きんもくせい20号
(1995年12月8日)

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阪神大震災復興市民まちづくり支援ニュース
阪神大震災復興市民まちづくり支援
ネットワーク事務局発行

テキストのファーストアップは Nifty GHA02037 つじさんによる

“白地地域”のまちづくり協議会結成
−西宮市・安井地区−

 西宮市安井地区における被災状況は、 全壊・半壊を合わせて全住宅棟数の半数を越えるという非常に大きいものでありました。

下図に示すように「安井地区」は、 被害の大きかった西宮市のなかでも「甲東地区」「広田地区」とともに甚大な被害を受けた地区であり(住宅の全半壊率が約5割−西宮復興まちづくり支援ネットワークの調査による−)、 何らかの支援によるまちづくりの取り組みが求められていました。

 公費解体による被災建物の除却が急速に進み、 まちに空地が広がっていく状況の中で、 この地域に高層マンションの建設や震災前よりも相当規模の拡大した建替計画が現れてきました。

また、 未整備の東西幹線道路である山手幹線の整備も浮かび上がって来ました。

もともとこのエリアは高層の建物がまれで、 せいぜい5階までの中低層住宅が中心のおちついたまちでありました。

このような震災前のまちの環境を一気に変え得る整備計画が相次ぐ中で、 住民自らの手で復興を考えようという気運が芽生えて来ました。

9月19日には「安井の復興を考える」をテーマに地域懇談会が開催されました。

 一方、 都市計画、 建築の専門家等で構成する西宮復興まちづくり支援ネットワークは、 震災直後から西宮の被災調査、 復興課題の抽出、 復興方針の提案等を行ってきており(「きんもくせい」13号参照)、 9月にはこれらの活動をもとに「西宮復興地区別まちづくり計画」という冊子をまとめました。

先に述べたように、 安井地区はネットワークの調査においてまとまった支援が必要な地区として浮かび上がってきていました。

こういった活動がきっかけとなって、 9月19日に行われた地元懇談会にネットワークメンバーも参加し、 安井地区の支援を行うことになりました。

 安井地区はいわゆる“白地地域”で、 都市計画事業(土地区画整理事業や市街地再開発事業など)の網がかかっていない地域です。

このような“白地地域"でのまちづくり協議会の取り組みは、 行政の支援が手厚い都市計画事業区域に比べ立ち遅れており、 住民自ら立ち上がる他ありません。

その点で、 このような安井地区の取り組みは前号で紹介した灘中央地区(神戸市灘区)とともに、 被災地の約8割を占める“白地地域”復興の先進であり、 今後の住民、 行政、 専門家が協力した復興まちづくりが期待されています。


安井まちづくり協議会・発会式(11/29)


西宮市の被災状況の概況


区域面積:約90ha

●町丁別住宅被災状況   町丁  全半壊率  町丁  全半壊率
  安井町  55%  千歳町  55%
  寿 町  37   平松町  60
  常磐町  35   分銅町  60
  末広町  36   江上町  59
  城ヶ堀町 38   枦塚町  38
  中前田町 54   中須佐町 49
p1


ストックホルムのコレクティブ ハウジング

−フェルドクネッペンの夕食をよばれて−(被災地にコレクティブハウジングを!/その4)

石東・都市環境研究室  石東 直子

 9月ある夕刻、 雑誌の写真からのコピーを頼りに、 フェルドクネッペンを訪ねた。

正確な住所は知らないが、 国鉄ストックホルム南駅のすぐそばと聞いていた。

友人の小谷部育子さんが親しい住人に、 わたしが訪ねていくので夕食も一緒にできるようにと連絡してくれていた。

住居を中心に再開発された駅周辺の新市街地と、 100年、 200 年も前の建物が続く旧市街地との接点にそのアパートはあった。

1階に豊かな共有スペースを取っているため、 連続したアパート群の町並みにアクセントを添えている。

入居者は12歳以下の子供と同居していない40歳以上という条件があり、 現在の住人51 人(43戸)は、 40歳から86歳で平均年齢は55歳だそうだ。

このうちの何人かはこのプロジェクトの計画段階から参加しており、 5年かかって計画をつめ、 コーポラティブ形式で建設したコレクティブ ハウジングである。

ここでの生活はそれぞれ独立したアパート(36〜76m2の9タイプの住戸)での普通の暮しと、 多様な共有スペースでの住人同士の豊かな交流がある。

協同居住のメインの義務は6週間に一度巡ってくる5日間(月曜から金曜の夕食)の食事づくりである。

数人がチームで食事を作り、 住人が一緒に食事をとる。

食事当番の義務は負うが、 食べる食べないの自由はある。

夕食時間は5:30〜7:00PMで、 私が訪ねた日の夕食人数は32人だった。

32枚のスープ皿が用意されて、 残っているお皿の枚数でまだ食べに来ていない人数が分かる。

食事のクーポン券はまとめて買っておき、 食事の都度もってくる。

食事の雰囲気が実に楽しい!

