図説 建築の歴史
西洋・日本・近代

西田雅嗣・矢ヶ崎善太郎 編

B5変判・184頁・定価 本体2800円+税
ISBN4-7615-2327-1

■■内容紹介■■
西洋建築史・日本建築史・近代建築史を、68のテーマで様式別に整理し、その歴史的な流れをわかりやすく体系的に理解できるコンパクトな一冊。関連する写真・図版を多数掲載しているが、加えて、各様式・有名建築家の代表的な作品を各テーマ数点ずつイラストで表現し、親しみを覚えながら理解できるような工夫をほどこした。


 
読者レビュー

頭言によると、初めて建築技術を学ぼうとする多くの若い人びとに、建築の歴史を概観し、建築に大いに興味をもち、目を向けてもらいたいと考えて編したとあるが、単に建築を学ぶ学徒のみならず、広く世界の文化史を学ぼうとする人たち、人間の歴史の変遷を知りたいと願う人たちにも、十分に役立つものである。
  全ページ170ページを西洋、日本、近代の三部にほぼ1/3に分け、各章の節を22〜23に区分し、各節の解説内容を要約したリード文で示すなど、より理解を深める方法をとる。この目次に沿うように、各章を年代順に代表する建築物を正確な手法のイラストで表示し、各時代の思想を視覚にうったえて理解させるよう取扱っている。このように目次を8ページにわたって表示した例を見たことがない。この目次を理解することで、世界の文化の様相が一望され、そのあり様に興味を呼び起こすものである。
  また、大きな特色は、見開き両ページで一節立とし、イラストや写真を用いて解説し完結している。この方法は、解説が文章としてかなり凝縮しすぎる恐れがあるが、それを補うコラムによって関連事項の理解を深めている。
  それがためにコラムの文字が小さく、読みづらい感がある。各章とも多くの大小のイラストを中心にすえて、その目的とする内容を解説し、コラムで補完するには、本書全体の構成のあり方に十分の考察がなされたもので、その企画構成に相当な研究がなされたものであろう。
  長い年月の経過とともに成立する歴史を、全体的に巨視的にとらえて通観し得る位置を与えていることが、本書が、主に建築技術を学ぶ学徒のテキストとして活用されつつあるものであり、正しく評価されていることにつながるものである。
  既刊の建築史に関する書は、写真を多用し解説するが、本書はイラストを多く用いて明確な表現とし、簡明な解説としたことが評価に値するものである。また、各時代の後に人物でよむ建築史の項を設けたこともその意義に新しいものがある。
  建築学徒のテキストとしてではなく、広く文化史を学ぶユニークな楽しい教養の書としても広く読まれることを望んでやまない。
(前 京都国際建築技術専門学校長、前 京都伝統工芸専門学校長/相川三郎)

者は専門学校に籍を置き、西洋建築史や設計製図を担当している。意欲が低下しているように思われる近頃の学生たちに対して、設計製図はまだその「効用」がわかりやすいが、授業しづらいのが西洋建築史である。なぜ遠い国々の、遠い時代の建築を学ばねばならないのか?――そのような質問は昨今のおとなしい(無気力な)学生からは出てこない。そうした疑問はむしろ教師側の独り相撲としてあるのだが、学生たちも無意識にそう感じているのではないだろうか。このような状況下で長年使用を続けてきた西洋建築史の教科書と図集が、内容的に(そして価格的にも、物量的にも)重くなったというのがここ数年の感想であった。他に替わるものがなかったので、いっそ自分たちでつくるほかあるまいと考えていた矢先に本書が登場した。多かれ少なかれ似たような状況は大学にも見られるのではないだろうか。
  本書『図説 建築の歴史』は、西洋、日本、近代――紀元前2500年の古代オリエント、エジプトから、ポストモダンまで――という建築史の全領域を、手描きされた図(一部写真)と文章によって説明する。西洋建築史に対する上記のような学生の無意識的な感想は、要するに、これを学ぶことによって建築の実務に役立つのか、設計がうまくなるのか、という「実用的な」ものである。実用的な欲求であるが、一面でわれわれに再考を促すストレートな疑念ともいえる。手描きの図を用いるという方法はこの疑問に応えるうえで適切な方法である。なぜなら、すべてを客観的に写し込む写真と異なり(写真にも写し手の視点や意図が入るのだが)、手描きの図では余分なものを省き重要なものを強調するという捨象が行われる。ひとことで言えば建築の見所がわかりやすくなるという利点が生まれるのである。この点、イラスト担当者が大学の建築関係学科の出身で、一級建築士であるというのは大いに心強い。
  各時代は2ページから6ページの範囲にまとめられている。一つの時代はさらに見開き2ページ分の項目に細分される。一つの項目の始めには要点のまとめが置かれ、要領よくまとめられた本文と6〜10個の図が続く。文字と図の比率はおよそ半々であって初学者にもとっつきやすいが、解説文は各時代の専門家によるレベルの高い信頼のおけるものである。
(大阪工業技術専門学校/谷川康信)

