動く・繋がる・生まれる

和田 崇 編著

四六判・264頁・定価 本体2200円+税
2005.12.30発行
ISBN4-7615-2376-X

■■内容紹介■■
最近のまちづくりでは、傑出したリーダーや行政が主導するのではなく、一人一人の思いや動きを大切にし、それが相互に作用することで大きなうねりやかたちにつながる創発まちづくりの例が少なくない。本書は広島で活躍する7人の専門家による相互作用の場づくりの事例と手法を具体的に紹介し創発につなげる9つの原則を示す。



 
読者レビュー

ちづくりには限りない楽しさがある。が、また悩みの種も尽きない。やれ、人がいない、モノがない、先が見えないお金がない。でも本当にそうだろうか、個々のそれぞれがうまくかみ合ってあたらしい価値や動きが生まれていくことが出来ないのだろうか? そんなおもいにこたえてくれるのが本書である。
 研究者、プランナーや地域コンサルタント、メディアや行政職などの7人が、それぞれの分野からの視点で広島での実践事例を報告している。若い学生たちのまちを舞台したコミュニティ活動、9年目にしてやっと書いた絵地図での計画性とはなにかという話、まちなか会議での「探知創発のマネジメント」による整理、新聞記者としてどうまちに関わるか、公務員としての素朴な疑問、シロウト感覚など様々だ。ただ、それらを単に「手法」として伝えようとしているのではなく、個々の人間に立ちかえり、これでよいのかと反芻しながら取り組んだ「姿勢」として述べられているところがうれしい。まちは作るものでもあるし、自然に出来るものでもあるが、ひとり一人のおもいがさまざまに繋がって、当初考えてもいなかったようなあたらしいかたちへと変容していく、この創発的な形こそがまちづくりの基本なのだと具体的に説いている。たくさんの示唆に富んだ、ぜひ読んでいただきたい一冊だ。
  おわりには、「一、走りながら考えること」に始まる「創発まちづくりの九原則」が挙げられているが、とくべつに難しいことはかかれていない。というよりは、これからまちづくりをやろうとする人、手探りでどうしていこうかと思っている人たちに、こう考えてみようよと語りかける優しさを感じる。仰ぎ見るだけでない、じっくり慈しみをもってまちと人のくらしを見つめる、編者の言う「俯角一五度のまち鎮め」の視点がいま求められているのだと思う。

(社)京都府建築士会まちづくり委員長/山本晶三


担当編集者より

ちづくりといっても、結果を読めないと不安になる。市民参加だ、ワークショップだといっても、どこかで落ち着くところに落ち着くことを期待している。マスタープランじゃない、マスタープログラムだ!などと、いろいろともがいてみても、やっぱり将来像やビジョンに固執し、計画をたてるとか設計図を描くという習性となんとか折り合おうとする。
  そんなんじゃダメ、と最初に言ったのはジェーン・ジェイコブスの『アメリカ大都市の死と生』だった。人と人、人と場所が反応しながら、自己組織化されてゆく都市こそ、暮らしやすいと主張した。創発とはそういう相互作用による創造過程に他ならない。
  まして「まちづくり」である。もっと人間を信頼するところから始めよう。リーダーだ、プロデューサーだと言わずに、相互作用の場をうまく仕組み、創発を誘発しよう。そうすれば思わぬ成果が必ず得られる。近代主義やシステム合理主義に染まった私には楽天的にすぎて、不安でたまらないが、一皮剥けたまちづくりの組織論としてお読みいただきたい。
(Ma)

“創発”とは頼もしいキーワードです。俯瞰でみると、個々がバラバラに動いているようにみえますが、実際はひとつの秩序をつくりだしています。逆に個のレベルからみると、自分たちのやりたいこと、思い、ミッションを、まわりの巻き込みながら実現させていくことが、大きなうねりに繋がっていきます。本書にある、あつい思いのこもった事例報告は、読むだけで元気になります。読み手のほうにもパワーが伝わってきます。本という媒体もまた、“創発”の仕掛けのひとつなのかもしれません。

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