阪神大震災復興市民まちづくり
vol. 2

序文


序・非常時から平常時への移行

 「もう」というか、 「やっと」というか、 大地震のあの日から7カ月が過ぎました。 「あっというま」だったのか、 「どうにか」だったのか、 疾風怒濤のようなこの7カ月の月日を思い返すと、 ややくたびれたなあという感慨と、 いよいよこれからだという決心が交錯しています。 それにしても、 すべてに優先してなにものにも左右されず突っ走って来た<復興市民まちづくり支援>への、 さまざまな雑音・反目、 妬み・批判がやっと追いつき、 聞こえてくるようになりました。 日常的な政治・行政・生活・文化の諸相が戻りつつあることの証左なのでしょう。

 呆然としていた震災1週間の後に、 これから半年の間、 「すべてに批判はしない、 特に震災前のことを持ち出してとやかく言わない」、 「自らの判断のみで行動し、 呼びかけ、 支援する」と決めた。 当時、 新聞テレビをにぎあわせていた多くの批評指摘や反省追求を、 被災地の真っ只中から見聞きして、 何ともピントはずれの能天気な、 いいかげんにしろ。 そんなことは、 しばらく、 せめて半年言うな。 批判は、 緊急事態における即時対応に害にこそなれ、 何の益にもならないこともよくわかりました。

 今回の大震災対応で、 私はだれに対しても「何か手助けすることはありませんか」という問は一度もしなかったし、 どんな場所でどんな場合でも、 自分の判断のみで、 被災地域住民や自治体関係者に断りも遠慮もしませんでした。 最も手助けを必要としているだろう人々を自分で見つけ、 自分にできることを勝手にする。 それが、 非常時のすべてであり、 ボランタリーということの原点であると今でも思っています。 その時ものをいうのは、 常日頃の訓練と反射神経です。 本番のファインプレーやウルトラCの裏には百倍する練習の失敗があります。 平常時にやってないことを、 突然の非常時に「この際」と頑張ってみても、 所詮やってきていないことはできません。


 なんとか7カ月がたって、 非常時から平常時への移行がすべての局面で地滑りのように進んでいます。 それは、 被災地域の被災市民にとって、 奇妙な違和感で受け止められています。 この感覚は、 遠い記憶の底にひっかかるものがある、 何だろうか。 35年ほど前の安保闘争の街頭デモ、 25年ほど前の大学紛争解放区でのあの何者にも差配されない、 つかのまの自由空間とその後の閉塞状況に移っていった日々とそっくりです。

 私たちは、 大震災という非常事態における対応生活を否応無く自分たちだけ(それもついご近所やとても親密な人々と無私のボランティアたち)でまかなってきました。 多くの不自由はありましたが、 それに倍増する自由と相互扶助からなる自律生活コミュニティ社会を知ってしまいました。 あの突然に始まったやむおえない手作りの日々を、 わずか半年というのに、 なかったことにしようという現代社会の仕組みに、 黙って従うわけにはいきません。

 緊急避難から応急仮設、 暫定生活の暮らしがあって、 それの延長線上にしか、 家々の再建、 将来の街の復興はありません。 復旧から復興への連続的対応策がいま必要であり、 目標となる復興計画内容(この6カ月で、 5年10年先の希望を本当に組立・提示することができたでしょうか)に倍する移行計画策定努力が必要になっています。

 今なお残る1万人弱の避難所生活者、 4万戸をこす仮設住宅入居者、 さらに膨大な転居や在宅の被災者など、 精神的・肉体的・物質的に大きな打撃をうけ、 明日の暮らしに不安を抱き、 将来の生活再建に展望をもてない人々が圧倒的です。 こうした人々が一刻も早く、 普通の生活を取り戻し、 将来の希望を見いだすことができるような、 被災者復興の現在から未来への移行を念頭においた対応が重要であると思います。


 復興まちづくりをめざす土地区画整理事業や市街地再開発事業が、 当初の強引な都市計画決定のボタンのかけちがい状態から少しずつ動き始めています。 地域住民と行政担当者の話し合いの場が多くもたれ、 私たちまちづくりコンサルタントも協力して、 各地でまちづくり協議会の結成が進んで来ています。 例えば、 区画整理事業地区では、 各地区以下のような協議会がつくられて、 住民中心の計画検討がスタートし始めています。

 こうした<まちづくり協議会>が、 何はともあれ、 土地区画整理事業への取り組みはもとより、 市民まちづくりの出発点であると考えます。


 また、 これらのうちの多くで、 それぞれ特徴をもった「まちづくりニュース」が発行されています。 できるかぎり呼びかけてこの冊子に収録合本しました。 こうした復興に向けた地域の生の声に耳を傾けていただき、 これからも果てしなく続く「復興市民まちづくり」に、 今後ともあたたかいご支援をお願いいたします。

  1995年8月16日

*これは「新都市」8月号掲載原稿を修正加筆したものです。

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