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住まいの文化・著者紹介

似顔絵いそむらまさお
磯村正雄一九五二年愛知県生
住宅・都市整備公団
(担当章)共

 「住文化とはいったいどんな文化のことでしょうか? 住まい方に文化なんてあるのでしょうか?」との問いかけについて考えてみました。 文化は私たち人間だけがもっています。 住文化は私たちの暮らし方で大切にしたい「こころ」ではないでしょうか。

 家族のかたちは、 夫婦と子供のみの核家族や、 子供が成長し、 世帯分離がされた単身世帯や高年夫婦のみの世帯や、 高齢者世帯となります。 現在では、 単身世帯と二人世帯が都市部で半数を超えるようになりました。 「共に住む」住宅が増える時代は、 家族の血縁を超えて地域縁、 共同住宅縁、 友人縁などの関係が住まいのコミュニケーションを支えることになるでしょう。 私たちの生活が真に豊かで潤いのある環境でありつづけるために、 一人でも多くの生活者が、 「こころ」をこめて、 地域社会や自然、 まわりの人たちにかかわりあい、 住文化を実践していくことがこれからのテーマと考えています。

似顔絵いとうさちこ
伊藤祥子一九四二年東京都生
住環境コーディネート
「アトリエ・リラ」主宰
(担当章)納

 「猫の額」ほどの狭いわが家の庭にも季節がめぐってきました。 晩秋の中、 けやきが色づき、 さざんかがそのつぼみを膨らませています。 私たちの住むこの国で、 よそに誇れるのは「きめこまやかな季節感」ではないでしょうか。 衣食住すべてにわたり先人は気候の変化に応じ、 知恵を絞り、 折々の行事により日常に彩りを添えてきました。 しかし今、 ともすれば季節感喪失の日本の暮らしです。 それにより生活を楽しむ術を私たちはなくしかけています。 伝統を知り、 海外の住生活の優れた点をも学びつつ、 改めて日本の住まい文化をその気候・風土に照らし育てていきたいものです。 住宅建築の取材を通していろいろなお住まいを訪問しています。 玄関先の季節の花、 清潔な室内、 手づくりのもてなしなど……私をいつも幸せにしてくれます。 ステキな家は決してお金をかけ、 贅を尽くしたそれではありません。 たとえ小さなことでも、 あなた自身の工夫とセンスから生まれます。

似顔絵かわべやすひろ
河辺泰宏一九五五年岐阜県生
愛知淑徳大学現代社会学部
(担当章)設・様・格・構

 戦後の激しい経済成長の中で、 日本人は何かを得るために何かを忘れようとしてきました。 忌まわしい過去に目をつぶって、 新しい価値のみを追いかけてきました。 そのすべてが間違っていたわけではありません。 しかし、 ものの本質よりもむしろ経済的な価値や合理的な意義づけばかりに目を奪われ、 そうした尺度で計ることのできない、 本当の豊かさを手に入れる術まで忘れてしまったようです。

 森を切り裂き、 川をせき止め、 山を削って開発すれば、 社会が豊かになると言い続けて私たちの町はつくられてきました。 たしかに、 緑をかたくなに守っていても、 一銭の儲けにもなりません。 しかし、 豊かさとは決して金銭に換算できないという当たり前のことを認めるべき時代がきているのです。 いつまでも走り続けるのが美徳ではなく、 ときには立ち止まること、 振り返ること、 それも勇気ではないでしょうか。

似顔絵しまだひろこ
島田裕子一九三?年横浜市生
市邨学園短期大学生活文化学科
(担当章)浄・寝・食・集

 一九九三年五月十一日に発足した住文化研究会は、 おおむね毎月一回のペースで会合をもちました。 まだ新しい分野の学問なので、 それぞれが「住文化とは何なのか」を模索するような話し合いが、 続きました。 一見、 サロン風の話し合いをエッセンスとして、 やっとこんな形にまとめあげることができました。 まだまだ洞察の足りない点がたくさんあると思いますが、 皆さんの授業の中で、 さらに完全なものへとまとめあげてください。

 私の担当の項目のイラストは若い方に親しんでいただくために、 卒業生の仁科吾子さん(一九九六卒)にお願いしました。 「まったく素人ですが…」と言いながらも、 とてもよい作品に仕上げてくれました。 卒業生と一緒に「住文化」を語れたことは幸せです。

似顔絵しみずえいこ
志水暎子一九四四年富山県生
名古屋女子文化短期大学
(担当章)季・伝・材

 登場人物および背景を紹介します。

 障子張り替え後、 昨日とは違う部屋の明るさや光の質を感じとる感性で、 張り替えた家族の明日を思いやる俳人。

 年中行事に備えての片づけや掃き清めが、 実は住まいの定期的メンテナンスになっていたという仕組み。

 「家相が個人の家のとすれば、 風水は地域社会の繁栄と幸福を追求する」と言った易学者。

 「山で五〇年育てられた木を使って建てた家は、 せめて五〇年住みこなせる家を建てねば、 木を育てた人に申し訳ない」と言った棟梁。

 二〇年に一度、 新しく造営して、 その技術から心までを確実に次世代に伝える意義のあった伊勢神宮の式年遷宮。

 地域にいろりを再興するつくり手・住み手。

似顔絵とよだよういち
豊田洋一一九四九年岐阜県生
中部大学工学部建築学科
(担当章)式・境・間・棲

 文化とは私たちの生活をより豊かにするものであり、 心を豊かにするものです。 そして住まいは単に生活の容器として、 安全で便利で快適なものであるだけでなく、 心の住みかとしてその豊かさが求められているといえます。 つまり、 文化としての住まいのあり方が大切となるわけです。

 私たちの生活は子供から大人までが、 超過密のスケジュールでテンポも速く、 とても刺激的です。 しかしあまりの刺激の多さや速さに、 ついこの間感動した映画のストーリーも忘れてしまうほどです。 人はもっとユッタリとユックリとできないものでしょうか。

 現在人の多忙な生活の中で、 住まいはそういう場所でありたいものです。 目を閉じて、 耳をすまし、 空気を胸いっぱい吸い込んで、 心を澄ましてまわりを見るとき、 きっとこれまでとは違った「今」「ここ」が見えてくるはずです。 あなた自身の住まいを見つけてください。

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『住まいの文化』

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