東に出した庇の下で薪をたき、南に竹の簀子(すのこ)を敷いて縁側とする。西に仏花を供える棚をつくり、北の隅には障子を隔てて仏画を飾り、その前に経典を置く。これらはちょうど書院造りの床の間や違い棚に相当します。寝床は東側に敷かれています。机に向かうときは、脇息(きょうそく)に肘をかけて円座に座る。つり棚には、和歌の本や往生要集の写本を入れた箱を置き、その横に、琴と琵琶を立てかけておきます。
最低限の限られた身のまわりの品々の中で特に目立つのは、文机や硯(すずり)箱などの文具と三具足(みつぐそく)などの仏具です。これらは長明が陰遁した文化人として携帯すべき必需品であったことがわかります。
ここで紹介された住具は、草庵の質素な生活に欠かせないものですが、たとえ大きな屋敷で生活していても、これ以上のものはあまり必要なかったに違いありません。つまり、当時の人は、四畳半に納まるほどの限られた種類の住具で、十分日常の生活を送ることができたのです。