読者レビュー
京町家の再生がブームのように語られている。
どうしてだろう。千本格子やバッタリ床几に虫籠窓、内部の太い梁組など、京町家の伝統的な意匠や風情が魅力なのか。しかし、京町家の伝統形式は京都にしかない、わけではない。京町家と同類の意匠や形式、あるいは構造の形式までもが、近畿一円に多く残る歴史的な町並には容易に見いだせる。そればかりか、北は盛岡(岩手県)から南は福岡など、日本各地に残る町家の多くに、京町家に通ずる伝統形式を求めることができる。
京風の意匠や形式は、京町家の専売特許ではない。近世、京町家の形式は、日本各地の城下町を中心に、その町家形成に有形無形の影響を与え続けた。むしろ地方都市が京都を指向し、京町家をモデルに町家を造ったといった方が正確だろう。京町家は、他の地方都市が模倣すべき、日本の近世町家の理想形でありお手本であった。
京町家は、それを自覚してか否か、近世初頭に頂点を極めた外連や派手さを、その後みずからそぎ落とし、都市住居としての範となるべく、町家普請に洗練の度を深めた。達成されたその完成度の高さこそ、京町家最大の特長であろう。完成とは、もはや加減の余地のない類型性である。
昨今の京町家に対する関心の広がりは、単に伝統意匠や情緒というレベルではない。都市に住み、都市を楽しむ住宅としての、その完成度の高さに人々がようやく気付いたからであろう。町家を潰して、さて、どのように建て替えればよいのか。取り壊す際に、次の指針となるべき明確なセオリーと普遍性を備えた、いわば現代版京町家など、どこにもない。
建て替えよりも改修と再生こそ得策であるという思いは、本書によって確信に変わるだろう。実は、改修行為は京町家にとっては想定の範囲内である。改修を受け止める柔軟性は、本書の豊富な実践例が実証している。完成度と柔軟性という京町家の特質は、日本における木造建築の一つのピークをなしている。
近世から近代、京町家の形式は広く全国に流布した。京への強いあこがれが京風の町家形式を地方都市へと移植した。京都における町家再生の先駆的な実践は、そのまま日本各地で応用的に継承されるべき下地がすでにある。
京町家の再生が、広く各地の町家再生を始動し牽引する動力とならんことを強く願う。その意味で、本書への期待はすこぶる大きい。
(京都府立大学人間環境学部環境デザイン学科教授/大場 修)
担当編集者から
京町家作事組の著書第1弾『町家再生の技と知恵』は、京町家の歴史およびそれのできるまでを図を交えて解説したうえで、それをどう次代に引き継いでいくかという理想を熱い思いで語ったものでした。ただ、実際のところどう改修しているのかが気になるところです。そんなにうまくいくはずがない、と。
今回の第2弾『町家再生の創意と工夫』は、そんな町家再生/改修プロセスをめぐる現実格闘の記録ともいえます。理想がそのまま現実にあてはまるわけもなく、建物の傷み具合、施主の思い、資金、法規制など、さまざまな難問があります。それを解決させたり、うまく適応させたりしながら、改修をつづけているのです。むしろ、“そんなにうまくいくはずがない”からこそ、設計者は知恵を絞り、職人は技術をみがき、伝統の技と知恵は継承するに値するものになるのではないでしょうか。
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