たとえば、 震災後ほぼ半年で策定されその後の実態調査で計画フレームの見直しの行われた兵庫県の「住宅復興3カ年計画」と「移行総合プログラム」(神戸市の場合の「住宅整備緊急3か年計画」と「すまい復興プラン」)なども、 震災前ではおそらく考えられない行政計画ではなかったろうか。 震災からの復旧・復興という事態の重要性と必要性に迫られたものとはいえ、 また現実的判断の優先された計画思想と内容の当否についてはいろいろ議論のあるところではあるが、 住宅復興計画が具体的実施計画をともなって公表されたこと自体、 少なくともこれまでの行政計画の枠組みを変えるものではあった。
震災後の被災自治体が直面した住宅施策上の大きな課題は、 民間住宅再建支援策、 とりわけ、 被災者住宅の再建支援や被災マンションの再建支援を通じて明らかになった「住宅の共同建替・協調建替」であった。 ただこの問題では、 既存制度の弾力運用という政府方針に個人補償問題も微妙にからんで、 自治体として取りうる施策は限られ、 いわゆる白地地域での狭小敷地に未接道や建ぺい率・容積率などの既存不適格問題などを抱えていて単独での再建が困難なケ-スでの共同化・協調化は困難を極めた。 「密集事業」、 「住市総事業」、 「優建事業」などの補助率の嵩あげや敷地など事業要件の緩和が図られたものの、 法的な裏付けのない任意事業であるため、 事業の採算性と資金、 権利調整などについての住民・権利者による「全員合意」の壁はあまりに大きいのが実感である。 こうした事情は、 被災マンションの再建においてもまったく同様であるが、 比較的古いマンションでは、 さらに容積率や日影規制についての既存不適格問題を抱えるケ-スが多かった。 その再建救済策として、 建築行政サイドから震災復興型総合設計制度の創設による規制緩和が図られた。 ただこの総合設計制度の適用に当たっては、 周辺住民から環境上の問題が提起されるなど新たな課題も生まれたことも忘れてはならない。 震災復興という極めて特例的な措置であり、 この問題がこれから全国で起こる既存不適格マンションの建替問題、 あるいは最近の容積率等の規制緩和問題などの前例として安易に結ぶつけられることがないか気になるところである。
いずれにせよこうしたさまざまな困難な状況を克服して、 震災3年目を迎えて、 最近の新聞紙上にも着工や完成のニュースがようやくみられるようになったことを関係者の献身的努力を讃えながら、 素直に喜びたい。
ところで、 白地地域の多くは木造密集市街地であり、 このような状況のもとで住宅市街地の計画的な復興・再生を図っていくためには、 住宅の再建(住宅施策)と市街地整備(都市計画)との連携による施策推進が欠かせないが、 こうした街区レベルでの市街地再生の実現のために、 土地の交換分合と生活道路・小広場の整備を可能にするあらたな事業化手法と街区環境保全と建築促進を図る建築ル-ル化手法の構築が求められるが、 震災後の神戸市内ではいくつかの実験的取り組みが始っていることも評価したい。 こうしたいわば例外的な制度の一般化と体系化の視点からも、 今国会に提案されている「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律案」とその審議の行方が注目されよう。
震災後の被災地では、 この他にも住宅・市街地整備のさまざまな分野で先駆的な取り組みがなされてきたが、 3年目を迎えて、 これからも仮設住宅の統廃合・解消問題をはじめとして、 再建の遅れが目立つ地区の新たな市街地環境改善策などなお多くの重い課題を抱えており、 自治体でも引き続きその対策に追われることになろう。
震災後のこうした取り組みの状況を、 抜本的な課題解決にならない、 小手先で場当り的対応と批判することはもちろん可能であろうし、 たとえば公的支援問題や地方分権問題などとからめばまた別の議論にも発展しよう。 しかし、 それぞれの地域の現状を直視するとき、 住まい・街づくりには、 ひとつひとつの課題解決に向けた現実に即した取り組みを住民と行政そして専門家が共有しつつ積み重ねていく努力こそが大切なのではなかろうか。 こうした意味でも、 この「きんもくせい」誌の果たしてきた役割は実に大きかったように思う。
私自身は、 復興住まい・街づくりの最前線からみれば、 サポーター、 球ひろいにすぎず、 いわば〈落ち穂ひろい〉的な仕事でしか役にたてていないが、 これまでの「きんもくせい」との〈誌縁〉に心から感謝したい。 (6月5日 記)
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まちづくりコンサルタントの役割に、 いったんの区切りが見えてきた今、 この地区の復興まちづくりのこれまで、 現状、 これからの見通しを簡単に総括しておこう。
