景観法を活かす
 どこでもできる景観まちづくり

景観まちづくり研究会 編著

B5判・208頁・定価 本体2800円+税
ISBN4-7615-2353-0

■■内容紹介■■
自治体独自の取組みを促す、柔軟かつ多様な手法を取り入れた景観法には、マニュアルは存在せず戸惑いも広がっている。そこで本書では国交省担当者をはじめ第一線の実務家が、法の概要を解説し、地域特性に応じた景観法の活用枠組みと8事例モデルから計画策定や運用方法などを紹介した。待望の手引書。法文・用語集付。


 
読者レビュー

書は、景観法が成立して初めて出版されることになる景観法の活用に関するいわゆるハウツーを説明した本である。法施行の3日後に出版されるというフットワークの良さに感心すると同時に、そのために緊急に出版すべく動いた執筆メンバーの日頃の蓄積がものをいった企画だといえよう。
 特に第1章の「景観法とは何か」と第2章の第2節「自主条例を活かして景観法に移行する」は、景観法制定の実務部隊の主力であった国土交通省都市計画課の岸田里佳子課長補佐によって執筆されており、実用的な手引き書であると同時に、国土交通省の担当者による正確な説明が聞けるという意味で貴重な本となっている。
 もちろん、内容はそれに止まらず、「どこでもできる景観まちづくり」という副題が示すとおり、第2章のケーススタディにおいて多様な事例が取り上げられているほか、第3章においては「景観まちづくり」に取り組む際の考え方が概説されている。
 分量的にもねらいの上からも中心となっているのは第2章のケーススタディである。大半の事例に「景観法の活用イメージ」という項目が立てられており、具体的な施策内容とともに施策を制度化するにあたっての留意点が述べられているのは目新しい。また、挙げられている事例も大和市や広島市の平和大通りなど、これまで景観の側面からはあまり取り上げられてこなかった例も含まれており、「どこでもできる」という主張に説得力を持たせることになっている。
 いずれにしても景観法の活用はこれからであり、特に景観地区に関しては施行までまだ半年あるので、この本でも直接には取り上げられていない。各地の実践が仕組みを組み立てていく力になるという意味では、今後、事例の方がこうした本や理論を追い越してしまうことも考えられる。時代は駆け足で動いているのである。だからこそ緊急出版にも意味があるというものである。
(東京大学大学院工学系研究科教授/西村幸夫)

れた建築は、その空間に身を置けばわかるし、おいしい料理は食べればわかる。なにもつくった本人である建築家や料理人が登場し、薀蓄を述べるまでも無い。しかし、これが法文となると話は別である。法文を理解するには、淡々と羅列する文字から重要な点を発掘し、その裏に隠された真意を見抜く忍耐力が要求される。だからこそ、マニュアル本が欲しくなるのであり、これが法の出来た背景や成立までの紆余曲折を熟知した人が解説しているのであれば、こんなありがたいことは無い。のっぺり見えていた法文の要点が示され、時代の趨勢の中での位置づけが明らかになり、全体の構造が立体的に見えてくる。
 本書は景観法施行に合わせて、実にタイミング良く出版された本である。まず出版社の戦略に脱帽すると共に、この本が単なる法律のマニュアル本以上に興味深い特徴を備えている点をご紹介したい。
 景観法はこれまで長年積み重ねられてきた地方自治体による景観行政の取り組みを前提としてつくられた法律であり、地方分権に逆行するものではない。この課題が景観法の最初の超えなければならないハードルである。つまり、景観法を活かすためには、自主条例等、これまでの自治体の取り組みの成果を活かしながら、強制力を持った景観法に移行できることが実証されなければならない。本書では、この点が特に強調されており、ケーススタディによる具体的例示もわかりやすい。このため、本書は自治体関係者や都市計画専門家にとって、最初に取り組むことになる実践的課題の解説書の役割を果たしている。
 また、通読して感じることであるが、執筆者である景観まちづくり研究会の面々の、日本の景観を何とかしなければならないと思う若々しい熱意が伝わってくる。ある時は淡々とした語り口で、またある時は激しく。これが本書を単なるマニュアル本で無い、読みものとして面白い一冊に仕立てている。専門家のみならず、景観法の活用に大きな期待を寄せている市民活動家や景観に関心の高い一般の人々にもお勧めできる。
 景観法を契機として、我々が日本の街をどのように変えてゆくのか?私も大いなるチャレンジの時代の幕開けを期待するひとりである。
(NPO日本都市計画家協会PLANNERS編集長、鞄c島都市建築研究所代表/田島 泰)

