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住まいの文化・はじめに

 私たちは何気なく日々の生活を送っています。玄関で靴を脱ぎ、畳の部屋では床に座り、風呂では熱いお湯に肩まで浸かります。これはどれも当たり前のこととして、私たちが親しんだやり方です。これらの住生活の様式は日本の住文化として、日本人に共有されたもので、生活をより豊かにするものです。

 父母や祖父母といった年長者から昔の話をよく聞きます。ほんの数十年前という、そんなに遠くない昔のことなのに、その違いに随分と驚かされます。その頃と比べると、生活はとても便利で快適になりました。しかしその反面、私たちは多くのものも失ってしまったように思います。古い民家を訪れた時、当時の生活の大変さを感じながらも、そこに心の安らぎや落ち着きを覚え、心の豊かさを感じます。

 本書の内容は、住生活の中の身近な話題を起点として、私たちの〈今・ここ〉の生活を見直すことから始まり、豊かな住生活の〈これから・ここ〉を皆さんと一緒に考える構成となっています。そのために、〈今〉を知るための〈昔〉や、〈ここ〉を知るための〈あそこ〉といった、〈今・ここ〉を考える手助けとしてのコラムをたくさん準備しました。

 各章は原則として漢字一文字のタイトルとなっています。日本の住まいを考えると、そのエッセンスともいえる精神を表現するいくつかのことばに行き着きます。各章はそれらのことばをキーワードとしてまとめました。そのキーワードはそのまま各章のタイトルになっています。全体の構成は前半に日本の住文化を考える上での重要なキーワードを配し、後半にはより楽しくより豊かに住まうためのキーワードを集めました。

 本書は住生活に関する基礎的学習を終えた方々が、より豊かなこれからの住生活を考える上で参考となるよう、住文化という視点で編集されたものですが、これから住生活を学ぼうとする方々や住文化に関心をもっておられる方々にも、楽しく興味をもてる内容となっています。

 また本書は、書棚に立っている時のこと、手に取った時のこと、そしてページをパラパラとめくった時のことをも考え、本自体美しく豊かでありたいと考えました。そのため、各章のトビラには豊田育さんに切絵をお願いしました。また内容的には、読者としての立場から編集企画室「群」の赤澤ゆかりさんに、読みやすさ・わかりやすさの点においてたくさんのご助言をいただきました。おかげで素敵な本に仕上がりました。また、学芸出版社の前田裕資さん、古田尚代さんには、研究会のメンバーの住文化に対する熱い思いを受けとめていただき、仕上げの細かい作業も含めて、我慢強く支えてくださいました。

 この場を借りて、心よりお礼申し上げます。

  著 者

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『住まいの文化』

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