読者レビュー
A級映画とB級映画のちがいを知ってますか?
A級は当然、ハリウッド等の大スターを使った大予算のアメリカなどの映画ですし、B級は無名の俳優を使い少額予算の外国映画などを言います。
しかし、私は はっきり申し上げてA級映画にはアキアキしています。今はB級映画の方がずっとずっと感動的な映画が多いのです。マイナーとさえ呼ばれるB級映画の方が映画の古典に忠実で お金をかけないで美しいシーンと心の奥の優しさ、苦しさを描き、主人公の気持ちにじっくりと浸れる事が多いのです。
この本はいわゆる産業遺産(=近代産業の復興時に経済の発展を助けてきた産業用建築で、エネルギー革命時代と共に負の遺産として使われなくなってしまったまちや建築のこと)をB級映画と同じ理由で見直したもの、と言っていいでしょう。
歴史的文化遺産をA級遺産とすれば、駅舎、工場、煙突、港、連絡船、鉱山などの昔の産業用施設は、時代遅れの役立たずのB級遺産と言うわけです。
しかし、B級遺産はちょっと見直して旅行者の目で見ると全て絶好の観光地に見えてくるのです。いや、むしろこの本の写真を眺めていると ほとんどが無性に訪ねてみたくなる観光ガイドブックとも見えてくるのです。
秋田県の小坂市の芝居小屋「康楽館」とその一座の話など、ぜひ観光で訪れてみたい魅力でいっぱいです。この本は隠れた観光ガイドです。
しかしこの本にはもう一つ仕掛けがあります。この産業遺産を守り、動態保存(他の用途に使いながら保存していくこと)をするためのヒントに富んだ「まちづくり」の本なのです。まちを新しくつくるのではなく、歴史的遺産に新しく再生、修復することがいかに魅力的かを教えてくれます。しかもそれはB級役者を使って、と言っているのです。
「B級映画のB級役者」とか言いますが、昔有名だった喜劇俳優が年を取りいぶし銀のような演技をするのを見る時「なるほど喜劇の軽い笑いをとる演技はこんなにも深い演技の土台にある人しかできないのだ」と感心するものです。私は近代産業遺産とは、この年老いた喜劇役者だと思います。
著者である矢作氏と末松氏は、負の遺産と見える産業遺産が、いかに美しく蝶のように生まれ変わるかをリアルに教えてくれます。そしてその困難さも。この動態保存には行政やコミュニティ専門家の支援体制が絶対不可欠なのです。そのノウハウ方法(税制度も含めて)をもまとめて教えてくれる、年老いた一流の喜劇役者を見せるような贅沢な本のつくりをしているところが、この本のB級的よさなのです。
((株)まちづくりカンパニー・シープネットワーク/中埜 博)
この本を読み、「まちづくり」を真剣に考え、実行し続けている人達が、日本各地にこれだけいる! という事実を知ることが出来、胸が熱くなるような大変嬉しい気持ちを持つことが出来た。
私は不動産コンサルタントとしてこれまで主に規制の厳しい伝統文化色の濃い街で、色々な形で資産の有効活用に取り組んできた。魅力ある素材に出会う度に、その地域特性を出来るだけ生かした理想とするプランを起こしてきたが、所轄行政の規制や、その事業性、各事業主の意向に左右され、無難な形で決着せざるを得ないケースがしばしばであった。その度に、民間独自での風情ある資産活用の難しさを思い知り、行政による積極活用を期待するしかないのか? というはかない想いに辿り着くことも多かった。
ところが、本書で紹介されている各地の近代産業遺産は心有る方々の手により立派に蘇っている。しかも「動態保存」されているではないか! その事例の中には、私の常識とは大きくかけ離れた積極的且つ心有る地方公共団体もあって、なんと一般会計を財源とした地方公共団体としては極めて先取の精神に沿った対応を行い且つその事業を立派に成功させている。
近代産業遺産は、機能性を突き詰めた結果生まれ、産業構造の目まぐるしい転換により、必然的に取り残された時代の異物でもある。そしてこれを単純に観光資源として活用する為にはかなりの知恵、加工努力を要するものであり、有効活用に一番必要な事業採算性を見出すことは極めて難しい代物であることは間違いない。
これを熱心な想いで時間をかけ再生し、次代へつなぐ為の努力を惜しまない人々はまさに賞賛に値する。まわりの人々はその再生結果に触れることにより、まちおこしの想いをまた育んでいくことは間違いない。
これは「まちづくり」に一度は真剣に関わった者が、その「思い」を再度奮い立たせる為に読むべき必読の書である。
私は近々にその熱い「思い」に触れる為、まだ見知らぬ各地の近代産業遺産を訪れたいと思っている。
((株)ウイルステージ/大谷洋士)
担当編集者から
かつて一時代の隆盛を支えてきた産業遺産。放置され、誰もよりつかなくなったそれらは、果たして無用の長物なのだろうか。地域活性化に活かしたいとはいえ、今さらエネルギーを吹き込んでフル稼働させることは困難だし、意にそぐわない。むしろ、その廃れた感じが魅力なのだろう。
いまはひっそりと緑に覆われているものもあるが、その場で目を閉じると当時の息吹が伝わってくるような感じがする。そんな雰囲気を活かしてアートスペースに活用した事例も多く見られる。
形だけを維持させるミイラ保存ではなく、いかに現代に甦らせるかというのが、まちづくりの視点からも重要になる。難しい問題は山積しているが、本書には何らかのヒントが含まれているのではないだろうか。そして、保存・活用に尽力している人々の思いが各地に伝播することを期待している。
(N)
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