読者レビュー
「日本的なもの」とは。「日本のデザイン」とは。今、あたりまえのものとして定着している日本の「空間」「デザイン」「考え方」が、どのように定着されていったのか、私は今まで知る機会が少なかった。また、大学でも学ぶ機会が少なかったように思う。この本でとりあげられている14名の作家たちは、戦前・戦後の変化が激しい時代の中で、日本の建築・デザインの方向性を考え、今の私たちにもたらしてくれた作家たちである。
14人の作家たちを、生い立ちなどの出発点から、終着点までの生き方を、時代背景・デザインの流れ・接触した人物の紹介を通して知ることができる。また、作家自身の考え方やものづくりの方法について、代表作品の紹介を通じて、理解を深める構成である。豊富な写真・図版と共に、重要な点が簡潔に書かれており、読みやすい。また、巻頭の相関図はこの本の特徴でもあると思うが、作家たちの交流が一目でわかる。この時代は、海外との交流がさほどなかったようなイメージを勝手に受けていたが、作家たちの海外との交流が積極的だったことや、海外のデザインの様式や流れをどのように受け入れていったかがよくわかる。
人物の選定は、「伝統」と「新しさ」について考えた建築家、海外から学び日本に適したものへと定着させた建築家、そしてこの本の特徴でもある、建築という箱だけに収まらず、その中で行われる生活を意識し、身につけるものからインテリア、空間までを一連のものとして捉えた作家、そして日本芸術から空間までを考えた作家たちをバランスよくとりあげ、人と空間の係わりの重要さを認識させる。また、この時代には社会進出が難しかったであろう女性作家をとりあげていることも、同性として心強く思う。
この本を読んで、日本における近代建築・近代デザインの知識だけでなく、作家たちの創作を支えていたものや真に良いものを貪欲に求めていく姿勢とは何か、作家たちはどのように地歩を固め、自己の作法を確立させていったのかを知ることができたことが、最も勉強になった点である。
(武庫川女子大学生活環境学部助手/奥田有美)
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