協議会発足当初は、 市やコンサルタントへの不信感が根強く残っており、 怒声が飛び交うことも一再ならず、 このような形のコンサルタント業務は私達にとっても初めての経験であり、 緊張の連続であった。 コンサルタントが地元の皆さんに信用、 信頼してもらえなければ協議会活動やまちづくりがうまく行くはずもない。 口先や運営のテクニックではなく、 使命感をもって毎日協議会に通いつめたこと(通いつめは現在も続いている!)で、 信頼関係が徐々に築かれたと考えている。
住民意見交換会、 まちづくり構想検討総会などを経て、 平成8年4月に8つの協議会が相次いでまちづくり構想を市長に提案したが、 この段階で協議会の役員さん達の間に「早い復興、 再建のために腹をくくってまちづくりを進めよう」という気持ちが固まっていったように思う。
構想提案の少し前から、 提案後の市との協議機関として、 事業地区全体をたばねる連合協議会の必要性が論じられ、 平成8年4月に正式に「六甲道駅北地区まちづくり連合協議会」が発足した。 8つの協議会の上部組織ではなく、 あくまで各協議会の自主性を尊重しながら、 連絡・調整・協議のための機関という位置づけであるが、 最近は連合協議会の活動のウエイトが高くなってきている。
今年になって、 連合協議会の主導のもと、 個別の問題を具体的に検討する「専門部会」が5つ発足し、 「どんな公園にしていこうか」など、 夢のある話し合いが進められつつある。 今年いっぱい、 あるいは年度の終わり頃には、 専門部会ごとに一応の結論をまとめて市に提案、 要望することを目標にしており、 協議会として2つ目の大きな区切りを迎えようとしている。
朝日新聞6月10日夕刊の復興塾という記事の一部は次のとおりです。 『被災地をわが庭のように知りつくし、 問題点も率直に話す塾のメンバーたち。 行政当局と被災住民のとの間に、 このような人々の活動がなければ、 復興はここまで来ていないだろう。 大都市に横たわる難題と立ち向かい、 建設的な方向にたどり着くうえで、 「官」と「民」をつなぐNPOが大きな力を発揮するケースが増えている。 それを最も如実に示したのが、 被災地の復興ではないか。 NPOは、 みずからの働きにもっと自信をもっていいように思う。 単に、 行政機関や市民に対する安上がりのお助け隊と見られてはならない。 』
また愛知建築士会の感想の一部は次のとおりです。 『異人館はすっかり修復され、 以前以上に賑わっている、 という印象でした。 逆に昨日、 今日と見てきた街はなんだったのか、 と思わせます。 神戸に起きたことは確かに異常なことであり天災であった、 しかしその後の状況は人が作りだしてきたことである。 神戸の人たちにとっては、 否応なくまちづくりという局面に巻き込まれたということは本当に大きな経験だろうということ。 こうして人が動いたダイナミックな軌跡を前に、 冷静に個人としての自分を省みて、 今何を考え、 何をすべきかを改めて問い直すよい機会となったと思っています。 それにしても人の力、 そこから全てが始まる、 それが一番の感想です。 』
主催者の観察では、 次の事が参加者の心に強い印象を残すようです。
・市場でのふれあい(特に中央市場で買って昼食し、 菅原市場で食材を調理して夕食とした時)、 ・避難者の生の声、 ・まちづくり現場に携わる地元の人の苦労話(特に地元同志でもめている理由)、 ・新しい試み(コレクティブハウス)、 ・討論会(自分達同志、 我々との話)
この事業の長期的効果として、 全国のまちづくり関係者の心に神戸の復興問題を植えつけ、 まちづくりの新しい考え方をPRすることが出来るなら、 この講座の意義は大きいでしょう。
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50号以降については、 現在の復興まちづくりの状況や今後の展開等をも考えあわせ、 以下のような内容・形式に改め、 新たな出発をしたいと考えています。 今後もよろしくお願いいたします。
●創刊号以来これまでほぼ月2回の発行(A4/4ページ)を行ってきましたが、 今後はこれを以下のように2つの「きんもくせい」に分けて発行します。
●現在の無料配布(郵送料カンパ)をやめ、 有料とします。
年間購読料:10,000円(「情報きんもくせい」+「論集きんもくせい」代、 郵送費込み)
なお、 申し込み方法は、 第50号に詳しく掲載します。
今回は、 神戸東部地域の主に白地区域のまちづくり協議会の会長・事務局長さんたちに、 協議会運営の具体的な方法、 苦労話などを語ってもらい、 白地区域にひとつでも多くのまちづくり協議会を立ち上げることを目指して行われるものです。
