読者レビュー
いよいよ21世紀に入り本格的な地方分権社会へと展開する中で、地方都市が主役の地域づくり時代の幕開けを迎えようとしている。しかし分権化への舵取りが遅すぎたために、すでに地方都市は様々な問題を抱え、自立した地域づくりへの道のりは険しい。中でも本著が対象としている中心市街地再生は、都市全体像を描き直す上で避けては通れない重要なテーマである。
1998年に中心市街地活性化法が施行されて以来、中心市街地再生が大きくクローズアップされいくつかの専門書が出版されてきているが、本著は既存図書と比較して以下の点が特徴的であり興味深い内容となっている。
第1に個人ではなく日本建築学会都市計画委員会内の地方都市小委員会による研究成果であること。計画的な研究成果の積み重ねのもとで編集されており複眼的な視点がある。
第2に専門家と行政担当者がペアを組み、当該都市の事例について協働で解説していること。通常はどちらかがそれぞれの立場で解説することが多く、その意味では偏った論にならざるを得ないが、両者による協働執筆は研究と実務の両眼を併せ持とうとするユニークな取り組みといえる。
第3に再生現場の報告が22事例と豊富なこと。多数の事例が提供する情報は多様であり、全体として日本の地方都市再生現場のアウトラインが描かれている。
第4にタイトルにあるように「持続可能なまちづくり」に焦点をあてていること。「中心市街地活性化のみに関する記述に留めず、『持続的発展が可能な都市』を念頭に置き、地方都市問題を多元的に捉えてその関係性を整理する」(中出文平氏)ことを目的の1つとしている。
本著を読むことによって、中心市街地再生に向き合う多元的・複眼的な視点と議論、再生現場の実情を十分に知ることが出来よう。読者自身が関わっている都市に近いと感じる事例もあるだろう。興味のある都市には直接出かけて現場をみることをお勧めしたい。
現在、多くの市町村は合併について協議中であり、2005年までに相当数が合併に至ることが予想される。将来、合併後の中心市街地再生状況を捉えた続編が出版されることを期待したい。
(三重大学工学部建築学科/浅野 聡)
担当編集者から
当社は京都にあり、「情報は東京一極集中なのに、珍しいですね」と良く言われるが、実は著者は東京圏が6割、関西圏が3割で、残りは1割ぐらいというのが実状だ。今回、各地で奮闘しておられる研究者、実務家が、これだけ多彩におられることが分かり、改めて感心した。地方分権だ、インターネットだといった本を出していても、自らはなかなか変われないのだが、これからは風光明媚で食べ物が美味しく、できれば温泉があるまちの著者ともっとおつき合いしたい。乞う、ご連絡!
(M)
地方都市小委員会によって研究・討議されてきた本書のテーマは、多くの自治体にとって避けては通れないものであろう。事例として挙げられている全国22地方都市のまちは、必ずしも地域資源に恵まれた都市ではない。しかし、実務に携わってきた人々の本音と研究者による分析がほどよく交錯した本書は、中心市街地の再生をはじめ、まちづくりに取り組む方々にとって、何らかのヒントを与えてくれると思う。
(N)
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