読者レビュー
私を取り巻くこの環境は一体何なのか?
これは、誰にとっても重要かつ難解な問いであろう。本書はポップな装丁で油断させて、この問題に真っ向勝負を挑む力作である。環境を創り、意味を与えてきたプロフェッショナル達(建築・ランドスケープ・景観工学・精神病理学・哲学の各分野において最前線を走る錚々たるメンバー)が出会い、場を共有した成果であって、多様な話題の中で「環境」を位置づけ、環境と人との「間柄」を徹底的に考察した、非常に喚起力のある素晴らしい一冊である。
人の住む場所として都市空間を理解するためには、この環境を受け容れる体験者としての我々(主体)の存在が重要である。この「環境」とは和辻哲郎が『風土』で示したように、根元的に我々自身が「外へ出る」ところそのもので、我々と独立して存在するものではない。そして、ここでいう「解釈」とは、この「環境」に対する我々の了解の仕方である。こうした見方に基づいて、本書に登場する7人は、それぞれの立場における解釈の実践を、生き生きと我々に示してくれる。そして彼ら同士による対話によって、それぞれの立場のあいだをつなぐコレスポンデンスがドラマティックに見出されていくのである。
彼らは皆、新しい解釈の地平へ向かっている。その姿勢は、人工物に埋め尽くされていく都市空間における閉塞感を打開するものであり、環境のリアリティを手に入れ、身体の延長としての技術によって土地と反応し、生きられる空間を再創造する方向性を我々に示している。この共有された場において、著者ひとりひとりがそれぞれの立場から主張しているのは、人に対して自在な触発的生産力を持つ環境を創造すること、すなわち世界を建築するのではなく、我々をとりまく全ての「モノ」を風景のような経験として改めて捉えることであろう。
本書で議論された「環境の解釈」は、今後の都市空間づくりにおいて、非常に有益な思想的背景になることは間違いない。私は次世代の環境を実際に創造する立場となるであろう学生をはじめ同世代の皆に、本書を必読書として自信を持って薦めたい。
(京都大学大学院工学研究科 都市環境工学専攻 助手/出村嘉史)
担当編集者から
省エネ、自然素材、緑化、ということばを使わずに環境の本をつくりたいと思っていたら、こういうものができました。デザインの本になったと思います。とても真面目な内容ですが、著者の懐の深さと、読後の解放感が気持ち良い。ぜひ感想をお寄せください。よろしくおねがいします。
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