち合い、 ちょうど居あわせたご主人の兄弟が加勢して犯人の一人は射殺されましたが、 運悪くご主人も凶弾に倒れました。 もう一人の犯人は負傷して逮捕されました。 この間、 近所の人は誰も気がつかなかったのです。

改行マークこのような状況に身を置いてみると、 郊外の住宅では誰もが万一のために銃を所持していても何ら不思議はありません。 もちろん、 一般の人より犯人の方が銃撃に長けているのでかえって危険だとか、 身を守ることよりも、 暴発などによる被害の方が多いのではないか、 とかさまざまな議論はあります。 しかし、 銃の所持禁止ということが、 米国ではまるでタブーのように誰も口に出さない理由のひとつには、 このような背景があるということが理解できるかと思います。

改行マーク「銃社会」が存続するもうひとつの、 おそらく最大の理由は、 ご存知の方も多いと思いますが、 米国憲法の修正第2条です。 極めて簡潔な条文なので、 以下に原文を記します。

改行マークたった1行余りの文章ですが、 これによって銃による武装が憲法で保証されているのです。 前半は市民軍についてですが、 それについてはともかく、 後半の“keep and bear arms”が問題の箇所です。 その部分を直訳すると、 「人民が武器を保管し、 それを身につける権利は侵害されてはならない」となります。 “arms”というのは、 武器というより銃火器(firearms)と解釈するのが自然でしょう。 「銃を身につける」については、 「腰にぶらさげて町を歩く権利がある」とも取れます。 「建国の父」たちがこの憲法を作成した時には、 おそらく将来の社会の変化も予想して、 条文にはその時代に応じた解釈ができるだけの幅を持たせてあった、 と私は思います。

改行マークしたがって、 “arms”の解釈も時代と共に変っても仕方ありません。 たとえば憲法を修正しないで、 解釈の上で「機関砲および自動小銃は禁止する」などと、 市民の良識とその地方ごとのコンセンサスによって、 決めればよいわけです。 どのように解釈しても「一般市民が銃を所持してはならない」とはなり得ないことが、 ここでは明らかです。

改行マークところで、 有名なブレイディ法という銃砲規制法があります。 これは81年のレーガン大統領暗殺未遂事件の時に負傷して半身不随になった元補佐官のジェームス・ブレイディ氏が中心となって93年に成立した法律で、 銃の購入の際に5日間の調査期間を設け、 購入者の犯罪歴を調べて銃が不法者の手に渡るのを防止するものです。 この程度の規制法でも成立までに7年もかかりました。 それは、 全米ライフル協会をはじめとする「ガン・ロビー」の強力な抵抗にあったからです。 銃砲業界と政治家との癒着は、 政治献金制度を改革しない限り変りようがありません。

改行マーク以上のような状況に基いてサンフランシスコをもっと安全なまちにできないか、 ということを考えたとき、 現実的な対応のひとつとして可能性が十分あるのは、 殺傷力の低い特定モデルの銃以外のすべての銃火器の所持を市内で禁止する法案をプロポジションとして住民投票にかけることです。 これならば、 先の憲法修正第2条を盾に抵抗するであろう「ガン・ロビー」にも十分対抗できます。

改行マーク一般市民には、 自動レボルバーや貫通力の強い銃弾は必要ありません。 何よりも、 過密都市でそのような銃を使うと、 壁ひとつ隔てた隣家の住人や一般通行人を巻き添えにする可能性も大きくなります。 ただし、 もしその法案が成立して執行するとなると、 大きな混乱が予想されます。 たとえば、 カリフォルニア州で他州からの車に実施している農作物の抜き打ち検査のように、 サンフランシスコの市境かどこかで違法銃の検問所を設けなくならないかも知れません。 そこまでサンフランシスコが銃規制されるかどうか、 それにはあと何年かかるか、 全く予測できません。

改行マークサンフランシスコ市にとってグッド・ニュースは、 市の弁護士事務所が99年5月、 3つの銃小売業協会、 銃火器製造業者28社、 および国内外の7つの流通業界を相手取って訴訟を起こしたことです。 これらの業者が無責任な不正手段で銃を販売しているため、 不法者の手に銃がわたっている、 というのが主な訴因です。 同じく市は96年、 全米に先がけてタバコ業界を相手に訴訟を起こし、 業界は州内の58郡すべてと4大都市に120億ドルの補償金(サンフランシスコへの分配はその約20分の1)を25年にわたって支払うという判決を勝ち取りました。 これに習って、 銃火器業者から損害賠償金を勝ち取り、 防犯、 教育、 安全対策などに充てようという断固とした姿勢がうかがわれます。

改行マークでは、 次回の話題をお楽しみに。

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