読者レビュー
建築士にはなりたいのだけれど、構造力学がムズカシイということをよく聞く。ムズカシイと感じるのは、問題が解けないからである。誰でも、専門の問題がいきなり解けるはずはない。基礎を理解し、解き方の訓練をして解けるようになるのである。訓練は面倒くさいものである。そんな面倒なことを根気強く、先導してくれる構造力学訓練教科書はなかなかない。世の中に、「やさしい」という形容詞を冠した構造力学教科書はあるが、裏切られたと感じて道途中であきらめざるを得なかったひともあるであろう。しかし、この『図説 やさしい構造力学』はまさに基礎から解き方まで自然と導いてくれる本である。それだけ丁寧に解く〈手順〉が示されている。おまけに、野村氏の楽しいイラストが面倒くささを和らげてくれる。そして、いたるところにに興味をつなぐ、次へのステップアップを促すような記述が散らばめられている。構造力学の教科書としては、ある意味「楽しい」本である。
著者の浅野氏は、大学院の修士研究で石田修三博士(現京都工芸繊維大学名誉教授)の指導のもと、五重塔の耐震性における心柱の効能を実験によって示し、ゼネコンの研究所、海外勤務を経て、現在の京都国際建築技術専門学校教員になったひとである。彼と接したひとは、教育研究者として考えたり、教えたりすることが向いているひとだと感じるに違いない。また、確実に仕事を遂行してゆく姿勢に、いわゆるバイタリティではなく、どこかゆったりとした空気の流れを感じるのではないだろうか。浅野氏には、「そんなことはありませんよ」と否定されるとは思うが、スローライフをまさに実行しているひとだと思う。彼は、自分で考え、ちゃんと納得しないとなかなか歩かないひとである。本書からは、「構造力学」教科書であるにもかかわらず、そんな彼らしさが伝わってくる。
(京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科教授/森迫清貴)
建築を学んでいる人の中で、早い段階から構造力学につまずいている人が少なくない。その理由の1つに数学や物理など理数系科目に対する苦手意識が大きい。学校のテキストを開くと数式の羅列、これに圧倒されてしまうのだ。何とかしたいと、建築の勉強を始めた専門学校生や大学生、さらには建築士受験を控える人たちが本屋であれこれ構造力学の参考書を物色するのだが、たいていの本が「帯びに短し、たすきに長し」。つまり、素人向けの紹介や導入程度の浅い内容で終っていたり、あるいは逆に理論重視で多くの数式が使われ、高度過ぎる内容なのだ。ちょうど良いレベルの力学本にはなかなか出会えないものだ。
しかし、本書『図説 やさしい構造力学』は見事にその隙間を狙って書かれており、これから構造の勉強を始めようという入門者から建築士問題解法の基礎作りまでをカバーした内容となっている。そのちょうど良いレベルに納まっているのだ。難解な理論を説明するために高度な数式が多用されがちな構造力学本において「問題が解ける!」という事に主眼が置かれており、理論よりも実践重視、最小限必要な算数レベルの数式しか用いられていない。数式を極力少なくし、それを補完するイラストにも「どう表現すれば伝わるか」ということに様々な工夫がみられる。本書のまえがきに記されているが、この本で取り上げられている問題解法の手法自体は以前から語り継がれ、あちこちの建築の学校での講義で使われているであろう内容ではあるが、それを一冊の本にまとめられたのは初めての事ではないだろうか? つまりこの本は「構造力学の講義を、そのまま書籍にしたもの」と言っても過言ではないと思う。1つの問題の答えにたどり着くまで、手を変え品を変え、まるで講義を聞いているかのように丁寧に解説されているので、独学が可能なのだ。また、構造力学に興味を持った人のために〈ちょっと参考メモ〉という形で少しレベルの高い内容にも触れられている。
初学者を対象とした場合には「構造力学はおもしろい! 問題が解けた!」と感じてもらう事が最重要であり、日頃、専門学校で教鞭をとっておられる著者であるからこそ、その思いがこのような本として具現化されたのであろう。
(大阪工業技術専門学校/宗林 功)
担当編集者から
数式をできるだけ使わず、噛んでふくめるような丁寧な解説をし、なおかつ具体的なイメージで理解していくために手書きイラストをふんだんに入れ込む。そんな構造力学の初歩の初歩の本をつくりたいと思いつづけて、やっとかなった企画が本書です。やさしすぎて物足りないと思われるのか、まだまだこれでも難しいと感じられるのか、皆様方のご評価をお待ちしたいです。
(C)
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