ヒートアイランドの対策と技術
 

森山正和 編

A5・208頁・定価 本体2300円+税
ISBN4-7615-2345-X

■■内容紹介■■
近年、ヒートアイランド現象がますます深刻化している。日本の夏で最も寝苦しい大阪と東京の調査研究を中心に、ヒートアイランドのメカニズム、現象を緩和する科学的方法とその効果、行政施策について解説。緑地の創出、建物緑化、クールルーフ、クールペイブメント、排熱制御など、都市を冷やす最新の対策を多角的に紹介。


 
読者レビュー

1990年頃、京都の国際会議で東京のヒートアイランド現象の激しさについて講演した時、関西の新聞記者がぜひ記事にしたいというので、1時間以上も詳細にレクチャーした。東京での熱帯夜は30年間で30日増加、落雷と集中豪雨による都市災害、オキシダントの郊外住宅地への直撃、さらには熱中症やデング熱の問題等、これ以上の関東一極集中の限界についてメモっていた記者が、最後にそれに比べて関西は如何ですかと聞いたので、大阪を中心に神戸や京都のヒートアイランド現象は関東以上であり、特に大阪は東京都心より緑が少ないため、同じ比較をしたら東京以上に深刻な問題である筈と話した瞬間に、それでは記事にならないとがっかりした様子だった。社会部の記者の関心は、東京はもうダメだから大阪に住もうではないかということが書きたかったからである。巨大都市のエネルギー消費や地表面の建築形態、コンクリートやアスファルトの多用による都市の異常な気候変化に関心があったわけではなかった。同じ会議会場では、ロンドンやパリの研究者から都市形態やエネルギー多消費による日本のヒートアイランド現象は雷や集中豪雨等、いずれ大きな社会問題になる筈というコメントを頂いた。
 その頃から九州や関西、名古屋の同学の仲間たちに実測や対策の必要性を話してきた成果と考えるが、九州大や広島大、神戸大や大阪大、大阪市立大、名工大等からたくさんの実測や研究が報告され、夏になると地方紙を賑わしてきた。
 近畿地方は関東地方以上に歴史的景観や都心居住者が多いため、ヒートアイランド対策は不可欠であり、この点を予知してか、学芸出版社が本書を発刊したことに敬意を表する。
 私は今、東京都練馬区の自宅でこの原稿を書いているが、練馬は生産緑地を中心に東京で最も緑の多い特別区であるにもかかわらず、激しい豪雨が雷と共にやってくる。自宅に20mの避雷針をもつことから周辺の落雷を集めているように思われるが、幸い、今日のスコールは夕立のようで、東京で最高気温を出し続けている練馬区もこの夕立で2〜3℃下がったようだ。このような雨の冷却効果や、東京臨海部に出現した高層建築群の壁が海からの風を阻止してしまっていることなど、自然の恵みに目を向けてこなかったことが社会問題となってきた。
 ドイツのクリマアトラス研究とは全く異なる日本での都市気候研究とその対策は、日本において以上にアジアの熱帯、亜熱帯の開発途上の都市生活者に切実な問題である。この分野での日本における社会的関心を高めると共に、アジアの人々にも本書を「おすすめの一冊」にしたい。
 末筆ながら、この本の出版に中心的役割をしている神戸大の森山正和教授の労を謝す次第である。
(早稲田大学教授/尾島俊雄)

ず本を開けるとカラーページが飛び込んでくる。荒川周辺の風ベクトル、気温分布の図や、大阪市の気候解析図などは、近い将来どこのまちでも用意すべき図面であろう。
 内容は、人工排熱が如何に大きいか(夏季の水平面全店日射量の約18%に匹敵36p)、クールスポットの活用方針の提示(外部への効果を期待するよりも微気象の効果を生活空間に採り入れることを念頭に置くべき68p)、クリマアトラスの作成の流れ(154-157p)など、建物の設計から都市デザインまで、広く応用すべき示唆に満ちている。
 また、大阪と東京については施策展開についてもまとめられていて読みやすい。
 しかし、環境の質に対して、ある施策をとると、どれほど貢献するのか、という量はなかなか把握できないのが現状のようだ。あるいは、ある施策をとるとこの地域では良いけれど、少し離れた場所で悪影響が出る場合もあるだろう。
 ヒートアイランド対策をはじめとして、環境の質に配慮する都市計画を実現するためにどうすれば良いのだろう。本書を読んで考えたことを下記三点にまとめたい。
 環境は全体性(integrity)という考え方が重要であろうが、これまでの都市計画は個別の敷地単位を主要な関心事としてきた。まずこの点におけるパラダイムシフトが必要だ。
 また、環境に貢献できているのかどうかは、やってみなければわからないことが多いようだ。実験が必要だ。この点もこれまでの都市計画ではなかなか受け入れられにくい考え方かもしれない。
 第三に、予防の原則は環境分野では常識でも、都市計画には全く採り入れられていない。
 これらを超えていくためには、本書のような実践的な本を各地で活用していくことが欠かせないと思う。
(工学院大学建築都市デザイン学科/窪田亜矢)

担当編集者から

年、東京では39.5℃を記録するなど、ヒートアイランド現象がますます深刻化しています。「ヒートアイランド」という言葉はここ数年の間に急速に浸透しましたが、どうすればその現象を緩和できるのか、ということまではまだ十分に知られていません。
 この本では、色々な原因が絡みあってヒートアイランド現象が生まれた経緯や、様々な対策・技術によってどれほどの効果があるかまで具体的に紹介されています。
 私たちの暮らしがいかに地球に負荷をかけているかを実感し、このままではこの現象はますますひどくなるという現実を打開する端緒となることを目指した1冊です。

(HM)