築は本で実例を示すのが、とりわけ難しいジャンルです。空間設計である建築は、そのサイズやロケーション抜きでは評価できません。しかし、本ではこうした事情は説明することはできても、読者に体感させるわけにはいかない。画集との大きな違いです。
  たとえば、私が趣味にしているロマネスク教会巡りでも、柱頭彫刻やタンパンの細部など、本で調べていたものが現物と違うことに、何度も驚かされたことがあります。モワサックのエレミア像は、図版では必ず優美な面立ちの拡大図が載っていますが、実際には2mくらいの高さにあって、正面から見ることができません。こうなると、写真を撮ることさえ不可能です。また、写真に撮ったとしても、全体との調和をうまく写し取ることは、至難の業です。結局、写真は思い出のよすがでしかない、とロマネスク行脚の途中、しばしば痛感しました。
  また、ロマネスクといっても、ゴシックやバロックなど後代の様式で増築・改築された部分が多く、どこまでがロマネスクなのか、判りにくい場合もあります。中世の教会建築は息の長い事業なので、シャルトル大聖堂の左右の鐘楼などがそうですが、作り始めと完成時では、流行の様式や技術力が一変していることがままあります。
  本書『図説 建築の歴史』は、ロマネスクに限らず、西洋と日本の建築史を概観した解説書です。この本の大きな二つの特徴は、まさに私の教会見物の悩みに答えてくれるものでした。第一に、各様式の代表的作例を、写真よりも、むしろイラストで例示したのは、一つの見識だと思います。建築の構造を問題にするなら、色彩や微細な装飾といった無駄な要素を省き、陰翳も自在に調節できるイラストの方がよい。とくに現存しないカラカラ大浴場の再現図や、浄土寺の柱と梁の構造の図解などは、イラストの本領発揮でしょう。
  第二に、建築様式の歴史を、単なる技術的解説に終らせず、西洋と日本、そして両者が共通の認識を抱くに至った近代以降の空間意識の変遷の確認として記述している点も、私には面白かったです。それぞれの様式の思想的・技術的背景については、簡潔にして要を極めた解説があり、見開き2ページで相当な情報が得られるようになっています。また、様式改革に尽力した政治家や建築家については、別にコラムを組み、その業績を紹介しています。私も見たことのあるシュパイヤーの教会が、同じロマネスクでありながら、なぜあれほどフランス・ロマネスクと違うのか。私がグラスゴーでたまたま入った喫茶店の設計者マッキントッシュとは何者だったのか。そうしたことが、本書を読むことで、大きな歴史の流れのなかで理解できたような気がしました。また、日本の建築について自分が驚くほど無知であることも発見しました。たとえば、室町期の神社の平面プランなど、実際に内部に入ることができないので、こんな風になっているとは、まったく知りませんでした。これからは、寺社仏閣も違った目で眺められそうです。
  「建築の歴史」という言葉から想像されるもう一つの側面、つまり、ある建築が建てられてからどのように使用されたか、ということについては、対象を美学的な要素に絞った本書では、あえて触れられていません。また、一つの様式の評価が時代によって異なっていた事情も、本書の主たる関心ではありません。こうした受容史の面白さは、ロマネスク教会の場合、かなり劇的なので、少し残念に思いましたが、一方で建設当時から現在まで、さほど地位の変化がない建物もあるので、統一性を図るためには、やむを得ないのでしょう。それでも、19世紀ヨーロッパにおけるゴシック再興については、きちんと章が立てられており、遺漏はありません。建築の勉強を始める人、今までなんとなく建築を見てきた私のような人には、とてもありがたい本です。

(関西学院大学大学院博士課程フランス文学専攻/岩津 航)

担当編集者から

書のねらいは、@西洋建築史・日本建築史・近代建築史を見開きスタイルでまとめ、一冊のコンパクトな通史とすること、Aそのテーマごとの代表的な建築物、遺構、人物をイラストで表現すること、が大きなものでしたが、なおかつ個人的に重視していたのが、Bぱらぱらと見ても楽しい本に仕立て上げること、でした。
 他の多くの建築史関係の本は、文章で記述することを重視したスタイルであり、図版はどちらかというと資料的にそれを補完する役割でした。本書では、キャッチなタイトルと図版(イラスト・写真)でページ構成にメリハリをつけ、ページを開けば建築史が目にとびこんでくるように工夫しています。誰が読んでも楽しい、それゆえに興味が湧いてくる。そんな本にしたいという意図がありましたが、いかがでしょうか。
  イラストをご評価いただきありがとうございます。ミースのイラスト(図参照)が大変似ている(本人以上にそっくり?)との評判らしいですが、当のイラストレーターは、マッキントッシュが一番いい出来だと申しております。本書をお手にとってご確認ください。

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