市計画、まちづくりに関わる人で景観法に関心のない人はいないだろう。しかし、景観法についての知識の浸透はまだまだという印象を持ってしまう。景観法の持つ意義やイメージばかりが先行して、その中身・手法について熟知していないということがあってはならない。その意味でも、景観法を解剖している本書は必読の本である。
 『景観法を活かす』では景観法がなぜ制定されたのか、景観法をどう使えばよいのか、景観法によって何が変わるのか、といった景観法に対する問いに一通り答えてくれている。
 中でも、第2章の「景観法を活かす」では、地域特性に応じた景観法の活用方法が提案されている。景観計画を策定する際に段階を踏んで規制・誘導していく考え方、また、11の地域類型を想定しそれぞれの地区の特性・課題と景観法活用の考え方を提示している。
 景観まちづくりにおける先進都市は、やはりこれまでの自主条例をどう扱うかという点が一つのネックになる。本書では各条文でばらばらに書かれてある条例に委任している事項が整理されている。景観法は地域性を最大限活かすために極端に柔軟な形をとっているため、一見わかりにくくも見えるが、そういう部分を本書は丁寧に解説し、自主条例を委任条例に移行するステップまで方向性を導いてくれている。
 景観法は、むしろ一般的な市街地や農山漁村風景の景観コントロールのために制定された法律だともいえるだろう。その意味では、これまで景観において積極的な取り組みを行ってこなかった自治体においても、景観法を積極的に運用するべきであり、そのための準備を進めなければならない。
 本書はあらゆる自治体、主体(行政、事業者、住民、NPO・・・)が景観法を学ぶ、生きたテキストになっている。まだ景観法について初心者ならば第1章「景観法とは何か」でほぼ法の中身は理解でき、その次のステップとして第2章「景観法を活用する」でその活用手法が一通り学べる。特に8つのケーススタディはこの本の核となる部分で、対象となっている事例は様々な自治体が景観法運用の参考となるよう配慮して選ばれている。最後に第3章「景観法と景観まちづくり」ではさらに一歩踏み込んで、今後の課題等にまで話を展開している。本書一冊で、景観法について底辺から頂点まで学べるように構成されており、景観法を使える人材不足の指摘もあるため、多くの人にまずは本書で景観法を学んでいただきたいと思う。
(熊本大学工学部環境システム工学科4回生/坂本哲治)

担当編集者から

2003年初夏に出した『日本の風景計画』で西村幸夫・小出和郎氏が「これからの日本の風景行政への13の提言」を書かれている。その第1項目が風景基本法の制定だった。自民党が「美」をめぐって動き出しているという話はあったが、本気とも思えず、リアリティのある提言とは実感はできなかった。
 それが、1ヶ月後には国交省が景観基本法の策定を表明し、1年もたたないうちに法律が出来てしまった。なんだか狐につままれた気分である。
 ちなみに西村・小出氏のその時の提言は下記の通り。提言1〜3など今回の動きを先取りしている点が多いことにも驚かされる。
 しかし、景観法で国の責務が書かれたとはいえ、提言7のように都市計画や建築基準法が見直されたわけではなく、提言11のローカルルールに基づくデザイン審査の強制が違法とされる恐れが全て解消された訳でもない。
 国が自身に課した責務を果たす積もりがあるのであれば、周辺と明らかに調和しないものが敷地が大きいがゆえに建てられるような制度は、せめて改めて欲しいところだ。
 まあ、美のような問題に国があまり手を出してくるのも考え物だし、強制力を持つ事が唯一の解決策でもない。景観法は使いようによっては結構良さそうとの話なので、本書なども参考に、景観まちづくりの取り組みを進めていただけることを期待したい。

  提言1 風景基本法(仮称)の制定
  提言2 法定の風景基本計画づくり
  提言3 土地利用と風景保全・創造の二本立てで
  提言4 条例に法的根拠を与える
  提言5 新しい風景づくりへ対象を拡大
  提言6 現行都市計画制度を詳細化する
  提言7 「風景の保全と創造」を建設関連法規の目的の中へ
  提言8 建設関連法規はナショナル・ミニマムであることを明確に
  提言9 既存制度の積極的活用
  提言10 重点地区の指定
  提言11 デザイン審査制度の導入
  提言12 デザイン・ガイドラインの作成
  提言13 専門職能の確立

(M)