阪神大震災復興市民まちづくり
vol 5

序文


序・被災地の春―新たな地平の開拓に向けて

 阪神・淡路大震災被災地に再び春が巡り、 満開のコブシやモクレンの白い花が豊かに淋しい。 桜はつらい。 被災地の春に、 3つの新たなネットワークがスタートした。 それらはこの1年間進めてきた復興市民まちづくり支援ネットワークの重要なサブ・プログラムの発展的かつ拡散的な展開といえる。 少なくとも私たちにとっては、 新たな仲間との新たな地平の開拓にあたる。

 市民まちづくりは、 ハードな街の基盤(道路・公園)や住宅・建築だけではどうにもならない。 被災地の調査から人々の活動支援、 そのための場所(復興まちづくりハウスなど)の確保、 ニュースの発行、 VTR記録の作成など多岐にわたるソフトな支援も欠かせない。 もちろん各種イベントやさまざまな個別プロジェクト支援も重要だ、 福祉ケアや緑花再生などに至るまで。

 ●震災復興・実態調査ネットワーク(被災地定点調査交流会)が4月4日から始まった。 昨年2月〜3月に全国のボランティアの協力も含め、 関西の大学生など(特に、 東は大阪芸術大学、 西は神戸芸術工科大学の両芸術系学生の黙々とした献身的努力を建築系・計画系の関係者は深く記憶に刻み込んでおかねばならない)延べ1000人によって阪神・淡路大震災被害実態緊急調査(被災度別建物分布状況図/震災復興都市づくり特別委員会)が調査作成された。 その結果は、 阪神・淡路の市街地被災状況を一様に概観できる唯一の原典資料となった。 それだけでなく、 参加した多くの学生・関係者が、 その後自らが調査した地区の復興へ、 何らかの関与を続けていく元となったといえる(例えば、 西宮―復興まちづくり支援ネットワーク、 芦屋―大阪大学+ASIYA倶楽部など)。 また、 各地でそれぞれの自主的な関与により、 被災地の定点観測調査が続けられている。 動機はさまざまであり、 それにあわせて調査内容もさまざまである。 しかし、 いずれも3カ月ごと程度に愛情をもって各フィールドを巡り歩いている。 そうした、 震災復興に向けた実態調査のデータと関係者の交流を図ることを目的としたネットワークである。

 ●長田・協同居住支援団(NAGATAコレクティブケアネットワーク)は、 コレクティブ・ハウジング事業推進応援団の早急な結実にあわせて、 発足したネットワークである。 コレクティブ・ハウジングが特に被災地高齢者の新たな住宅としてモデル建設される動きが急である。 それらのソフトな仕組みを十分用意することなしに、 入れ物となる協同居住型住宅が建設されれば、 どうなるか。 せめて長田区におけるコレクティブ・ハウジングのケアを考え、 支援する取り組みをスタートさせる。 福祉ケースワーカー、 看護婦、 医師、 ボランティア・コーディネーターなどの人達と、 住宅・建築・まちづくりプランナーなどの総合的な協同居住支援団である。

 ●ランドスケープ復興支援会議(阪神グリーンネット)は2月6日に発足した。 私たち市民まちづくり支援ネットワークは、 阪神市街地緑花再生プロジェクトとして第1段階:ガレキに花を(ガレキの花畑化)を昨年4月以来進めてきた。 今年の春いよいよ家々の再建が始まり、 第2段階:家々に苗木を(敷地に記念樹を)を始める時期に来ていた。 こうした動きに呼応して、 緑花や造園の専門家が声を挙げ被災地のランドスケープ復興支援に乗り出すことになったグリーンネットである。

 ライフライン・道路鉄道港湾などの復旧のスピードには目を見張るものがある。 さすが先進国日本(もちろん皮肉)。 それらに合わせるかのように、 大震災への関心の風化、 中央との温度差。 再び巡る被災地の春に、 「すまい」を前提とした「くらし」の復興は遅々として先がみえていない。 復興まちづくりの息吹は確かではないが、 それでも着実に一歩ずつ進められている取り組みがあることを頼りに、 していきたい。

  1996年5月22日


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