自然エネルギーが地域を変える
 まちづくりの新しい風

佐藤 由美 著

A5判・192頁・2000円+税
ISBN4-7615-2313-1

■■内容紹介■■
資源小国・日本は、風力、雪、バイオマス、小水力、太陽光、地熱といった自然エネルギーに満ちている。これらにいち早く着目し活用してきた自治体・NPO・企業の取組みが、新しい産業・雇用の 創出、環境保全、地方自治推進等の多様な価値を生み、地域を大きく変えている。自然エネルギーを地域で活かす先駆的事例を取材


 
読者レビュー

書の冒頭で紹介されている山形県立川町は、月山と鳥海山に挟まれた庄内地方の東南に位置し、最上川と、月山に水源をもつ清流、立谷沢川が合流する豊かな自然に恵まれた農山村である。日本三大悪風のひとつ「清川だし」を生かして風力発電に取り組んでいるが、その経緯はNHKの「プロジェクトX」でも全国に紹介された。立川町では、「町民節電所」計画の推進によって省エネルギーを進めながら、風力発電を中心に木質バイオマス、小水力発電を導入して「自然エネルギー100%の町」を目指している。また、昭和63年より町内で発生する生ごみなどのバイオマス資源を原料に堆肥を生産し、有機農業を推進するなど資源循環型社会の構築にも力を注いでいる。
 立川町に限らず、自然エネルギーの宝庫である農山村は、それぞれの特性に合ったエネルギーの生産と地域おこしが可能である。著者は、そうした農山村の未来を先取りしている全国各地の先進事例を細やかに取材し、しかもその地域、その事業がどんなことを考え、どこに向かおうとしているのか、専門的な情報とともに紹介している。自然エネルギーを広範に、ここまで詳しく紹介した本は初めてではないだろうか。本書で紹介されている事例は、地域によって自然環境やエネルギーの種類は異なるものの、そこに共通しているのは、「地域にあるものを生かすだけで、澄んだ空気を吸い、きれいな水を飲み、肥沃な大地が育てるものを食べ、健康に暮らすという豊かさを手に入れることができる」という豊かさの再定義である。私が町長になるとき「これから田舎が面白い」という言葉をキャッチフレーズにしたのも、まさにこれと同じ考えからである。
 日本の農山村ではつい40年前まで森林資源などの自然エネルギーで自給していた。その後の燃料革命により、農山村の隅々にまで化石燃料が入り込み、自然エネルギーは一時的に活躍の場を失っている。しかし、私は、遠からず、安全安心な農作物の供給地、再生可能な分散型エネルギーである自然エネルギーの生産地として農山村が見直される時代が必ず来ると確信している。本書はそうした農山村の未来を考えるうえでまことに示唆に富んだ一冊である。
(山形県立川町長/清野義勝)


21世紀はユビキタス・コンピューター、つまり「どこでもコンピューターの時代」になると業界では言っている。これはカトリックのウビクイタス(神はどこにもいます)というラテン語からとったらしい。しかし、わたしはその前にユビキタス・エナジーの時代が到来しなければならないと思っている。そして自然エネルギーこそがその条件を満たすものなのである。
 従来のこの種のエネルギーの本はエネルギーを供給する側の技術系や行政担当の著者が自分の専門分野を中心に机の上の知識で書いているものが多いのに対して、この本はエネルギーを使う立場から、風力、地熱、雪氷、小水力、バイオマス、太陽光、さらには省エネルギーにいたるまで、著者が自分の足でこつこつと全国各地を歩いて、触れて、感じて、それをまとめたものである。著者の強靭なフットワークに感心するとともに、女性の著者にありがちな情緒的な思い入れが抑えられ、きちんと定量的なデータに基づいた説得に「その通り!」と納得させられる。この本を読むと日本には自然エネルギーが満ち満ちているということを実感できる。まさに、日本の自然エネルギー証明書である。私も山形県立川町をはじめ、本書で紹介されている地域のいくつかとはお付き合いがあり、訪問したことがあることから、各地で自然の恵みを地域づくりに生かしている多くのパイオニアたちに思わず拍手をしたくなる。
 かつてのデンマークがプロシャ戦争に敗れ、国土の三分の一を失った絶望の淵から「外に失ったものを内に求めよ」と立ち上がって、世界一の福祉国、自然エネルギー王国になったように、読者は、わが国が持続不可能な20世紀型社会に決別して、持続可能な社会に踏み出すための処方箋を本書から読みとることができるはずである。
(足利工業大学総合研究センター教授/牛山 泉)


担当編集者から

こ数年、自然エネルギーのニュースは頻繁に取り上げられています。しかし、何か大事な視点が欠けているような気がしてなりませんでした。その欠けている視点を埋めるものになればと思い、この本を企画しました。この本には、それぞれの自然エネルギーの技術的な仕組みについては詳しく触れられていません。そのことよりも、自然エネルギーが、どのように人を変え、まちを変え、私たちの暮らしを変えるかを伝えることが、大事なことだと考えたからです。
 この本に登場する人々は、ざっと100人。住民、NPO、役所の職員、学者、企業の担当者などなど、様々な立場で自然エネルギーに関わってこられた方々です。何が彼らを動かし、まちを変えていったのか、著者の佐藤由美さんは、彼らへのインタビューを通して、実に丁寧に描きだしています。実現を阻む多くの困難に立ち向かい、自然エネルギーを地域に根付かせてきた人々の取り組みは、彼らに続く人々の心を奮い立たせてくれるに違いありません。
(M)