試行錯誤を繰り返した ドキュメンタルな取り組み |
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都市のデザインマネジメント アメリカの都市を再編する新しい公共体
北沢猛+アメリカン・アーバンデザイン研究会編著 |
読者レビュー 米国の多くの都市では1950年代後半から、急激な郊外化に伴い疲弊した都心部の再生に取り組んできている。これらの問題は自動車社会が過度に進行した米国固有のものであると理解されてきたが、今、我が国の多くの地方都市で起きている事象をみていると、そのスケールや現象の細部、そして顕在化したその問題の深刻さは異なるが、その背後に潜む問題は米国の都市が経験してきたものとほとんど同質のものであるように思われる。 本書は、試行錯誤を繰り返しながら都市の再構築にチャレンジしてきた米国における都市デザインの取り組みのドキュメントである。本来、都市デザインの究極の目的が、都市固有の資源を活かした個性豊かで快適な都市環境を創造することであるならば、その取り組みはその都市の内発的な地域力ともいえるものを引き出すプロセスであり、その結果であると理解してよいだろう。 我が国では、多くの都市において、タウン・マネジメント・オーガニゼーション(TMO)が中心市街地の活性化の切り札として組織されている。しかし、ここでいうマネジメントは、実態において、街づくり組織の運営という枠を大きく越えたものではない。一方、米国の幾つかの都市においては、将来の都市像を共有した上で、都市の空間、組織、活動をスタティックに捉えるのではなく、それらを総合的に地域の有する力として紡いでいくプロセスと創意工夫が、衰退した都心を個性豊かで快適な都市環境へと蘇らせてきている。本書はその総合的なまちづくりへの取り組みを都市のデザインマネジメントと呼び、その戦略と手法の多様性をドキュメントとして明らかにしている。急激な車社会の進行を背景に都心の空洞化という米国と共通の課題を抱えるようになった我が国の都市の現状に対して、その課題に対する処方箋というだけでなく、都市を再生するためには、一人一人の住民のクオリティ・オブ・ライフを体現した、住民の生き甲斐と誇りが投影された総合的なまちづくりの戦略が不可欠であることを明らかにしている点で、本書の意義があるだろう。 (都市デザイナー、工学院大学建築都市デザイン学科教授/倉田直道) 担当編集者から 20年ほど前、アメリカの都市が財政赤字に苦しみ、捨て去られ、荒廃した地域を抱えのたうち回っていたことがある。それを横目で見ていた僕たちは、日本は絶対大丈 夫、日本が一番とすら思っていた。 それが今では逆転し、日本は落伍者のように言われている。そして、慌てて「やれることは何でもやろう」と言わんばかりに、都市づくりにおいても規制緩和策を次々 と打ち出している。 なるほど、アメリカにはTFIやTDRなど開発利益や規制の不利益を経済的にもバランスをとろうとする考え方や、BIDなど民間活力を主軸に添える工夫など、日本的公共 事業の文脈とは全く違った発想がある。規制も日本のように緩くて堅い規制ではなく、厳しいところには厳しいが、柔軟だという。 それらを本書から読みとって頂くことも大切だが、一番知ってほしいのは、市場経済とグローバリゼーションのメッカ、アメリカでも、都市は市民の財産と認識されだ し、都市の目標像が市民に共有され、そこから総合的なまちづくりに取り組まれ始めたことだ。そこに本書の書名が「デザインマネジメント」とされ、「新しい公共体」 とされていることの意味があると思う。 (M) 本書は気鋭のアーバンデザイナー、都市計画の研究者が現地調査を踏まえ、豊富な資料で全米7都市の実践的取り組みを追ったものである。それぞれの都市で、地区のオリジナリティを踏まえた、衰退や荒廃からの脱却が試みられている。そこには、自治体・民間・NPOの連係による独創的な開発手法と、“仕掛け人”の存在があった。 これは海の向こうの話だけではない。日本においても各地で中心市街地の衰退が言われており、実際にそれを乗り越えてきたアメリカから学ぶものは多い。 「変革の時代にある今こそ、新しい都市を再編するチャンスだ」と著者は言う。旧来の規制にとらわれず、総合的な視点で都市の明日を切り拓くアーバンデザイナーに、ぜひとも参考にしていただきたい。 (N) |