 三々五々にやってきて、 セルフサービスで食事をよそって、 好き好きにテーブルに着く。

4、 5人のグループもあれば、 10人以上のグループもある。

テーブルごとにおしゃべりに花が咲き、 いろんな世代、 職業の人たちの情報交換がすすむ。

大家族のような雰囲気でもあり、 学生食堂のような賑やかさでもある。

魅力的な時間である。

 E&E夫妻と私のテーブルには今週の食事当番の一人がいて、 本日のスープの作り方、 食材の買い出しのことなど話してくれた。

今日のメニューはとても味のいいスープがメインディシュで、 じゃがいも、 ラディシュ、 青野菜などが入ったポタージュ風の濃いスープで、 大きなスープ皿が用意された。

それに滋養のありそうなブツブツした乾パン(クネッケボード)とバターが2種。

チーズを削って好きなだけ挟む。

デザートは食パンの上にリンゴを乗せて焼いたものとコーヒー。

ワインやビールは各自で持参。

E夫人は私のために赤ワインを1本抱えて食堂に降りた。テーブルには捨て難いすてきな空き瓶を利用して、 冷たい水が用意されている。

 食事中、 私のテーブルでは、 珍客の私のために、 ここの生活の様子をいろいろ聞かせてくれた。

食事当番の彼女は建築家で、 スウェーデンでのコレクティブの推進にさまざまな活動を展開してきた。

スウェーデンのコレクティブはデンマークから学び、 自分たち流のルール等を検討したという。

コレクテイブでは住人の年齢層のミックスがとても大事で、 それが協同居住の無理のない運営、 共同生活の楽しさを生みだすという。

私がが震災復興住宅にコレクティブの提案をしていることを話すと、 日本独自の生活文化に合ったコレクティブの検討がとても重要であるとアドバイスされた。

 食事がすむと、 各自で食器を厨房に続くカウンターまで運び、 また三々五々にひきあげて行く。

まだ話し込んでいるグループもある。

Eさんは7時からメインテナンスグループのミーティングがあるので早めに引きあげ、 7名が屋上のサンルームで会合を始めた。

廊下や階段、 共用のトイレ等の共有スペースの掃除、 植木や庭の手入れ等は本来管理会社がやるのだが、 居住者組合(住人の自治組織)が住宅供給公社から請け負って行うことで、 家賃の一部として払った管理費をペイバックされる。

それで共同生活に必要なものを買い替えたり住人同士の活動資金に当てるという。

E夫人は7時半から来週の食事当番のミーティングがある。

8〜9人が1チームで食事作りと後片付けの共同作業をするが、 それぞれができる範囲で作業をやればよく、 高齢で調理作業が少ししんどい人は軽い作業を分担する。

食事チームが決めた週間メニューは、 1週間前に掲示される。

住人の中に著名な栄養学の元プロがいて、 15人単位、 20人単位でレシピを書き上げておいてくれるという。

厨房にはぶ厚いレシピのファイルが何冊も置かれていた。

 共同のリビング、 洗濯室、 アイロン室も食堂のそばにあり、 自然な形で出会いの場となり、 住人たちのコミュニケーションがとれる。

趣味室やサウナ等の豊かな共有スペースもあり、 さまざまな人たちが一緒に暮らし、 共同生活のルールは自分たちで決めていく。

 日常的なコミュニケーションを通して相互扶助が育まれ、 安全で安心した生活が保障される。

自分たちで決めた共同生活のルールによって、 自由とプライバシーが守られる。

私にとっても憧れのライフスタイルであるが、 震災後の復興住宅供給にぜひ取り入れてほしい。

後を経たない仮設住宅での孤独死を防ぎ、 被災者の不安、 孤独を忘れることができる。

悩みや心配事も語り合うことによって糸口が見つかり、 生きる気力が取り戻せる。

 共に住まう、 共に生きる、 相互扶助のライフスタイルは、 安全で、 安心して、 共に生きることの楽しさがあると確信した、 フェルドクネッペンでのひとときであった。

(11月20日記)


共同ダイニングでの食事


フェルドクネッペンの屋上から見た
ストックホルムの街並み


厨房におかれているレシピ集


共同浴室、 浴槽の周辺には
介護スペースが十分にとられている


フェルドクネッペンの外観


代表的な1戸平面図


基準階平面図


1階平面図

フェルドウネッペンの建築概要は「きんもくせい」14号(8月17日)参照
図面資料は「TOTO通信」1995.9〜10月号より

p1,2

INFORMATION

「市民語り部キャラバン隊」の活動

−被災体験を神戸から全国へ−

 「防災を語る会」は、 震災1周年を迎えるにあたり、 来年の1月13日〜14日にかけて、 被災地神戸の市民30人が被災経験と復興の教訓を直接東京都民に語りかける「市民語り部キャラバン」の活動を計画しています。

