A5判/256頁/定価 本体2800円+税
各地の事例やケーススタディ、東京・大阪の福祉のまちづくり条例と米国ADA法の比較一覧、用語集など関連資料も充実。
これまで経験したことのないほど多くの課題が、都市や自然環境、高齢・少子化、家族やコミュニティ、さらに情報、国際などの社会や経済分野に山積している。これらのことは、まちづくりや外部空間づくり、さらには人びとの日常の生活行動に密接に関連してくるものである。従来まで蓄積されてきたまちづくりの考え方や技法に、新たな英知をそそぎ込む時期にきている。
とくに外部空間づくりの課題として、「ユニバーサル・アクセス」や「生態系」があげられる。従来からいわれてきたバリアフリーより広範なユニバーサル・アクセスの概念、動物や植物の遺伝子や個体から群落までの「生物種の多様性」や「生息空間」を内包した「生態系」の概念が重要になってきている。また、これらを統合する仕組みとして、住民参加や住民組織、環境学習や環境の管理・運営などにかかわる新たなコミュニティ形成が課題となりつつある。さらに、阪神・淡路大震災からの教訓を、安全や安心のまちづくりや外部空間づくりに積極的に生かす必要がある。
震災後、みどりある公園などに避難した人びとから、「大木の下で安心や安らぎを感じた」という声が聞かれた。みどりが精神的な癒しとなったのである。みどりを、コミュニティ形成の場、こころの癒しなどと関連して議論し、外部空間づくりに生かしてゆくことも課題になっている。
まちづくり、外部空間づくりに関して、物理的に段差や障壁を解消するバリアフリーから精神的、制度的なバリアフリーまで、その概念は変容し拡大してきている。さらに、物理的、精神的、そして制度的な「バリア(障壁、障害)を解消する」から「積極的に計画や運営への参加を促進する」方向、つまりユニバーサル・アクセスの方向へと展開している。物理的なハード面からのまちづくりと、人びとの日常や非日常での生活行動、まちづくりの社会的なルールや仕組み、まちづくりへの参加やその組織などといったソフト面でのまちづくりとの統合が問われている。
一方、自然風景地でのユニバーサル・アクセスについても考えておく必要がある。すべての自然風景地がバリアフリーである必要はない。地形の変化、さまざまな気候、動植物など自然要素を外部空間づくりに導入することによって、人びとの五感の復活や活用が促される。これこそが人間と生きものとが共生する外部空間づくりの方向ではないだろうか。また、敷地外側の大自然の風景を間近に取り込む「借景や生捕り」、急な直線上の坂道と緩やかな曲線状の坂道を意味する「男坂女坂」などのわが国での伝統的な景観構成の技法は、自然風景地でのユニバーサル・アクセスを考える上で示唆に富んでいる。
本書は、ランドスケープの専門家を中心に外部空間のユニバーサル・デザインに関して執筆されたものであるが、福祉や健康などの領域と統合された外部空間づくりにおけるユニバーサル・デザインの方向を示唆するもの、さらに、個人や地域社会の外部空間に対する価値、態度、姿勢などについて議論する端緒になれば幸いである。
最後に、本書は(社)日本造園学会に設置された「バリアフリー緑の空間計画検討委員会」の成果である「バリアフリー緑の空間計画」(社団法人日本造園学会編、1996年3月)を基礎にしたものである。本委員会の委員長である丸田頼一教授(千葉大学)をはじめとして本委員会に参加された先生方のご尽力に敬意を表するとともに、現地調査やヒヤリングでお世話になった国内外の多くの方々に厚く御礼を申し上げたい。
1998年5月
中瀬 勲
関本 博史(せきもと ひろし)
1947年 生まれ。
1974年 大阪府立大学大学院修士課程(農学研究科緑地計画工学専攻)修了。
この間カリフォルニア大学バークレイ校環境デザイン学部へ留学。
椛蝸ム組入社、ユナイテッド・ディベロップメント社(米国、ワシントン州ミルクリーク)出向、
潟Iークエンジニアーズ出向を経て、
現 在 同社海外プロジェクト部ほか部長。