法制度・技術・職能を問いなおす

土田旭+都市景観研究会編著

B5変判・216頁・定価 本体3800円+税
2006.2.25発行
ISBN4-7615-3138-X

■■内容紹介■■
景観法はできたが街はまだ美しくならない。景観の基盤を律する都市計画法、建築基準法、それらに即して発達した技術・職能に、醜悪な風景を産みだす根本的欠陥があるからだ。景観デザインに関わる第一線の実務家が集結し、景観法では対応できない問題を指摘し、早急に行動をおこすための具体的解決策と抜本的な改革を提言する。


 
読者レビュー

ず、画期的な本が出たと言いたい。特にその提案部分である。だが逆に、なぜ今迄このような本が出なかったのか不思議でさえある。その辺に日本の都市計画の従来の姿が見え隠れする。
  「日本の制度・政策・慣行は1990年頃までは有効に機能した。だが、もはや満足に機能しているものは一つもない。今まさに、再び新たな制度、政策、慣行が求められている」とは、P・ドラッカーの喝破である。だが都市計画の分野では、高度成長期に入った「1960年頃」と敢えて読み替えた方がいいと思う。
  戦後60余年、当初戦災復興と急激な都市化に対応して以来、日本の「国のかたち」は一貫して経済発展と国民所得の数値的向上にあった。全ての価値観はそこに集約され、法律も制度も慣習も迷う事なくそこに焦点を絞り作られ運用されてきた。都市計画も例外でなく、世の中の価値観と動向に同調するどころかむしろ先導した。結果、都市の状態は不可逆的と思えるほど「生活の質」や「美」を影の存在としてしまった。
  ところがここで日本の国是の転機を象徴するが如き景観法が生まれ、「街を美しくする」などといういわば異端の新目標が現れた。今までは現行の都市計画に対する抜本的批判や提案は社会の価値観、国是にそぐわないものとされ、現状追認型の「業界」としては真剣に取り上げなかったのである。
  どうやら状況は変わりつつある。今まで体制側につかず離れずで来ざるを得なかった都市計画家の一団が、「法制度・技術・職能を問い直す」というサブタイトルのついた「美しい街をつくる」などという大それた本を出す世の中になったのだ。喜ぶべき事である。
  現状の課題や問題の多くは既に出尽くしているが、「提案」の部分はきわめて豊富で示唆に富む。欲を言えばこの提案群をもう一度システマティックに整理し、官民協働で実際の法律・制度案に練り上げる作業があり、それらが政策として実現したら世の中は確実に変わると思うのだが。
(早稲田大学都市・地域研究所客員教授/長島孝一)

書の特徴は問題提起で終わっていないところにある。もちろん、まず問題点を探し(感覚が麻痺しがちな我々にとって実はこれがなかなか難しいのである)、それから問題となるに至った経緯や具体例をいくつか挙げる。そして、最後に提案という著者の意見が述べられている。ご存知のように世の中の多くの本には、このような提案がありそうであまりないのである。ここで、その提案自体の良し悪し、是非などは重要ではないとまでは言わないものの、それよりそういった発言をしようとし、そして実際にした、このような態度の方が非常に重要なのである。
  街づくりは、特に日本のような比較的複雑な地理的条件下では、上から一方的に法やら規則やらを押し付けたとしても改善されるどころか悪くなることの方が往々にして有り得るのである。では、どうすれば良いのか。それは何と言っても一人一人の心がけに尽きるのである。そして、自分がおかしい、変だな、良くないな、と思ったら発言することにある。もちろん、価値観が多様化している今日において意見の一致などなかなか得られないのが現状である。だが、だからこそ発言をし、意見を交わし、そして最後には一つの案にまとまっていく、そういった過程が重要なのである。誰かが何かをしてくれることを待ってみたり、期待してみたり、上からの一方的な規則をただ規則だからといって守ってみたりしたところで何かが良くなるわけでは決してない、ということの動かぬ証拠が目の前の日本という土地に広がっているのである。
  まず、そのきっかけとして本書を勧めたい。具体例としての豊富な写真を見ることから始めてみても良いと思う。現状の酷さについつい目を覆い隠したくなるかもしれない。しかし、目を見開き、この本のタイトルのように「日本の街を美しくする!するのだ!したいのだ!」という気持ちをもって明日から街を歩いてほしい。すると、あなたなりの答えがきっと見つかるはずである。
(日本大学理工学部建築学科/阪田康聖)

担当編集者より

ともとは「なぜ日本の町は醜くなるのか」というテーマから始まった。途中で、プラス志向に傾斜し、美しくするための提案を重視する本となったが、根本は変わらない。
  京都でも建設・建築活動は盛んだが、新しく出来たものを見て、良いものが出来た、街が良くなったと思えることがあまりにも少ない。これは美観地区(景観地区)でも同様だ。
  とくに悪意はなくても、景観地区のルールを守って建てても、一人一人の行為が自然と醜い町に繋がってしまうのは何故か。それは変えられるのか。本書を読んで考えていただければと願います。
(Ma)

市デザインの第一線でモノを作り続けてきた著者が、「結果的に美しい街は達成されていない現実に少なからず焦燥感をいだいていた」と、吐露される姿はやるせなかった。だけど一方で、本書を作り上げる信念と行動力には、上昇志向の時代に街を建設してきた人間特有のパワーを感じた。
  私はその時代をほとんど子どもとしてしか知らないので、その焦りやパワーを本当には共有できていない気がして焦った。だから、本書にある街への挑戦的な指摘に対して、一人でも多くの実務家が声を出して賛同し、行動してくれればとは思うものの、私も編集担当としてもう少し何かできたのではと思う。それくらい著者の迫力を感じながらの編集作業だった。
(I)