 東京の受け入れ先は墨田区と中野区で、 墨田区での活動は右のとおり。

 このあとの「防災を語る会」計画としては、 神戸市長田区で「震災を語り継ぐ夜−朝まで長田」(1/16,22:00〜1/17,6:00)等を予定しています。

市民語り部キャラバンのプログラム

第1部:講演会'95.1/1313:00〜14:40
 於:曳船文化センター(東京都墨田区)
第2部:ワークショップ15:00〜17:30
*「市民語り部キャラバン隊」幹事:大津俊雄(シティコード研究所)、 三谷 真(関西大学)、 森栗茂一(大阪外大)

p2,3


阪神・淡路ルネッサンスファンド(HAR基金)
―第1回助成団体決定―

 HAR基金の初めての助成を決める審査会が11月28日、 公開審査というユニークな方法で行われました。

 32団体の応募があり、 当日参加した22団体による企画内容発表の後、 審査員13名による第1回、 第2回の公開投票の結果、 右に示す団体に助成が決定しました。

主に、 地元に密着したまちづくり活動、 被災地の現状を記録し外に伝える活動、 これからの復興に向けてのキーとなるような活動などが選ばれました。

また、 応募が多数あったこと、 緊急に助成が必要なこと等を考慮し、 当初予定していた5件よりも多くの団体に助成されました。

 これらの団体の中から「防災を語る会」「関西建築家ボランティア」「野田北部を記録する会」が、 が12月12日(火)午後1時から経団連会館(東京都千代田区大手町)で行われる「助成金贈呈式と現地からの報告の会」に参加する予定です。

 今回は、 現在まで集まった約500万円について11の団体に助成が行われました。

しかしながら、 今回惜しくも助成対象にもれた多くの団体も、 資金・人等の支援が必要なのも事実です。

基金の規模の拡大が切望されています。

◎HAR基金第1回助成対象一覧

県立4大学教員による復興県政のための研究提言
……ひょうご創世まちづくり研究センター(小森星児)〈30万円〉
コレクティブ・ハウジング事業推進応援
……コレクティブ・ハウジング事業推進応援団(石東直子)〈50万円〉
「がれきに花を咲かせましょう」
……阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク(天川佳美)〈50万円〉
住民同意、 住民主導と行政支援のまちづくりをめざす
…… 西須磨まちづくり懇談会(宇賀芳樹)〈30万円〉
復興支援コミュニティ・デザイン・プロジェクト
……コミュニティ・デザイン・チーム(吉田鐡也)〈30万円〉
市民語り部キャラバン
……防災を語る会(大津俊雄)〈50万円〉
神戸市東灘区魚崎の復興まちづくりの支援
……関西建築家ボランティア(木村博昭)〈100万円〉
仮設住宅脱出のためのローコストアパートの開発と建設
……坂茂建築設計(坂 茂)〈100万円〉
住吉地区における住民主体の復興まちづくり支援活動
……住吉地区復興支援グループ(吉田裕司)〈30万円〉
防災復興映画記録の製作と上映・普及
……野田北部を記録する会(青池憲司)〈100万円〉
外国人住民のまちづくり−自主コミュニティへの支援
……多文化共生センター(丹羽雅雄)〈30万円〉
  合計 11件 〈600万円〉


HAR基金公開審査(こうべまちづくりセンター11/28)


13名の審査員による公開投票風景

寄付金の募集

 ●寄付種別
 A:毎月寄付−1口2千円で1〜5口を毎月5年間寄付
 B:毎年寄付−1口1万円で1〜20口を毎年5年間寄付
 C:大口寄付−予約により100万円以上を一括または何回かに分けて寄付
 D:一般寄付−随時、 金額を限定せず寄付
 E:企業や団体に呼びかけて募金をします
 ●募金主体 (財)まちづくり市民財団(理事長 小原嘉文)
 ●口座名:財団法人まちづくり市民財団HAR基金口
 ●問い合せ先
 (財)まちづくり市民財団 03-3234-2607
 現地準備事務局 078-842-3563

*朝日新聞12/7付の夕刊一面の「復興基金」(論説委員室から)をぜひ読んでください。

各種イベントのお知らせ

「すみよい安価な住宅まちづくりを探る」

−震災復興の住宅まちづくりの具体的事例−

第6回・都市環境デザインセミナー

ネットワーク事務局より

◎次回のコレクティブハウジング応援団、 ネットワーク会議について

 19号でお知らせのとおり「市民とNGO防災国際フォーラム」の〈まちづくりフォーラム 〉に合流します。

・12月9日(土)13:30〜16:00 神戸国際会議場(まちづくりフォーラム )

◎住所登録カードへのご協力ありがとうございました。

 おかげさまで、 ほとんどの方からご返送がありました。

また、 多くの方からコメントをいただきありがとうございます。

おいおい、 紙上でご紹介したいと思っています(なお、 まだ提出されていない方は、 至急ご返送ください)。

■連絡先:阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク事務局
〒657 神戸市灘区楠丘町2-5-20
まちづくり株式会社コー・プラン
TEL.078-842-2311 FAX.078-842-2203
担当:天川・中井

〒657 神戸市灘区六甲台町1
神戸大学工学部建設学科
TEL.078-803-1029 FAX.078-803-1029
担当:児玉

P.4


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このページへのご意見は学芸出版社/前田裕資

(c) by 阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク事務局
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