泥くさいフィールドからみえてくる 建築の本来の魅力とは |
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実測術
サーベイで都市を読む・建築を学ぶ 陣内 秀信・中山 繁信 編著 |
読者レビュー 本書は、二つのゼミナールにおける「デザインサーベイ」と呼ばれる実測調査を紹介するものである。ひとつは、1960年代後半から70年代半ばにかけて日本国内で調査を行った宮脇檀氏のゼミナール。宮脇ゼミが開始したデザインサーベイはフィールドワークの先駆けであった。そして、もうひとつは現在も海外を中心に活動中の陣内秀信氏のゼミナールである。 活動時期や調査対象とする場所は異なるが、両者には共通するものがあるようだ。彼らの体験から、実測調査というものが単なるデータ収集の作業ではないことが理解できるだろう。 まず、「調査への情熱」である。それが地道な作業の積み重ねへの糧となる。そして、その情熱は建築や都市に対する想いの現れであろう。デザインサーベイの作業は、あたかも彼らが建築や都市へ抱いている熱き想いを確認する作業であるかのように映る。 もう一点は、調査中に遭遇する「住民たちとの触れ合い」である。調査のなかで感じた住民たちの優しさや温かさについては誰もが強調している。彼らの体験は、都市や街の魅力がそのような住民たち、人間によって支えられているということを如実に示している。それは近代の建築や都市に欠けていた視点ではなかろうか。彼らは調査を通して、ごく自然にそのようなことを学び取っている。これこそがフィールドワークの醍醐味なのであろう。 時代背景の全く異なる二つのゼミナールの取り組みを単純に比較することは憚られるが、私が生まれてもいなかった遠い昔の宮脇ゼミの実践に魅力を感じるのは何故だろうか。その調査における密度の濃さや溢れる熱気は時間を超えて伝わってくるものがある。それに対して陣内ゼミの取り組みは未だ模索中の感があるが、それはこのデザインサーベイがまだ方法論的に発展途上の段階にあることを示しているのであろう。今後の陣内ゼミの取り組みに期待する。 生前、宮脇氏は「一に旅、二に旅、三と四がなくて五に建築……」と冗談を言うほど旅が好きだったそうである。旅好きが抱く見知らぬ土地への想いが彼をデザインサーベイへと誘ったのであろうか。そんな宮脇氏の教え子たちが綴った体験記を読んで、無性に旅にでたくなった自分がそこにいた。 (建築学科卒/フリーデザイナー・ミュージシャン モリモトユキ)
担当編集者から 実測調査は都市や建築を学ぶ手段として、各大学で広く採用されています。しかし、その方法は指導者により、対象地域により、目的により、千差万別。 本書は調査に参加したスタッフの生の声を元に、実測調査の実情を明らかにしました。笑いあり、涙あり、読み物として面白いだけでなく、サーベイのガイドブックとして最適ですよ。 |