参加型・福祉の交通まちづくり
 

(社)土木学会土木計画学研究委員会監修
交通エコロジー・モビリティ財団、(財)国土技術研究センター編

A5判・256頁・定価 本体2900円+税
ISBN4-7615-2357-3

■■内容紹介■■
交通バリアフリー法による基本構想の策定が全国の自治体で進められるなか、市民参加のあり方に暗中模索が続いている。本書はバリアフリーとは何か、市民参加をどのように進めれば良いのかを多様な事例をもとに解説し、今後解決すべき課題を示す。行政、交通事業者、まちづくり・障がい者団体等の市民のための基本テキスト。


 
読者レビュー

2000年に作られた交通バリアフリー法では多くの斬新な取り組みが行われてきたが、中でも市町村を主体とした基本構想の策定、そしてその策定プロセスへの利用者の参加は特筆すべきものであろう。本書はそのような背景を踏まえて、交通バリアフリー実現への利用者参加について述べている。したがって、結果としてこのような施設、設備ができたということよりも、どのようなプロセスで作り上げていくかについて述べた本だと理解すべきである。プロセスを扱うのであるから、交通バリアフリー法だけでなく、一般のまちづくりや建築物等の施設作りにもそのまま活用できる部分が非常に多く含まれている。
 本書は交通バリアフリーや市民参加の歴史から書き起こしているので、全体の流れの中での現在が掴みやすい。さらに交通バリアフリー法のこれまでの経験から見えてきた問題点、目指すべき方向性についても述べてあるので、そういう点では親切な作りである。しかし一方で、プロセス論であるためか概論的で、法ができてもなお移動制約を受けている人たちの生々しい声は扱われていない。このあたりが、事例をいくつも扱っていながら、現場からやや離れた印象を与える理由なのではないかと思う。
 参加型は利用者ニーズの抽出に有効ではあるが、反面、利用者からの指摘は細部に偏りがちだという弱点もあり、そうであるからこそ、利用者の身近な問題意識を大切にしながら全体像を打ち出して市民を引っ張っていくという専門家の役割が重要となる。その点でもう少し市民と専門家の関係についての言及がほしかったという気はする。
 後半に全国13ヶ所の事例集があるが、具体的に参考にするにはどれも浅い。ただ本文の中で丁寧に紹介された事例が数例あることと、最後に参考資料がかなり掲載されているのはありがたい。

(一級建築士事務所アクセスプロジェクト/川内 美彦)

通バリアフリー法が2000年に施行され鉄道駅等のバリアフリー化は着実に進められている。しかし、2010年までに日平均利用者数が5000人を超える鉄道駅等をバリアフリー化するという目標達成にはより一層の努力が必要である。これまで土木学会のメンバーなどが学識者・専門家として各地の交通バリアフリー実現に向けて助言指導や実務を担当してきた。その経験に基づくノウハウをまとめたのが本書である。各種交通施設の整備ガイドラインは充実してきたが、誰のために、何を、どれだけ整備すべきかは教えてくれない。本書はいわゆる「マニュアル本」ではない。様々な読者層(高齢者、障がい者等移動制約者、ボランティア、一般市民、様々な行政担当者、コンサルタント等の専門家、教育者、学生)を想定しているが、本書を読んだ後、福祉も含めた様々な視点から検討する「交通まちづくり」の現場へ実際に参加することを勧めている。
 これからのまちづくりは結果だけの追求ではなく、どのような検討過程を経るかが重要になる。それを担うのは量的にも質的にも多様な人々であり、それらの積極的な関与があれば成果も自ら付いてくる。確かに専門家任せによる計画策定作業の方が楽に進行できる。しかし、本当に「見落とした点」が無いか、「知らなかった」として済ましていないか。以上のことは専門家の力不足への批判ではなく「限界」の指摘である。だから「参加型」が必要である。その場で生活を営む市民は特定分野の専門家ではなくても様々な経験を持ち、また様々な望みを持っている。その「望み」の実現に向けて検討するのが「参加型交通まちづくり」である。「参加型」には慎重な進行管理が必要である。これを面倒だと思っては何もできない。むしろ、その進行に参加することにより、「参加者の成長を期待する」と本書は語る。本書を契機として施設がよりよいものへと変わっていくと同時に人の意識と組織も変わっていくことを願う。
(中部大学工学部都市建設工学科助教授/磯部友彦)

担当編集者から

がすんでいるK市のI駅は、2万人以上の乗降客があり、税務署、小ホールなどの公共施設もある。だから、いずれバリアだらけの歩道が改善されるに違いないと信じていた。ところが、調べてみると重点整備地区から漏れて、事業者単独でなんとかする駅とされている。残念。
 候補となった104地区のうち、重点地区になったのは14地区だけで、すでに移動円滑化基本構想が策定されたのは、たったの4地区だという。
 お金がないからしょうがないのかもしれないが、黙って待っていては、ダメなんだ。やっぱり。入り口から参加して行かないと……。

(Ma)

段何気なく暮らしているまちでも、ケガをして歩きにくかった時に初めて今まであった段差に気づいた。重い荷物を持っている時、駅の階段が途方もない壁として立ちはだかることもある。健常であれば見過ごしてしまうことだから、交通弱者とされる人々の声が必要になる。
 計画をつくる自治体や事業者はもちろん、一般市民もバリアに気づくことが大切。いくら整備されたところで、放置自転車によって道をふさいでしまっては意味がないのだから。
 なお、本書のメインページ「詳細情報」から、法令・助成制度、基本構想策定済み自治体のホームページへもリンクしているので、参照されたい。
(N)