まちのマネジメントの現場から

自己変革するまちづくり組織

八甫谷邦明 著

四六判・224頁・1800円+税
ISBN4-7615-1181-8

■■内容紹介■■
危機に直面した地域のコミュニティや環境が悪化した都市の周辺、衰退する中心市街地などには、必要に迫られて「まちづくり組織」がうまれ退勢を逸回しようとまちの経営(マネジメント)に取り組み始めている。山間の小さな自治体から都市のまちづくり会社まで、『季刊まちづくり』 編集長が訪ね、その成功の秘訣をリポートする。


 
読者レビュー

誌「造景」は最も信頼を寄せていたまちづくり情報源だった。以前、自分のレポートを掲載していただいたときに、副編集長をされていた八甫谷さんの事務所を尋ねた。日本のあちこちのまちづくりの現場を歩いてきた八甫谷さんの話はとても面白かった。ひとつひとつの現場で、時に個人が、時に組織が、まちの資源を活かすために、そして新たな活力を生み出すために、動いている状況は決して単発なものではなく、この国で大きなうねりになっていることを確かに感じさせてくださった。
 そのような実感を活字を通して届けてくれたのが本書である。ややもすると空間更新や制度整備がまちづくりのゴールとして語られたり、「東京」の話題が偏重される傾向に、本書は注意を促してくれる。
 ある町長は、役場職員に向かって「あなた方に特権のあることはいいんだ。ただその特権をマイホームに使っちゃならない。地域のために全力を尽くせ、と説得したんですよ」と話す。明治以来の地縁をベースにした組織へと展開しながら、地元の利害から普遍的なまちづくりへと射程を広げていった人々もいる。TMOなどの最近整えられた制度をうまく活用していった事例もある。逆に破綻の事例もある。
 本書は、『「まちづくり」とは市民が自治的(自律的)な活動の「場」を構築しながら、コミュニティを育成するプロセス』とする。農業支援も歴史的環境保全も観光振興も再開発事業も、すべてそれ自身が目的ではなく、その過程で自治力が鍛えられることが重要なのだ。となれば失敗も、またとない学習の契機とできる。だから本書からは、まちづくりの現場で疲れている人へ、焦らずに取り組もうというメッセージが伝わってくる。私もまたそれで勇気づけられたひとりである。
 ひとつだけ残念な点は、「造景」などに掲載された時点ではカラー写真が豊富に使われていたが、本書では削減されていることだ。岩手県のランドスケープや京都の町並みを思い浮かべながら、さらにはそこで活躍している人々の顔を想像しながらページをめくりたい。
(工学院大学建築都市デザイン学科講師/窪田亜矢)

の本は今年末に創刊される『季刊まちづくり』という雑誌の前菜である。本書に登場したまちづくりのその後は随時雑誌の中で紹介して行く予定だそうだ。それまではメインディッシュはお預けかというとそうでもない。前菜だけでも十分に満足できる内容になっている。著者のルポタージュはそのまちの歴史的背景、地形の特徴、行政組織、自治会組織、その土地の人柄・気質、まちづくりの出来事等多くの情報が詳細に描かれており、現場の生の声が伝わってくる様である。まちづくりには様々な立場の人が数多く関わっていることが、それぞれのまちの現場を通じて見えてくる。私は本書に出てくる長野県飯田市から車で北に1時間のところに位置する人口6万3千人の伊那市で、今年11月に竣工予定の駅前の活性化を目指した再開発事業に携わっているが、町の一区画を再開発するだけでも地権者、行政、建築業者、登記、税務等の多くの人々が関わっており、まち全体を考えるまちづくりであれば尚更である。
 本書の題名は「まちのマネジメントの現場から」となっているが、具体的な事業計画が数字で示されているわけではない。マネジメントとはマネーをどうするか最大の焦点になるが、本書はマネーを人に置き換えてまちのマネジメントの最前線で頑張る人々に焦点を合わせている。再開発プランナーの職能の一つに従前資産の評価というものがあるが、それは地区内にある土地と建物がいくらであるかという具体的な金額を算出し事業計画の基礎データとするものである。まちにある資産を評価して具体的な金額に換算することもできるかもしれないが、まちづくりに関わる人々を具体的な金額に換算することが可能であるとすれば、本書に登場する人物の評価金額を合計すると天文学的な数字になると思われる。
 それは、まちづくり関わる人々のみならず、そうでない人々も含めて「人」が最大の資産であり、資源であるからである。
(再開発プランナー/斎藤誠)


担当編集者から

甫谷氏は足で稼ぐ編集者であると同時に、町並み保存連盟の理事を勤めるなどまちづくりの実践家でもある。それだけにまちづくりの現場で苦闘する人々への眼差しはやさしく、暖かい。
 紹介されている出石が興味深い。宮脇さんが活躍し、町並み整備で頑張っている小都市との印象しかなかったが、その裏には市民に支えられたTMOのモデルともいうべき人々の永年の努力があるという。この一事例だけでも元気が出てくることが請け合える。
 季刊まちづくりでもこういった話を紹介していただくようにしてゆきたい。
(MA)