学芸出版社

	まちの再生を目指し、都市計画の枠組みに挑戦
	職住共存の都心再生創造的規制・誘導を目指す京都の試み青山　吉隆編著 A5判・224頁・2400円＋税 11月30日発行「職住共存の都心再生」トップページへ

　読者レビュー

京都から待望の本が出版された。国の進める都市再生とは一味も双味も違う伝統的な木造市街地の再生を問い掛ける内容である。全国の中心市街地は多かれ少なかれ伝統的な木造家屋の町並みが形成されており、地域独自の景観が維持されてきた。現状はこうした家屋が取り壊され、高層建物や景観を継承しない建物に建て替わったり、空き地になったりして町並みが消えている。単に伝統的な家屋や町並みを残せ、高層建物建設反対という単純な問題ではないことも、執筆者に共通した問題意識である。
　この本では、建築基準法や都市計画法などの近代都市計画の思想が町壊しに直接的な影響を与えていることを、たとえば小浦論文では分析し、上村論文ではそれを乗り越えることを「歴史とともに先端を切り拓く都市への再生」に関する京都経済同友会の提言で述べている。リム論文は我が国の都市計画がないがしろにしてきた税の問題を取り扱い、町並み保全を目的とする税の考え方を丁寧に整理し、かつ率直に苦言・提言をしている。岸田論文では、市が設置したまちなみ審議会の緊迫した雰囲気について筆致を抑えながら伝えている。まとめになっているパネルディスカッション「まちづくりと京町家の再生」では本音の議論が展開されている。
　これまでの都市計画の枠組みに挑戦している緊張感がどの論文にも貫かれている。執筆者である大学研究者や実務者は、それぞれベースになっている活動があり、迫力を感じさせる厚みのある内容になっている。
　ところで、この本を四次元的に楽しむためには、市や京都市景観・まちづくりセンターなどのHPや雑誌、たとえば最新号の「チルチンびと」の特集「民家再生と創造」などを読むとよいだろう。京都市内でいいコラボレーションが展開していることを知ることが出来る。
　しばらくは、京都の動きから目が離せない。私はこの本を京都1000年の都がこれからの1000年を展望するマニュフェストとして受け止めたい。

（都市づくりNPOさいたま理事、埼玉県職員／若林祥文）

近年、バブル期以降の地価の下落や様々な規制緩和施策により、全国的にマンション開発が活発化している。しかし、特に生活と生業が共存しているような京都の都心部では、地域住民が思い描いてきた地域イメージと各種法規制との間に大きなギャップがある地域も多く、周囲との関係性への配慮もなく場当たり的に建設され売り逃げされていくマンション開発によって、住環境の悪化、人口構成の偏向、街並みの破壊等、様々な問題が生じている。京都都心部のみならず、東京都心部でも、谷中や神楽坂など、歴史的な街並みが形成されている地域に、周辺の街並みにそぐわない巨大なマンション開発が持ち上がり、地域住民による活発な反対運動が行われた地域がある。
　本書は、京都の都心再生を、単に「町家」という歴史的な建築様式が未だ街に存在しているという外観的な視点で捉えるのではなく、長い歴史の中で引き継がれてきた生活と生業の場が共存する、つまり職住共存という「生活文化」の視点から捉え、京都ならではの「もう一つの都市再生への道」を理論だけでなく具体的施策として提言しているところが極めて特徴的である。
　また、具体的な事例として、企業所有の土地に関し、住民・企業・行政のパートナーシップの元、土地利用のあり方から検討するという、全国的にも先進的な取り組みが行われた中京区姉小路界隈の「地域共生型土地利用検討会」が紹介されている。首都圏でも、企業等が保有する大規模な土地の開発に関し、単に開発を反対するのではなく、周辺住民との協議の中で計画づくりを行って欲しいと住民側から働きかけている地域が実際に存在しており、本書はこれら他地域の住民や自治体に対しても、貴重な情報と大きな力になるであろう。
　本書の提言の一部は現在京都市議会で条例化に向けて審議中とのことだが、職住共存の都心再生のためには端緒にすぎないのではないか。京都の街にとっては、現行の都市計画制度の枠内では直ちに対応できない中長期的な課題の具体的対応こそが早急に望まれるところであり、近い将来、本書における様々な提言が、現行の都市計画制度の不備や一方的規制緩和施策に風穴をあけるような現実の施策となるよう強く願っている。

（東京大学先端科学技術研究センター特任助手／野澤千絵）

　担当編集者から
ヨーロッパの街にゆくと、住んでみたい町並み、住んでみたい住まいが山のようにある。ところが京都では、何千万ものお金をつぎ込んでも、乱雑な街、平板な住まいにしか住めない。もっとこましなマンションをつくって欲しい。町家も荒廃するに任せずに根性を入れなおして住んでほしい。しかし、そんな期待はむなしく、都市再生と称して、土地をお金に変えることに執着する制度・政策がまかり通ってゆく。
　そんな思いを深めていたおり、まちなみ審議会に参加した専門家のパネルディスカッションを聞いて、これはひょッとすると本当に第一歩になるかもしれないと思い、本にしていただくことを思い立った。
　不十分とは言え、本書の主張の一部は条例化され実施される。果たして、どういう結果を生むか、注意深くウォッチいただきたい。恐らくそれは、生活の質の向上を目指しながらも、いまだに手立てを見出し得ない多くの都市にとっても興味深い実験ではないだろうか。

（M）

京都といえば、町家の家並みが連想されるが、実際は、そんなところを探すのが難しいくらいである。もともと京都では伝統工芸が栄え、「職」と「くらし」の場としての町家があった。しかし、産業の衰退とともに町家がマンションやビルに建て変わり、住民の生活感すら感じられない。
　町家を残して欲しいという思いは誰もがもっていると思うが、家主さんからしてみれば維持することが大変だし、難しい面も多い。しかし、こうして行政でも条例化に動き出したことで、町家がのこる環境が整備されれば、京都の「くらし」を継承していくことが可能となるのではないだろうか。
　こうした動きをドキュメンタルに捉えた本書は、地域性を活かしたまちづくりを目指す多くの自治体にとって参考となること間違いなし。

（N）