読者レビュー
本書の筆者である松田氏とは、2回ドイツでお会いしている。記憶が正しければ、2003年の2月と9月である。2月は共同研究の調査の一環で、9月は学生達を連れてのスタディ・ツアーで。本書の随所に出てくるカールスルーエ市、加えて環境先進都市としてわが国でも有名なフライブルグ市における環境政策やまちづくりの現場を訪問した。すべてのアレンジメントと通訳は氏にお願いした。氏の人柄であろう、どこの訪問先でも厚遇を受けた。また、ドイツの環境政策やまちづくりに関する氏の知識の深さと、鋭い洞察力に感嘆したことを鮮明に覚えている。
その松田氏の執筆による本書は、「はじめに」にあるように、“理想化された「環境先進国ドイツ」ではなく、課題や問題点も含めた「ドイツの実像」”を読者に提示してくれる。ドイツのまちづくりや環境政策に関する書籍は多数出版されているが、これほど活き活きとその実像の“今”を描ききっているものは稀である。本書のタイトルは「環境先進国ドイツ」だが、読後感はむしろ「まちづくり先進国ドイツ」に限りなく近いものである。それは、屋上緑化・ビオトープなどの緑、都市交通、ゴミのリサイクル、自然エネルギー、エコロジーライフと、取り扱われているテーマが多岐に渡るからだと考えられる。また、テーマは幅広いが、それぞれのテーマの内容は具体的かつ濃密である。行政担当者、NGO関係者などの生の声、それらを裏付ける豊富なデータや写真などが小気味よくかつわかりやすく挿入されているからである。
加えて、それぞれの施策や取り組みの裏側に垣間見えるドイツ人の生き方(あるいは「哲学」)も行間から読み取れる。例えば、ドイツが目指すのは「自家用車のない社会」ではなく、「無駄な車利用のない社会」であり、自家用車と公共交通の上手な使い分け(本文p.69)であると。無理な政策は多くの市民には受け入れられず、結局は長続きはしないということであろう。
“噛めば噛むほど味が出る”国であると、氏は愛するドイツを温かい言葉で紹介している。そのドイツの環境政策とまちづくりを描いた本書もまた、“噛めば噛むほど味が出る”本である。環境やまちづくりに関心のある学生、市民、NPO関係者、行政関係者、研究者など広く一読を勧めたい良書である。
(宇都宮大学助教授/陣内雄次)
担当編集者から
ドイツの環境施策を紹介する本はこれまでも日本で多数出版されています。この本がそれらの本と異なるのは、生活者の視点からドイツを眺め、一人一人のドイツ人の暮らし方・考え方が先進的な環境施策に結び付いていることを無理なく理解させてくれる点です。
著者の松田さんは、役所や環境団体の職員、企業の環境部局など環境意識のとりわけ高い人々だけでなく、クラインガルテンに精を出す夫婦、パーク&ライドで通勤する乗客、カーシェアリングを利用する家族、風力発電に投資する主婦、ビオ農業を営む農家、環境教育を受ける子供たちなど、実に多くの一般的なドイツ人を取材されています。彼らの環境への眼差しから、環境先進国といわれるドイツの素顔を読み解いていただけるのではないでしょうか。
(HM)
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