人間都市クリチバ
 環境・交通・福祉・土地利用を統合したまちづくり

服部圭郎 著

A5変・200頁・定価 本体2200円+税
ISBN4-7615-2339-5

■■内容紹介■■
今、クリチバ市民の98%が「街に誇りを感じる」と答えている。お金も技術もないなかで、なぜ都市づくりが出来たのか。その秘訣は「都市は人間のためにあるべき」という強い信念のもと、都市計画への強い意志を持ち続けたことにある。ブラジルの都市が実現した都市計画の総合性、戦略性、そして実行力を分かりやすく紹介する。


 
読者レビュー

者中村文彦がはじめてブラジル連邦パラナ州の州都クリチバ市のことをあるセミナーで知ったのが1991年頃である。1994年に、現市長のカシオ・タニグチ氏が来日、講演されたのをきき、また直接にお話をお伺いする機会を同時に得て、各種資料を読み漁り、これはぜひ調査をしなくては、という決意を固めた。たまたまいただけた海外渡航費を使って、タニグチ氏のご紹介を頼りに、単身で調査に行ったのが1995年2月末だった。住宅政策や環境政策のことは十分に理解しきれなかったが、都市計画と交通計画の整合、バスシステムのすばらしさは、IPPUC(クリチバ市都市計画研究所)およびURBS(クリチバ市都市交通局)へのヒアリングと現地踏査によって体感し、自分の数少ない経験の中でもこれほどの都市はないという思いに達した。この調査の報告は1995年に雑誌『交通工学』および『地域計画』にまとめてある。その後も機会あるごとにクリチバ市を訪れ、機会あるごとに交通計画や都市計画の専門誌や都市交通に関する講演会などで紹介するなど、宣伝隊員のつもりで活動した。また、この2004年3月には、研究室学生の卒業旅行を兼ねて14人ほどの大所帯で市内を踏査した。
 さて、本書は、そのクリチバ市の都市政策全般について、この30年近くの歴史とそのすばらしさをわかりやすくまとめた書籍である。評者を含め、雑誌や専門書にクリチバ市のことを紹介している例はいくつかあるが、一冊丸ごとクリチバ市というのは、わが国では初めてであろう。前述のようにクリチバ市の都市交通システムに相当度に傾倒している評者からみても、本書は非常にわかりやすくまたおもしろく書かれた名著であると断言できる。著者の服部先生は、同書巻末によると、1963年生まれで、アメリカ留学経験もあり、マレーシアでの実務経験もおありということで、都市計画、それも持続可能な発展にかなり関心をお持ちの研究者と推察される。同書によると、アメリカのUCBに留学中にクリチバのことをお知りになり、97年、2000年、2002年、2003年と4回訪問されている。初回に雑誌の特集記事取材ということで市長のカシオ・タニグチ氏にインタビューされ、そこから調査がはじまったそうである。同書では、クリチバ市の歴史や都市政策を、公的な資料と、度重なるインタビューを通してかなりきちんと調べられており、資料としてもよくまとまっている。都心をどう考えているのか、線形の都市軸の発想はどういう経緯なのか、道路網と建築規制および土地利用計画をどう整合させたのか、都市の基幹的な交通システムとしてのバス輸送をどう構成しているのか、という基本的な都市計画や交通システムの特色についての紹介もきちんとされている。さらに、公園整備や環境政策の具体的な経緯のことや、市長の交代と政策の変化のことなども、大変興味深くまとまっている。
 これまでクリチバ市のことをご存知ない読者にも十分に読める内容であり、むしろ、中心市街地の問題、環境にやさしい、あるいは環境共生の問題、効率的なバスシステムの問題を抱えている都市にかかわるすべての方にぜひ読んでいただきたい。クリチバ市は人口160万人に達する大都市であるが、都市計画家が首長として独特の都市政策を立案推進するというこの記録は、人口規模に関係なくどのような都市にでもあてはまるものといえる。ブラジルは途上国というような見方をする必要もまったくない。わが国の、巨大都市から地方中小都市に至るまで、さまざまな状況の都市で問題に取り組んでおられる方が、本書をご一読されることを強くお勧めする。
(横浜国立大学助教授/中村文彦)

担当編集者から

の本は元々は「環境都市クリチバ」というタイトルの予定だった。それを「人間都市」としたのは、読めば読むほどそのトータルな取り組み、人間を大切にしようとの思想に感動したからだ。
 都市は人間のものだ、という信念のもと、大胆に、かつ継続的に続けられたまちづくりには本当に胸が熱くなる。
 ただ一方、クリチバの奇跡として本書冒頭で紹介されているが、地元商店街の反対を押し切って、突然、車の進入を排除し、あげく子どもを動員して反対デモをつぶしてしまうなんてことをしている。考えてみれば無茶苦茶だ。とっても日本ではできない……して欲しくない。
 ただ、誤解のないように言っておくと、常々そんな強引な手法で楽々と進んできたわけではない。というか、強引に進めても地元住民に受け入れられなかったら、備品は盗まれる、不法占拠される、あげくはぶっ壊される土地柄だから、本当に地元のためになる事業じゃなければ続かないし、あらゆる手を使って、工夫し、説得している。
 車の排除も商売繁盛に繋がったから反対が自然消滅したのだし、日本で言えば学童保育みたいな試みでは、あっというまに盗まれてしまった備品を取り戻すのに、警察力ではなく、地元のお母さんたちを通して、ギャングに「弟や妹が通う学校からは盗むな(盗むなら他から盗め!かな?)」と訴えて返してもらったと言う。
 市民参加や合意形成も大事なんだが、やっぱり良いことは良い、やらなければならないことはやらなければならないと信念を持って進むこともまた、リーダーの役割だ。その点、悩ましいところだけども、考えさせられる一冊でもある。

(M)