osusume2 変わる住まいづくり
拡がる建築士の役割・技術
参加と共生の住まいづくり

住田 昌二・藤本 昌也
+日本建築士会連合会参加と共生の住まいづくり部会 編著



A5・並製・256頁・2700円+税
2月15日発行

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 読者レビュー

 まちづくりにおける「参加」とは何なのだろう、「共生」といったときにどんな社会が出現しているのだろう、などと逡巡して考えていた。それで、題名をみて、読んでみたいと思った。
 この本を読むと、「住まいづくり」という言葉が豊かに広がっていること、そして広がりを求めている社会に対して「建築士」という職能が応えていく展望が開けていく、あるいは開けるのだ、ということが理解された。
 随所に散りばめられている「参加」や「共生」の方向性の明示、たとえば、『住宅づくりの論理を「空間形成」から「主体形成」に転換し、政策主体としてのユーザーが住まいづくりに直接参加する道を保証することが必要ではないだろうか』(住田昌二氏、p13)『参加の環のなかで協働が模索されることによって、地域に住まうことのあるべき方向が見い出されることになる』(住田氏、p15)等々の文章が、これからの住まいづくり=まちづくりのありうべきイメージとして迫ってくる。
 さらには、コーポラティブ、コレクティブ、農住、造景、地域材、まちづくりセンターといった、貴重な実践が次々と報告される。そのどれにも、未来の社会を支える欠くべからざる考え方と想いがあることに驚愕を覚えた。
 「参加」や「共生」といった言葉を真摯に考えようとするなら、その様々な具体例を探らなければ真実には到達し得ない。大文字の固定した「参加」や「共生」があるわけではないからだ。『建築士は社会に対して積極的に発言してこなかったし、権威ある発言ができる社会的立場を確立する努力もしてこなかったのではないか』(p25)という藤本昌也氏の文章があるが、「参加」や「共生」が広く社会のキーワードになりつつある現在、住まいづくりやまちづくりを実践している現場で考察されたことを土台に、これまでの反省を大きく活かせるのだ、というメッセージであることが伝わってきた。
(東京大学都市デザイン研究室助手/窪田亜矢)


 昨今、私たちを取り巻く生活環境は急激に変化しています。高齢化社会、女性の社会進出、IT産業の発展等、建築物を作る設計者もこれらに起因する生活の変化に対応した環境作りを行っていく必要があります。
 高度成長期の地域計画論によって展開された開発地は既に成熟期を迎えていますが、開発当時に同世代の層が入居した結果、現在では高齢者が大半という住宅地が出現しています。また住宅やマンションばかりが建ち並び、いささか活気の無いまちが、日本中によく似た風景として存在しています。今後は、高齢者、障害者または子供達に限らず、全ての人にとって安心で心地よく共生できる地域を創出していかなければなりません。
 コレクティブ住宅のように特定のサービスが提供される住まいや、コーポラティブ住宅のようにコミュニティ作りを積極的に作り出す住まいが増加する中、本書ではそれらの実例について、作り出された背景とともに様々な分野の方の見解が述べられております。これらは共生の住まいの方向性を考えるにあたり、大変参考になるものです。また、農住共生の参加型まちづくりは、可能性を秘めた大変期待の持てる共生で、実例とともにそのノウハウについて述べられています。土地や風土に合った農住共生が、今後各地に展開される事が非常に望まれます。山村と都市を結ぶ住まいづくりでは、木材を通したヤマとサトの交流についての活動事例が挙げられております。再生可能な自然材料と人との、建築を介した共生です。設計者は環境という意味でも社会的責任を負っている自覚が必要です。  本書は、全般に渡りさまざまな共生のあり方について述べられていますが、集住デザインの造景作法の章に挙げられている〈応答する建築〉であるか否かが、そこに集う人間のコミュニケーションの質を大きく左右すると考えられます。共生の時代を迎える今後において、設計者が〈応答する建築〉を作ることが非常に重要です。
 設計をされている全ての方にとって、今後の建築について改めて方向を見出す事の出来る一冊です。
(一級建築士/Y. I )


 担当編集者から

 もはや住まいに対する夢はマイホームの購入ではない。各人が自分の住処をいろんな形で造りだす時代なのだ。とはいっても、自分だけでは何ともならないし、目の前にはあらゆる問題が山積している。そこで住まいのエキスパートである建築士の力が必要となる。
 本書では「参加」と「共生」という二つのキーワードに基づいて各地の実践を紹介している。机上の理論だけでは終わらない、現場の様子を垣間見ることができる。熱意ある住まい手があつまったコーポラティブ住宅、「農」のまちに住み手を取り込む農住共生、危機に瀕する山をなんとかしようと地域材を利用した住まいなど、多くは個々の住まいだけでなく地域のまちづくりにも拡がっている。  この本から、住まいづくりに秘められた多くの可能性を探し求めていただきたい。日本のまちはまだまだ再生可能である。
(N)



 誘われて建築士会の集まりに出たことがある。そこでは住まいづくりやまちづくりについて、多くの人達が熱心に語っていた。こんなに多くの建築士の人達が動くのだから、いよいよ世界が変わるのかと期待に胸を膨らせたものだが、実際の世の中はなかなか変わらない。むしろバブル時代も真っ青な強引なマンションが随所に建ち、街はどんどん壊れてゆく。
 本書もそのような建築士会の活動から生まれた本である。著者の方々の真摯な姿勢、熱い思いには頭が下がるが、その思いは果たして現場を変えることができるのだろうか。本は一つのツールにすぎない。もしこの本の熱い思いに触れるところがあったら、参加と共生の住まいづくり部会に連絡してほしい。そして、現実のなかでの議論、活動につなげていっていただきたい。
(MA)


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