osusume2 成熟社会のあるべき都市像を欧米諸国に学び
日本型コンパクトシティのありかたに迫る
コンパクトシティ
持続可能な社会の都市像を求めて

海道 清信 著



A5判・288頁・3200円+税
8月30日発行

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 読者レビュー

 コンパクトシティとは、人口と物質消費の成長よりも生活の質の成長を重視する、成熟社会にあるべき「都市の縮小期の都市像」の考えである。本書では、ヨーロッパ諸国のサスティナブル(持続可能的)な都市の空間形態を参考に、これから人口縮小時代に突入する日本の都市像はどうあるべきかを、欧米諸国と日本の都市の現状を比較分析することによって展望する。イギリス、ドイツ、オランダ、アメリカなどの欧米諸国におけるコンパクトシティ形成の議論や政策に関する特徴・問題点をまとめる一方、わが国における都市の課題と問題点など、広範な領域を網羅している。膨大な数の事例と具体性を伴った分析において、類書のなかでも特に内容が充実している。
 本書の中でとりわけ興味深いのは、欧米とわが国におけるコンパクトシティの狙いの違いである。欧米におけるコンパクトシティは主に環境問題に対処するために目的化されているが、一方で人口の減少や少子・高齢化への対応がわが国特有の問題意識となっていることである。著者は、日本の従来のインフラ整備主導で進められてきた都市計画を見直し、それぞれのまちや地域が持つ独自の価値をもう一度発見し、さらに地球環境問題への対応と自然環境の保全を考慮することで、画一的な都市の機能主義から脱却すべきだと主張している。
 日本型コンパクトシティのあり方についての、最終章における著者独自のいくつかの提案も実に興味深い。これらの提案の根底にあるのは、市民主体のまちつくり、脱自動車、自然環境保全、ヒューマニズム、そしてポストモダニズムであろうか。
 ちなみに、私はエネルギー・環境と経済の関係、特に環境政策に関して研究しているが、政府によるうえからの規制ではなく、市民主体で住み易いまちを造っていくにはどうしたらよいかという著者の一貫した視点は、非常に刺激的であった。また、一般市民にとっても、住み心地の良い生活・都市とはなにかについて新たな視点で考えさせられる絶好の一冊となろう
(京都大学経済学部大学院/ 大堀 秀一)

 担当編集者から

 コンパクトシティという言葉を聞いたとき、思い浮かべたのはイタリアの山岳都市のように小さくて、まとまりの良い小ぎれいなまちだった。実際、そのようなまちもコンパクトシティと言われることは多いのだが、一方では、東京のようにメガサイズで、高密度に集積した都市もコンパクトシティと言われることがあるそうだ。
 ひとつの言葉でこんなにかけ離れた都市を指していて良いものだろうか。こんな状態で言葉だけが一人歩きをして行くのはろくな事にはならない。そんな思いから、多岐にわたる議論の整理と日本で考えるポイントを執筆下さるようにお願いしたところ、出てきた力作が本書である。
 日本はどうしていくべきか、果敢に提案いただいたが、なお十分に深められていないと思われる読者もおられるだろうが、それは結局のところ読者諸子の実践にかかっている。
 本書で指摘されているように、日本では政策の転換がなされているのか、いないのか分からないまま、従来型の施策とコンパクトシティを目指す施策が併存しているように見受けられる。政策の大転換が本物になるのかどうかは、ここ数年が勝負ではないか。本書が少しでも役立つことを願う。


 

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