自立へ向けた住居改善を 現場からトータルに考える |
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読者レビュー ここ数年の間、在宅介護の重要性が増し、介護保険が導入され、福祉の領域やその周辺分野はめまぐるしく変わっています。特に建築分野では住居改善に直接関わるため、にわかに福祉に取り組む建築関係者も多いようです。一方でケアマネージャーをはじめ、福祉や医療に携わる人たちは専門外の建築に戸惑いながら、在宅支援の仕事をこなしていかなければなりません。 この本はそのような現状に手を差しのべるべく、福祉、医療、保健、建築の前線で活躍しているプロたちにより連携してつくられた「生きた教科書」といえるでしょう。 各ページをめくってみると、それぞれの筆者が自分の専門領域をできるだけわかりやすく説明し、読者を挫折させない(?)工夫が随所で見られ、さながら活気のある商店街のような構成になっています。 たとえば、手すりの取り付けについて、リハビリの立場ではどの位置が合理的か、経験に基づいた理論や人間工学を駆使して(図も駆使して)解説され、なるほどと納得してしまいます。建築の立場では安全な手すりの取り付け方法が検討されています。更に住居改善の実例において、豊富な写真から、浴室や玄関、居室に取り付けられた手すりはどれも使いやすそうな感じが読み取れます。 また、医療の領域では主な疾病による機能障害が易しく説明され、建築の領域ではその機能障害にもかかわらずQOLを高める具体的な住居改善事例がたくさん紹介されています。 本書を福祉住環境コーディネーターやケアマネージャー等の受験参考書として使うことはもちろんよいと思います。その上実務に携わってから、より深く、広く学ぶための座右の書になることは間違いありません。 (一級建築士/今井俊夫)
高齢者・障害者のための住居改善と聞くと、福祉住環境コーディネーターを想起される方も多いだろう。だが、本書にはそのような名称は一切登場しない。なぜなら、本書の24名の著者らによる、異なる領域の専門職連携の取り組みは、10年以上も前から始められたものだからである。 福祉住環境整備においては、段差の解消と手すりの設置の必要性が指摘されることが多く、その理由として、転倒・転落防止が挙げられている。しかし、「なぜ、倒れるのか、なぜ倒れないのか」という根本的な問いに答えてくれたのは本書が初めてといえるだろう。 立ち上がり動作ひとつとってみても、「普通の立ち上がり」、「手すりや台を使った立ち上がり」、そして「手すりが身体に近すぎる例」の三つのケースがコマ送りのイラストで対比しながら説明してあり、どこに問題があるのかが理解しやすくなっている。動作のチェックにあたっても、「○○が苦手」などと、23種類の苦手な動作を基準にしていることは、危険や不適切な設定を未然に発見し回避することに役立つであろう。 私は、地域の社会人を対象にして、福祉住環境コーディネーターの養成に関わっているが、検定試験合格という至上命題があるため、どうしても試験対策中心となってしまうことは否めない。せっかく、地域社会で活躍されている、建築・医療・福祉の専門職の方々が受講者として一堂に会しているのに、相互理解を進めることができないもどかしさを感じていたのも事実である。他方、検定試験2級には合格したものの実務経験は全くないという「ペーパードライバー」に対するフォローの必要性も感じていた。 本書には、検定試験では出題されないけれど、実務には不可欠な知識が非常にわかりやすくまとめられている。建築分野を例にとってみても、「工事現場で飛び交う言葉」から「図面の読み方」、「間取り図の書き方」、さらに後半部分では、住宅改善の事例が現場の写真や図面とともに紹介され、検定試験で学習した知識と現場のイメージとを結びつけるのに役立っている。 福祉住環境整備を志す全ての人びとにとって、専門職の相互理解と連携のあり方を、初めて具体的な事例で提示した本書は、スタンダードなテキストとなるに違いない。 (宇部短期大学附属生涯学習センター講師/白石 義孝)
この書は、福祉、医療、建築に関する専門書であるが、いわゆる「マニュアル書」ではない。通読すると、一貫して、現実に即したあらゆる事態と状況にどういう対応が大切なのか、という著者の意図が伝わってくる。専門家むけにかかれた単なる専門書の域を越え、高齢者と障害者のための住居改善に、日夜奮闘する著者とワーキンググループの方々の努力の結晶である。 おそらく膨大になるであろう資料と情報を、住居改善に関わる者と当事者に理解できるように、最低限必要な知識として集約し、体系化し、明確化されており、多少建築をかじったものの、他分野は全く素人の私でもすんなり読みすすむことができた。生活作業動作など図解されており、わかりやすい。 一般的に「バリアフリー」という言葉を聞くと、大抵の人は何となくイメージできると思うが、例えば、いざ自分や家族が高齢者になった時、障害をもった時、住宅を改善する必要に迫られた時、どこに、誰に、どうやって相談し、どんな事に留意すればいいのか無知であるがゆえに、不安にかられるだろう。この本を開けば、福祉、医療の役割、行政の役割、建築士の役割が細部にわたって記されている。そして、各分野がどのように「連携」していくのかが、重要だと訴える。本書で一番興味深かったのは、それぞれの障害症状に応じた、施工実例の紹介である。家族と担当した建築士のコメントも一部紹介され、見逃せない。 実際に取り組む時、何が一番大切か、本書のまえがきにもある通り「なんとかできないだろうか」そして「何とかしたい」という、切実な思いである。この動機づけがなければ、単なるわずらわしい採算のあわない作業になってしまう。また高齢者と障害をもつ方々と、その家族の言葉にならない本音に耳をかたむけることが重要であると感じる。医療、福祉、建築に携わる全ての専門家にとって、必読の書であり、高齢者、障害者の肉体的苦痛と、精神的苦痛をやわらげ、今後の人生に一筋の光がさすであろう良書である。 (住宅会社勤務/古屋貴代実)
担当編集者から 高齢者・障害者の住居問題は、遠まきにしてはおられないところまで来ています。 できれば日延べしたいと思ってきた問題が、実際身の回りで起こったら…。本書制作の途中でまさに身近で脳梗塞に倒れられた私が、まず思ったのが実家の段差だらけで手すりの1本もない住まいと和式で水洗化されていないトイレのことでした。 幸い今回は深刻なことになりませんでしたが、本人がどんな病気で、どんな後遺症が考えられ、誰に相談にいけばよいのか。突然のことにうろたえながら、意外と順序だてて考えられたのは、本書を担当していたおかげと言えます。 多分野の専門家が集い、10年以上にわたって続けられてきた著者グループの研究と実践にあらためて頭が下がるともに、「何かあったら言って! どこにでも飛んでいくから」というホットで、いきいきと取り組まれている姿が、とても頼もしくうつりました。 本書は、その活動を通じて連携の必要性を説き、自分の専門でなくてもぜひ知っておいてほしいことを集めた画期的な本です。福祉・医療・建築の専門のかたにはもちろん、高齢社会を生きていくすべての方に読んでいただきたい力強い道案内となっています。 (O)
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