osusume2 魅力あるまちの再生に向けた
自動車と共存する術
ポスト・モータリゼーション
21世紀の都市と交通戦略


北村隆一 編著



A5・256頁・2300円+税
12月30日発行

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 読者レビュー

 最近非常に興味深い話を聞いた。「ある郊外に街が造られた。その街の中心には住人が憩える場として集会場や飲食店が建てられた。しかし、そこに集うのは主婦層を中心とした女性ばかり。都心での仕事から帰ってきた男性達は、電車の駅や駐車場から一目散に自宅に向かい、一向に街中に姿を見せない。」こんな話である。
 この話を耳にして、“確かになぁ”と感じるのは私だけではないと思う。モータリゼーションが社会に対してもたらした大きな変化の一つは“郊外化”である。誤解を恐れず書くならば、この“郊外化”によって、少なくとも就労者層の人々は不利益を被ることとなったのではないだろうか。例えば就労者は、その長い通勤時間故に、仕事が終わったらさっさと帰途につかなければならず、都心の歓楽街で過ごす時間が限られてしまう。ましてやマイカー通勤ともなると、一杯ひっかけて帰途につくわけにもいかない。さらには自宅に辿り着いたはいいが、家の周りに楽しい歓楽街なんてない。これはあくまでも私の勝手な想像に過ぎないが、就労されている方の多くは思い当たる節があるのではなかろうか。
 本著にも、「郊外は魅力的ではない」という記述がある。その理由として、「郊外は公共領域に乏しいから」とある。モータリゼーションは、その公共領域を破壊し、ひととまちとの接点を消去しながら進行していった。つまりモータリゼーションの作り出す生活とは結局のところ、誰とも顔を合わせることなく、単に出発地から目的地への移動を繰り返すだけの日々であるのかも知れない。もしその毎日に人間が耐え得て、そしてそのような生活を理想とするのであれば、まだまだクルマの天下は続くであろう。果たしてそれでいいのか?
 本著はこの疑問に様々な観点から解答を与えてくれる。ここに書いた郊外化の問題だけでなく、物流、観光、高齢化、そして環境、ITといった様々な観点から各分野の研究者の方々による丁寧な分析がなされ、その上で「ポスト・モータリゼーション」の時代に向けた指針が示されている。また勉強不足の学生の身である私としては、モータリゼーションの基礎知識や問題点が丁寧に記されていることもありがたく、大変勉強させていただいた。
(京都大学大学院工学研究科 福井賢一郎)



 この著書は、20世紀を自動車化の世紀と位置付け、自動車化の歴史から自動車化が社会にもたらした影響を的確に捉え、21世紀の自動車問題と社会の都市交通が志向すべき方向を明確にしようという意図で記されたものである。その内容は次の2点に分けられる。すなわち、第1部として「モータリゼーションと都市計画の変貌」、第2部として「ポストモータリゼーションに向けて」である。これらについて各分野の専門家11人が様々な視点から分析し、その分析結果から自動車化社会の将来像を真摯に考え、独自の見解を述べる形式となっている。
 第1部では、その題名から推測できるように現代の自動車優先の都市計画がもたらした社会の変貌を述べている。すなわち、自動車の普及が物流の形態をかえ、人々の交通行動を変え、郊外型の大型ショッピングセンターを生み出すなど都市の郊外化について言及しているのである。そしてそれが都心部を荒廃させる原因となったと述べている。
第2部では、第1部を踏まえ、さらに近年のITやITSの普及や、将来の高齢化社会の交通需要や石油に代わるエネルギーについてなど、これからの自動車社会に影響することが述べられており、自動車社会の将来を予測している。
 また、各章末にコラムがあるのだがこれがまた面白い。雄琴(滋賀県にあるソープ街)のことについても書かれてあるなど、読者が飽きないように文章構成も工夫されている。

(京都大学工学部 前田 敬)


 担当編集者から

 技術の進歩によって我々の暮らしが激変した20世紀。生活の末端にまでわたるその劇的な変化の多くには、モータリゼーションが深く関わっていた。
 そして、現在。自動車中心の社会は多くの弊害を生み出し、エコカーからITS、カーシェアリングまで、新たな試みが各地で進められている。
「自動車が作り上げた20世紀の都市を総括し、そして今後の展望を示したい」
 そんな思いにあふれた執筆陣が集い、完成したのが本書である。第一線で活躍する著者グループによる綿密な分析と多彩な考察が、これからの都市と交通のあり方について考えるきっかけとなることを願う。
(G)

 6、7年前のことだが、都市計画学会のあるセッションで「車優先のあり方はおかしい。もうそんな考え方は変えなければいけない」といった趣旨の発言を交通の先生がされたことがある。いわゆる孤高の志士の発言ではなく、むしろそれが当然という雰囲気だったので、これは面白そうだと思ったのが交通に興味をもった始まりだった。
 その後、LRTや自転車、交通パッケージと続け様に交通関係の本を出すことができた。誤解かもしれないが、密かに期待しているのは、土木は変わり始めたら早いのではないかということ。自動車化が優先される時代は確実に終わり、少しは住みやすく気持ちの良い交通体系に変わってゆくのでないか。ポスト・モータリゼーションがいよいよ具体的になる。そんな方向性をこの本からも読みとっていただきたい。

(M)

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