osusume2 パニック状態から抜け出す
実践的技術を伝授
一級建築士設計製図試験
エマージェンシーマニュアル
合格者・不合格者再現ドキュメント

曽根徹+学科製図.com 編著



A5判・192頁・1800円+税
2月10日発行

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 読者レビュー

「5時間半? 随分長い試験だね。途中で寝た?」2度目の設計製図試験が終わった後の、知人の一言。「とてもじゃないけど、そんな余裕はないよ。」と無理やり笑いつつ答えるのが精一杯だった。出来が悪かったのか、良かったのか、全く見当がつかずに不安な日々を送っていた発表待ちの最中。正直ムッときた。仕方ない、この試験は体験した人にしか分からないものだから……。
 とにかく、この試験は時間との戦いである。いくら試験用の図面とはいえ、実際の設計業務では考えられない程の短時間でプランをまとめなければならない。さらに、本試験にしかあり得ない状況、例えば極度の緊張、初めて直面する設計条件などから、自分でも信じられない程のミスを犯すことが少なくない。ミスを防止するには製図試験の状況を知り、エマージェンシーにビビらない備えをしておくのが肝要である。しかし本試験を実体験する機会は、1年にたったの1回。本書には合格者7名、不合格者4名の詳細な試験当日ドキュメント、エスキース、再現図面、著者による事例分析が掲載されており、読者は可能な限りリアルに追体験できるのではないだろうか。製図試験を3回も受けた身として、こんなシビアである現実を知っていれば長丁場にはならなかったという思いから、本書に参加して「ブラックボックス」であったこの試験の事実を伝えようと思った。
 「講師控室がない……事務室を1コマをずらして無窓ながらもスペース確保」「サブ階段がない……所要室を縮めて急場をしのぐ」これは、合格者のエマージェンシー対応の一例である。「うわっマズいな」とミスに気付いた瞬間、「ああどうしよう」とひたすら焦るのではなく、反射的に解決策を考え、それを何度も繰り返している。飛行機の操縦に例えれば、機首が下がっているのを早期に察知し、失速する前に機首をこまめに上げているのである。それが合格の秘訣であることを読みとって欲しい。このように、エマージェンシーを切り抜ける技、しかも明文化できない大技・小技をお伝えできれば参加者としては本望である。さらに、合格事例と不合格事例を対比すれば、エマージェンシーに直面した際に、冷静に解決案を思いつくか、パニックに陥るかではっきりと明暗が分かれることが読み取れるのではないだろうか。
 「体験談の投稿本? そんなのなら、去年受かった大学の同級生の話を聞けばいいし、インターネットでもそんなことを載せたホームページもあるし」。確かにそうだろう。ただし、その事例はその人個人、その年の課題でしか起こり得ない「特殊解」である。「ブラックボックス」に憤りを感じた体験から、サイトで再現エスキースを公開している。しかし個人サイトで、しかも「特殊解」のみの公開には伝達の限界があると感じる。本書では特殊解を集め、分析し、要素を抽出し分解することで、いろいろな場面でも適用できる情報源にしている。さらに、詳細な試験当日ドキュメント、エスキース、本番さながらの再現図面、著者の事例分析が四位一体となり、試験会場で起きた事件の真相をより正確に伝える貴重な情報源となっている。
 自分は、不合格であった2度目の受験の直後に、インターネットの検索やBBS(インターネット上の掲示板)で「こんなミスをしても受かった」という情報を探していたが、全く無意味な気休め行為であった。製図試験は全体のまとまりで評価される。断片的な事象、しかも文字情報だけでは参考にならない。まさに上記の点、すなわちエマージェンシー事例の統合と要素への分解が本書の特徴であり、存在意義とも言えるだろう。
 いろいろ褒めちぎるようなことを書いたが、最後に補足しておく。本書はいわば「両刃の剣」であることを念頭に置いて欲しい。「こんなバタバタでも受かるんだねー」と都合の良いところだけ抽出すること無く、合格事例と不合格事例の境目はどこか、一人一人が感じとって、このマニュアルを有効に生かして欲しい。そうすれば、万が一試験会場という暗闇で煙に巻かれたとしても、本書からくみ取ったことが非常照明の役目を果たして出口へと導いてくれるであろう。
情報サービス会社勤務/タピオカ(平成13年度試験合格、本書第3章に寄稿)



 担当編集者から
字ばっかりの変わった製図試験参考書(『エスキースアプローチ』もそうでしたが)だなぁと思われるかもしれませんが、本書のメインは、すでに受験された方による再現図面、そして再現ドラマです。お読みいただければわかると思いますが、その言葉ひとつひとつに非常にリアリティがあります。モノをつくるということは、特に建築分野では、多くの制約・条件のなかでやらなければなりませんが、その意味でも、今まで経験されてこられたスキルをこの試験で精一杯、発揮しておられることが手にとるようにわかります。受験経験者なら、読みながらつい感情移入をしてしまい、手に汗にぎるのではないでしょうか。
 この二次試験で求められるものは、製図の技術であること以上に、冷静に判断する能力、優先順位をつけて要求をすべて解決する能力、決められた時間内に物事をこなす能力が問われています。単なる受験テクニックではなく、資格を取得したあとにもつながる技術を磨け、と著者は言っています。そのあたりを掴み取っていただき、一級建築士資格取得、その後の仕事の実践スキルに生かしていただければ幸いです。
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