また、 会場の「神戸酒心館」は、 震災で全壊した酒蔵を、 イベントホールやきき酒などができる場所として復元・修復したもので、 この12月の本オープンを前に、 「神戸酒心館」 のご厚意でお借りするものです。
■連絡先:阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク事務局
雑感―復興住まい・街づくりを振り返って
神戸大学工学部教授 安田丑作
最近ある建築雑誌から、 震災以降の兵庫県や神戸市など被災自治体での住空間の復興にかかわる住宅・都市施策をどう評価するかのテーマで原稿を依頼された。 正直いって、 私自身いまだに震災後の情況を客観的に評価する余裕はなく、 いわば焦点のあわない眼鏡レンズで見ているようで(震災後に老眼の症状がかなり進行したことは事実であるが)、 自信はない。 締め切りに追われながら、 あらためて震災後の被災自治体の取り組み状況を振り返ってみると、 たしかにこの未曾有の災害からの復旧・復興施策はさまざまな問題をはらんでいるし、 かならずしも順調に進んでいるとはいいがたい。 その多くの試みは、 たしかに「走りながら考え、 やれることからやる」ことを余儀なくされて、 応急的あるい急ごしらえの感は否めないし、 加えて既存法制度の制約はあまりに大きい。 こうした状況下での住まい・街づくりが、 わが国におけるこれまでの住宅・都市施策あり方をするどく問い直しているとともに、 一部でいわれるほど被災自治体も決して手をこまねいていただけではなく、 さまざまな住宅・都市施策を提起し、 実施してきていることも実感された。
希望する皆が、 一日も早く!
〜六甲道駅北地区復興まちづくりの報告〜《復興まちづくり支援コンサルタントチーム》
私達が震災復興まちづくりに参加した『六甲道駅北地区』は、 重点復興地域のひとつで、 土地区画整理事業をつかったまちづくりが進められている。 昨年11月に事業計画決定、 この2月末からは仮換地指定が始まるなど、 復興への足取りは順調といえる。
岩崎俊延(都市・計画・設計研究所)、 鶴岡貴之(同)
細野 彰(コー・プラン)、 長嶋弘之(都市調査計画事務所)1.まちづくり協議会の発足
六甲道駅北地区(約16.1ha)は、 平成7年3月に土地区画整理事業の都市計画決定がなされた後、 何回かの市の説明会や「まちづくり協議会」発足の要請などを通じて、 地元に協議会立ち上げの機運が生じた。 元の自治会単位がベースになったために、 ひとつの事業地区内に8つの協議会ができることになり、 8月から11月にかけて順次発足した。 私達コンサルタントチームは、 協議会発足の準備段階から全面的に支援活動を行うことになったが、 神戸市の手先ではなく、 事業反対運動のためでもなく、 互いに協力して「希望する皆が、 一日も早くこのまちに戻れるために」働くということを常に表明し、 実際そのために頑張ったつもりである。 2.まちづくり構想提案と連合協議会
まちづくり協議会が発足してからの活動は、 各協議会とも毎週1回の幹事会・勉強会を通じて、 「まちづくりとは」、 「区画整理事業の仕組みは」などを勉強しつつ、 まちづくりニュースの発行、 意向アンケートの実施などを行った。 早い復興のためには早くまちづくり構想の提案に持っていく必要があるが、 一方で住民感情として近隣公園や広幅員道路を無条件に受け入れられる状況ではなく、 ぎりぎりの妥協点を見つけるための検討が続いた。 3.現状とこれから
まちづくり構想を提案するまでは、 「住民からの提案がまちづくりのスタート」という意識から、 目標を定めて突っ走ったといえるが、 ほとんど提案どおりの市の事業計画案が提示、 決定され、 ほっておいても土地区画整理事業は進んでいくという事態になったとき、 「本当のまちづくりはこれから」と言いつつ、 かつての切迫感、 緊張感が見られなくなっていることも事実である。 (協議会の役員さんも私達コンサルタントも)4.この2年間のまとめ
六甲道駅北地区のまちづくりは、 これから具体的な形になって少しずつ現実化するという段階であり、 評価や総括できる時期ではない。 しかし、 現段階で私達は自負と反省を込めて、 この2年間の結果は次のようなものであったと感じている。
(6月20日 長嶋記)
六甲道駅北地区まちづくり構想('96.4)
「神戸復興塾の公開講座」
神戸復興塾学級委員長 大津 俊雄
