作家をクローズアップすることで 生きたモダニズムがみえてくる |
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読者レビュー 「自分自身の歴史を見る視点を発見してもらいたい。」(本書「はじめに」より) 以前から、歴史に関するあらゆる説明は、事実についてカタログ化以上に、何を事実として選択し、どのように順序づけ、どのように評価を行ったのかが重要なポイントであった。そのため通史的言説の多くは、全体的視点を優先させた選択と順序づけ、評価によって歴史的事象を捉えたため、時に単純化され、時に観念化されてきたと考えられる。 本書は、包括的な理解を図る近代建築通史のような、全体的な視点のもとでは見落とされがちな特定の作家個人の活動に焦点を当て、そうして得られた理解を背景に、読者が自らの歴史観点を発見することを期待して構成されている。換言すれば、建築の歴史に関わる作家のデータベースを提供しているわけである。データベースと言っても百科事典ほどのヴォリュームがあるわけではない。その点では厳選された作家に焦点が絞られているとも言えるが、作家14人の年齢、活動地、活動分野を見ると、いかにバランスよく選ばれたのかが理解できる。また徹底されたその姿勢は紙面構成からもよく伝わってくる。 各作家は、建築通史上での知名度や作品数等に関係無く一律8頁割り当てられ、その8ページの内訳は、顔写真つきの表紙1頁、本文6頁、注と参考図書紹介で1頁となっている。本文は、「時代背景」「生涯」「理念・方法」「作品」と大きく4つの項目に分けられていて、各ページは文章と図版が50%の割合で構成され、テキスト情報とビジュアル情報のバランスにも配慮が行き届いている。各作家毎に、非常に丁寧な注釈つきの時代背景が記述されているので、 初学者が部分的に「つまみ読み」することも容易である。 また参考図書の欄には、邦訳書を含め基本的に日本語で読める文献が紹介されているので、さらに知見を広める場合も、比較的容易にスタートが切れる。 以上の内容から、以下の2つの読者層、2つの教材としての姿が見えてくる。一つは、一度建築史の授業を受けた者が、より深く独自に歴史を読み解くための教材であり、もう一つは、これまでの歴史的評価に関係なく、作家個人と出会い、そして理解を深めたい者への教材である。 私(評者)自身、教える立場となり、歴史事象に関する講義は、唯一無二の正解が教えられない点で設計課題と類似している、と感じることがある。本書のような歴史教材が、学生達にどの様な刺激を与えるかはまだ分からないが、 本書で得た知見を基に、学校の講義中に鋭い質問を投げかける学生が出てくれば、建築史の講義は今までになく盛り上がるだろうし、その様子は設計課題のエスキス同様に、スリリングかも知れない。 最後に著者の顔ぶれを見ると、少ない頁数の中で、密度の高い内容を執筆するに相応しく、かつ男女比、活動場所を見ても、本書の構成趣旨が浸透している点に気がつく。また14人の作家という規模は、半期ぐらいの講義にはちょうどよく、また2500円という価格設定も学生には手の届きやすい金額である点には、頭が下がる。 このように用意周到に準備された教材が、どのような反響をもたらすか、実はもっと楽しみである。 (国立石川工業高等専門学校建築学科助手/内田 伸) 本書に紹介された14人は、近代という大きな時代の変化の中で活躍した著名な建築家・インテリアデザイナーだ。その作家達が生きた時代背景、生涯、作品と理念・方法を中心にこの書は構成されている。「これが教科書なら……」。私がこんな第一印象を持ったのは、この本が学生時代に使用した教科書とあまりにも違っているからだ。本書はデザイン運動の流れや歴史的背景と共に「作家個人」に焦点を絞り、作家14人の実像に接することができる。これまで、歴史的背景が作家に影響を及ぼし、作家同士も影響し合う「モダニズム」は、複雑で理解が困難だと思っていた。しかし、各作家についての文章を読み進めると、有名な作品が生まれる背景にはこのような歴史や理念・方法が潜んでいたのか、と素直に興味を引きつけられる。さらに、写真・相関図・年表等の豊富な資料が理解への大きな手助けになり、モダニズムへの興味と共感をもたらしてくれる。 ところで、私達は何かにつけて、どうにか独創性を生み出そう、と頭を悩ませてしまう。けれどなかなか出てくるものではない。そんな時、偉大な作家が辿ってきた道を深く知ることから学ぶべきものは沢山ある、とこの本は教えてくれる。 自分の読み方で14人の作家と自由に向き合い、「自分ならどうするか」を主体的に考える、というモダニズムを学ぶ本来の目的を改めて気づかせてくれる一冊だ。 (武庫川女子大学生活環境学部生活環境学科/宮本奈央美) 担当編集者から この本はこんな人にお勧めです。 1 モダニズムの主要作家の活動の全体像をつかみたい。 2 興味のあるモダニズムの作家について知識を深めたいが、ボリュームのある本だと最後まで読み切る自信がない。 3 モダニズムの動きは一通り頭に入っているが、作家同士のつながりや運動の関係をもっと詳しく知りたい。 4 これまでの近代建築・デザインの本は、人名・建築名を書き並べ、史実を追うことに重点が置かれ興味が持てない。 5 近代建築史の本は、家具やインテリアをほとんど紹介していないから不満だ。 6 近代建築史の本は、写真が少ないので、もっといろんな作品の写真を載せてほしい。 7 参考図書や注釈などが充実していて、調べる手間のかからない本が便利だ。 8 モダニズムの作家たちがどうして凄いのか、その理由を知りたい。 9 モダニズムの作家たちの創作を支えていたものは何か知りたい。 10 そもそもモダニズムって何なのか、わかりやすく教えてほしい。 これらの人に、この本はモダニズムの新しい扉を開いてくれることでしょう! (M) |