osusume2 次代に継承すべき
町家と職人たちの技術
町家再生の技と知恵
京町家のしくみと改修のてびき

京町家作事組 編著



B5変形・144頁・2600円+税
5月30日発行

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 読者レビュー

戸時代の京都、町家大工は一年の大半をお得意さん回りで過ごしていた。得意先でやっていたのは、棚や雨樋を直したり、ちり取りや行灯の修繕をしたりという、およそ棟梁でなくてもできそうな仕事である。二、三週間続けて一カ所の得意先に通うこともあった。それは町家の修理や増改築工事であり、一年に請け負う町家の新築工事は一、二軒程度であった。
 このような棟梁の日々の仕事ぶりが手に取るように分かるのは、記録を書き残した町家大工がいたからである。本書編著の主体である京町家作事組事務局長田中昇氏のご先祖、代々近江屋吉兵衛である。祝儀、不祝儀には身内よりもむしろ出入りの棟梁が仕切るとはよくいわれることであるが、吉兵衛の動きを見ているとなるほどと思われる。
 江戸時代の京都はほぼ八十年ごとに大火に見舞われたから、町家もその都度建て替えられてきた。けれど、日常的には棟梁が得意先にちょっと顔を出しては家の様子(建物だけでなく、ときには家内のことどもまで)をチェックしていたのである。
 建物を長持ちさせる基本は、大事に至る前に適切な処置を施す普段の手入れ、メンテナンスである。江戸時代(そして戦後もしばらくは)には、それを可能にする住み手と大工との関係が成り立っていた。出入りの大工は、身近な住まいのホーム・ドクターのような役割を果たしていたといえようか。
 生活文化の粋、評者は京町家をそのように位置づけている。町家を確実に次の世代に引き継いでいくためには不断の努力を要する。それは単に建物を残すことだけで完結することではない。ヒトとモノを含む文化、技術の大系を保全することにほかならない。
 町家の復権を志す職方たちが普請(協力)して本書は成った。積み重ねられてきた技や工夫をひろく共有し、かけがえのない生活環境を存続させようという熱い思いが伝わってくる。
(京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科教授/日向 進)


書は、京町家の建築・修繕等を行う職能集団である京町家作事組の手になる「京町家の改修・施工マニュアル」である。というフレーズを聞いただけで、難解な技術書かと思わず手が止まってしまう方もおられよう。しかし、これがとても読みやすく、また面白いのである。
 本書の最大の読み所は「第2章〈図解〉京町家ができるまで」として、京町家を建築していく様子を工程を追って図解している部分であるといえよう。各工程が見開きの鳥瞰図で示されており、丁寧かつ理論的な説明が心地よい。某TV番組さながら、思わず我が手で作ってみたくなってしまう、また、作ってしまえるのではないかと錯覚してしまいそうになるテンポの良さである。いや、それが錯覚であるかどうかは各読者の腕と心得次第なのかもしれないが。
 このテンポの良さは第3章になっても変わらない。既存の京町家の修理・改善のためのマニュアルであり、こちらの方はかなり現実に使用される読者も多いのではないだろうか。
 改修事例も、改修を考える読者のニーズに応えた生活感のあるものであり好感が持てるものとなっている。
 本書の魅力の大宗は、これらマニュアル部分であることはいうまでもないが、加えて筆者が個人的に最も興味を抱いた点について述べておく。それは、第1章の京町家の成り立ちについて述べる部分で示されている著者の職人的視点である。歴史上の資料に京町家の原型が描かれていることは知識として知っていても、そこから往時の工法や材料、施工、専門家の所在についての具体的考察がここまでできるとは、新鮮な驚きであった。もし、この部分にご興味を持たれた方がいらっしゃれば、本書を片手に京都駅前の「道の資料館」にある「洛中洛外図上杉家本」の大きな写しを御覧になられることをお勧めする。
 さて、最後になるが、筆者を含め、現在、建築関係の専門家・実務家達の中でも、京町家等伝統的な木造建築物についてきちんと理解できているものは数少ない。その現状を憂え、自らの知識を体系化して伝え、それを世の仕組として動かす努力をする、それが本書の出された動機の一つであることは疑う余地もない。我々、都市・建築にかかわる技術者は、その警鐘を真摯に受け止め、それぞれの立場からの継続的な取り組みを図るべきであろう。
(京都市都市計画局都市づくり推進課/岸田里佳子)


 担当編集者から

層的なブームに便乗するのではなく、本質的に町家を受け継いでいく知恵、後世に残していくための施工者の技をなんとか共有しようという野心をもって、本書は生まれました。京町家作事組という市民組織は、単なる町家改修の施工集団ではありません。知識と技術を共有し、いかに若い世代にそれらを伝えていくかという啓蒙的な側面も持ちあわせています。
 本書がかなりマニアックなテーマにも関わらず、非常に風通しのよいものになったのは、彼らのそのような思想が執筆・編集にもうまくはたらき、わかりやすい図解を心がけることにつながったからだといえるでしょう。もちろんこの一冊で町家が直せるようになるわけではありませんが、京町家をめぐる基本的知識と、彼らの町家に対する熱意は十分に伝わることと思います。
 著者の梶山理事長が言うように、京町家の存在は、法律的にも施策的にも、矛盾を含んでいます。よって都市のあり方を考える際にこれほどいい題材はないと思われます。過激な挑発の書ですが、大学ゼミの教科書にもぜひどうぞ。
(C)


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