「きんもくせい」第40号に示すごとく、 神戸復興塾は『将来の神戸のあり方を、 現場の知を基にして学際的・総合的に検討して、 復興を支援する』ことを目的にしています。 具体活動は勉強会、 講演会、 公開講座、 パソコン通信等を行っており、 今回は公開講座の実績を紹介します。 公開講座は全国から来た10〜20人単位のグループが2泊3日で被災現場に触れて復興の問題を議論し、 まちづくりについて我々と共に考える市民大学です。 1.実績とコース
去年末の開講以来次の4グループを受け入れました。 ・東洋大学建築学科学生7名、 ・京都府立大学住居学科学生8名、 ・愛知建築士会会員12名、 ・朝日新聞大阪本社記者16名。 コースは復興課題の多い次の中から選んでもらいます。 各現場で説明にご協力いいただいた方々に、 紙面を借りてお礼申し上げます。
2.感想
出席者の感想を要約すれば「歩いてとてもしんどかったが、 現場で生の声が聞けて、 復興のしんどさと問題がよく分かった」ということです。 3.問題点と今後の課題
主催者としては、 次の点にとまどいを感じます。
今後、 この講座は日本全国の大学生・研究者・行政マン・町内会・各種団体・企業者等にはぜひ受講して頂きたい。 特に住宅・建築・まちづくり・防災・福祉等に関わる団体の新人教育や新テーマ発見には最適と思われます。 この為には主催者としても、 PR、 事前教育、 教科書づくり、 説明体制の充実、 メニューの拡大(産業、 福祉、 都市計画の歴史等)等を行う必要がある。 するとこの講座は定常化でき、 資金的に安定し、 各NPOの共同事業として収益対象となり得ます。 どこかのNPOがJTBと組んで見学旅行を受け入れる事業をしても面白いと思います。 我々は受講生に「どっさり金を持ってきて、 神戸でドンドン使ってください」と言っていますが、 「おもしろ商店マップ」も欲しいところです。
申込先:教務課・森栗茂一宛 TEL.FAX.078-991-3408
六甲道駅周辺地区の復興まちづくりの講義を受ける京都府立大学学生
('97.3/28 於:びわポケット)〉
「きんもくせい」の今後について
本紙で何度かふれてきましたが、 この「きんもくせい」は50号まででいったん区切りと致します。 これまで長い間おつきあいをいただきありがとうございました。 『情報 きんもくせい』
会合やイベントの情報をA4版1ページにまとめ、 1〜2週間に1回発行。 (これまでの4面に相当)。 『論集 きんもくせい』
復興市民まちづくりの取り組み報告を中心に、 現場の生きた情報の提供・交流を行う。 1回あたり数本の報告を掲載し、 2ヶ月に1回程度発行。 (これまでの1〜3面に相当)INFORMATION
神戸東部復興まちづくりフォーラム
<基調講演>「3年目の白地区域復興まちづくり」
小森星児(神戸商大名誉教授、 神戸復興塾長)
<パネルディスカッション>
「まちづくり協議会の立ち上げ」
パネラー:神戸東部地域の主に白地区域のまちづくり協議会の会長、 事務局長等の方々・・・・佐野末夫(深江)、 田中三郎(岡本)、 小西千代治(新在家)、 堀口祐司(住吉浜手)、 橋本照男(住吉第一)、 谷口栄一(灘中央)、 他
昨年6月9日に行われた「東灘市民復興まちづくりフォーラム」に引き続く、 神戸白地地域復興支援チーム主催の第2段の市民フォーラム。 ネットワーク事務局より
最終第50号は特別号とします 〜どしどしご寄稿ください〜
「きんもくせい」最終号は、 多くのみなさん方のご意見、 報告等をたくさん掲載する予定です。 よって、 これまでのA4・4ページにこだわらない構成を考えています。 以下の要領で事務局まで原稿をお寄せください。
CYG02021@niftyserve.or.jp
また、 写真、 図等があれば郵送してください。
第2期コレクティブハウジング事業推進応援団第7回ミーティング(6/11.神戸Fビル)
・・・・地域型仮設住宅の高齢者をサポートしているLSAさんや、 ボランティアの方々も参加し、 公営コレクティブ住宅や今後の公営住宅募集に向けて、 高齢者の切実な声が紹介され、 今後の活動について多角的な意見、 アイデア等が出されました。
Restoration from the Hanshin Earthquake Disaster/SUPPORTER'S NETWORK for community development “Machi-zukuri”
〒657 神戸市灘区楠丘町2-5-20
まちづくり株式会社コー・プラン
TEL.078-842-2311 FAX.078-842-2203
担当:天川・中井
〒657 神戸市灘区六甲台町1
神戸大学工学部建設学科
TEL.078-803-1017 FAX.078-881-3921
担当:大西 一嘉
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