みどりから始まる 参画と協働のまちづくり |
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読者レビュー 一気に読み通せる書である。それも優れたランドスケープの専門書として。 運動論としてのコミュニティデザインの新しい枠組みを、実践結果に基づいてわかりやすく解きほぐしてくれている。はじめの「みどりの力を信じて」では、震災からの復興に関わった経緯が、著者らの専門的立脚点を見事に表現している。このみどりの専門家としての職能に基盤を据え、みどりの潜在的特性の力を信じて行動することからスタートしたというイントロは、読む者をのめり込ませる。 第2章の展開も心憎い。みどりを信じた行動の結果、まちが変わってきたことを見据え、みどりという素材、空間の持つ機能効果を余すところなく言いあてている。さらに、まちの再生への様々な働きかけから、目を大きく広げ、地域的・生態的視点を取り入れたエコアップ、ビオトープ、農都交流といったキーワードを使い、都市・農村交流活動などの実践から行政・企業・住民のパートナーシップの枠組みを構築してきた様が書き綴られた第3章は圧巻である。 第4章には、本書が単なる実践報告書でないことの証がある。「みどりのコミュニティデザイン」の方法論の提示に成功しており、本書が専門書として優れていることを示している。これは多様なコラボレーションを通じて、環境を管理することから運営することを中心的視座に据えた、行動デザイン論の提案である。著者らはこれをマネジメントの方法論と呼んでいるが、あえていわせていただければ「ランドスケープマネジメント原論の提案」である。 終章に掲げられた実践のための様々なノウハウが、新たなガイドブックとしての活用を可能としており、本書の価値をさらに高めている。ただし私は、震災という恐怖に遭遇したくないという面から、復興のためにという使い方はしたくない。本書を新しいコミュニティデザインのツールとして座右に置きたい。 庭を失った現代大都市の住民が、井戸端グループとしてこまめに働きかけ、瓦礫の中にみどりの空間を蘇生させることを通じて現代版の庭の効用を実感し、そこに協働作業を通じて参画することにより、現代版コモンへの展開に成功している。そのことから、庭仕事は人を引きつけ、輪を大きくする源泉であるという哲学的な側面も持っているといえる。庭を舞台として、「環境優先社会」とこれからの「市民活動」という大きなうねりの重なり合うところにあるのが「みどりを用いた豊かな地域社会の形成」という動きだ、という編者の説明が十分な重みを持っている。 (千葉大学園芸学部緑地・環境学科教授/田代順孝) 阪神・淡路大震災という悲劇が起こった1995年は、後に、ボランティア元年ともよばれた年だ。 震災後のまちづくりワークショップは、神戸市内だけで約80件を数えた。 うち約30%が公園・広場・花・みどりをテーマにしたもの。 家が倒壊し、心に傷を負った市民にとって、みどりは大きな癒しとなったのだ。 神戸市民のすごいところは、 「人に対して花でもてなそう」 「まちへ向かって花を咲かせよう」 と、活動を外へと向けたことだ。 ガレキにゲリラ的に花をまく。 移動生垣を設置する。 ドングリを預けると、苗になってもどってくる「どんぐり銀行」。 などなど。 本書は、こうした、花やみどりを用いて様々な形でコミュニティと関わる活動を「みどりのコミュニティデザイン」と位置づけた。 そして、具体的な活動内容について紹介している。 なかでも印象的だったのは「芦屋だんだん畑」だ。 この畑は団地街の公共緑地につくられた。 交流の場としてだけではなく、ランドスケープ彫刻としての「畑」というユニークな面も持っている。 花壇ではなく、あくまで畑であり、収穫や食べる楽しみがある、というのがいい。 団地住民に高齢者が6割をしめる、という地元事情も考慮されている。 農業が身近だった世代にとって、だんだん畑は、日本の原風景を思いおこさせる、再生と癒しという意味を持っているのだ。 ユニークなコンセプトが、地元住民を置き去りにしなかったのが成功の秘密だろう。 だんだん畑に限らず、紹介されているボランティア活動がさわやかに響くのは、ボランティアにどうしてもつきまとうプレッシャーから逃れているからだ。 熱心すぎるあまり「〜せねば」、「〜であるべき」と言い続けて息苦しくなってしまうボランティアも多い。 「花やみどり」に象徴されるように、押しつけがましくなく、それでいて人の心を和ませるボランティアのありかた。 本書からは、そんなボランティアによるまちづくりの未来が見えてくる。 (岡野義高) 担当編集者から 本書の趣旨は、震災に後押しされる形で、みどり豊かなまちづくりの先進地域となった兵庫・阪神間の様々な活動の紹介を通じて、みどりをツールにした市民参加型まちづくりを提案することです。家のまわりを生垣にしたり、街角に花壇をつくることから、ビオトープや公園づくりとその運営まで、みどりを通じたコミュニティへの関わり方は実に様々です。本書ではそれらをまとめて「みどりのコミュニティデザイン」として紹介しています。 震災からの復興への個人のささやかな取組みが、みどりのコミュニティデザインと呼ぶにふさわしい活動に昇華され、やがて大きなうねりとなって地域全体を包み込む様子が、市民、専門家、研究者、行政混成の執筆陣によって熱く語られます。 震災という特別な状況下でなくても、またある特別な地域でなくても、「みどりのコミュニティデザイン」が始められることをこの本から感じとっていただきたい。そしてそれを成功させる秘訣や知恵をこの本から是非つかみとっていただきたい。全国でみどりの力を信じて活動されている方を勇気づけたり、これから活動を始められる方の背中を押してほしいという願いを込めた1冊です。 (M) |