親しまれる公共空間のためのハンドブック

プロジェクト・フォー・パブリックスペース 著/加藤 源 監訳

B5・128頁・定価 本体1600円+税
2005.11.30発行
ISBN4-7615-1207-5

■■内容紹介■■
人々に愛され利用される公園や街路、広場などの公共空間は、どうしたらつくれるのか。既存の使われていない公共空間をその地域に住み、働く人々と共に改良してゆくための11の原則と、基礎的な調査方法をやさしく示す。公共空間の魅力向上に取り組む専門家、行政担当者、コミュニティのリーダーのための実践的ハンドブック。



 
読者レビュー

ずかしいな、と感じることがある。公共空間の設計意図を説明する文章のなかに、「背後の山並みのメタファーとして」とか「うねる大地を表現し」とか「都市の自然を顕在化させる」などという言葉を目にするとき。なんだか気恥ずかしい気持ちになる。同時に、だから何なの?と首を傾げたくなる。
  僕らが公共空間を利用するとき、それが山のメタファーだろうがうねる大地だろうが、そんなことはほとんど関係ない。そこに座る場所はあるのか、日陰はあるのか、コンビニは近いのか、ゴミ箱はあるのか、近くでタバコの煙を撒き散らしている人はいないか。重要なのはそういうことだ。
  成功している公共空間とは、たくさんの人が他人の迷惑にならない範囲でいろんなことをしている公共空間である。そんな当たり前すぎて口にしなくなったようなことを、しかしやはり大切なことだと気づかせてくれるのが本書である。公共空間における人々の活動を観察し、どのような空間が人々に利用されているのかを見つけ出し、そこで得られた知見に基づいて新たな公共空間を設計し、できあがった空間が更なる魅力を持つための運営について検討する。公共空間を魅力的にするための方法が、きわめて分かりやすく説明されている。空間のカタチだけでなく、プログラムやマネジメントといったナカミやシクミの問題に触れていることも評価すべきだろう。こういう本を読まずに公共空間をつくり続けることは、都市に大きな損失をもたらすことになりかねない、ともいえよう。
  グリッドやストライプで構成された空間がいかに美しいかを説明してもらう必要は無い。むしろ僕らは、その場所でどんな活動が生まれるのかを知りたいのである。そして、どうすればそういう場所がつくれるのかを知りたいのである。本書を読んで、居心地のいい公共空間をつくりだす人が増えることを願っている。そう、打合せと打合せのあいだに落ち着いて昼寝できる場所が増えることは、本当にありがたいことなのである。
山崎 亮(ランドスケープ・デザイナー、sen+a 主宰)


担当編集者より

書の著者であるPPSが師事したウィリアム・ホワイト氏は、長時間撮影が可能なタイムラップスビデオを使って人々の行動を記録し分析した最初の人です。
  私は25年ほど前に、この手法を使って家族のLDKでの行動を分析する研究の手伝いをしました。結論のひとつは、流行っていたソファーに坐る人はほとんどおらず、前におかれたコタツなんかに入る時の「背もたれ」にしかなっていないということでした。当時の6畳程度の狭いリビングとか、生活様式には、ソファーは無理があったのです。
  同様に公共空間にも、イメージを追いかけてつくってはみたものの、使われないものがたくさんあります。場所づくりはデザイナーやユーザーの思い込みからではなく、現実から出発しなければならない。それもソファーをおくには何畳必要といった抽象化された数値ではなく、生身の人間に密着することの重要さを教えてくれる本だと思います。
(M)