公民連携の鍵をにぎる金融の役割

根本祐二 著

A5判・208頁・定価 本体2200円+税
2006.4.10発行
ISBN4-7615-2385-9

■■内容紹介■■
都市再生、地域開発プロジェクトを進める上で最大の障害は資金調達である。資金を調達するために地域はどうあるべきか。地域のために金融はいかにあるべきか。金融界の人間として地域再生に長く関わってきた著者が、現場の視点で金融の論理・手法をよみとき、リスクを軽減し目的達成を導く、公・民・金融連携の可能性を探る。


 
読者レビュー

金調達は地域再生プロジェクトの生命線である。地域再生の仕事に取り組む我々にとって、よりよい資金調達を可能にする金融の手法や考え方を理解しておくことは大きな強みとなる。
 本書は、英米諸国などで地域再生の突破口を開き、かつ、日本においてもPFI等を通じて本格化しつつある「公民連携」の動きを題材に、地域再生プロジェクトに役立つ金融の考え方や手法について説明した本である。公民連携のケーススタディを通じて、地域再生と金融の新しい結びつきを具体的に理解することができる。金融のプロが、「地域のために金融はいかにあるべきか」という問題意識のもとに丁寧かつ易しく解説しているため、主にフィジカルな側面から都市やまちづくりに関わってきた専門家にとってはわかりやすく新鮮な内容となっている。
 筆者は「発端が民間で最終的に民間によって実施された事業」であっても、途中の過程に官が入って遂行されている点が大切だと指摘し、民だけではできない理由を読み解くことで、公民連携の意義を明らかにしている。また、官と民の接点として日本ではまだ馴染みのないリクエスト・フォー・プロポーザル(Request for Proposal; RFP)と呼ばれる米国のプロジェクト計画手法を、日本型RFPの提案と共に紹介しており、示唆に富んでいる。
 本書を通読して最も印象に残ったメッセージは、金融を活かして公民連携を展開し、その先に目指すべきは「地域価値の最大化」なのだという筆者の強い思いである。中でも、第11章「家守(やもり)とコンバージョン」では、今各地の地域再生でもっとも注目を集めているコンセプトとも言える家守について、具体例を通じて詳細に紹介している。地域社会の失われた絆を再生する役割を果たす家守の目標は、つまるところ地域価値の向上にあるとする筆者の主張には実績に裏付けられた迫力と説得力がある。
 我が国の地域再生における公民連携の動きは、まだまだ発展途上である。本書なども参考に、現場の取り組みが進むことを期待したい。
(金沢工業大学環境・建築学部建築都市デザイン学科講師/遠藤 新)

書は地域再生に活かす「金融」についての解説書であるが、簡単にいえば「まちづくりの新しいお財布」についての本である。
 まちづくりにはお金が必要だ。新しいまちを作る時にはもちろんのこと、まちに手を入れる時にも多くのお金が必要になる。では、そのお金はどこのお財布から出ているのか?
 今までのまちづくりはほとんどが国や県や市の財布から税金という形で出ていた。しかし、そのお財布の中身も、当てになるお金がどんどんなくなってきているのが現状である。一方で個人の財布からまちづくりのお金が出てくることは期待できない。
 では、これからのまちづくりのお金はどうすればいいかと不安になった時、本書が様々な可能性を提案してくれる。
 私はまちづくりの道具の一つである再開発事業の現場に7年間携わってきた。その中でまちづくりとお金の関係について、肌で感じてきたつもりである。本書にもあるように、再開発事業のような都市計画プロジェクトには「時間のリスク」が大きく付きまとう。再開発を行う地区内の権利調整を行って事業化に辿り着くまでには、初期の段階から十数年の歳月を要する場合がほとんどである。開発業者やディベロッパーが事業化を進める上での「時間のリスク」を負っている。又、地区内の居住者にとっても事業化までに長い時間を要するのは、世代の交代や周辺環境の変化などのリスクが伴う。現在、不動産の証券化の手法を再開発事業に取り入れていく試みがあるが、投資家にこの「時間のリスク」をどう説明し、理解を得ていくのかが大きな課題である。
 又、本書では「地域再生」に繋がる金融の原理を分かりやすく解説している。金融の大原則は「借りた金は返す」である。きちんと返せる見込みをどのように立てればいいのか、新たなビジネスのヒントになる提案も盛り込まれている。きちんと返すためには、安定した収入が得られることが第一である。収入の安定化を図るため、今まで行政が行ってきたサービスを民間業者が行うようになれば民間によるコストダウンとサービス向上が期待できるという面もある。「六本木ヒルズ」も森ビルが行った都市計画サービス事業だったと言えるのではないだろうか。
 著者の「地域自らが再投資をしない地域に将来はない。」という意見に行政の財布をあてにしていた地方の市民の一人として、大きく考えさせられる本である。
(再開発プランナー/斎藤 誠)

担当編集者より

市計画やまちづくりというと、市場を知らない、経済を知らないと言われ、良くて机上の理想論、悪くすれば理想を騙る官僚主義のレッテルを貼られてきた。トンデモナイと言いたいが、確かに経済や金融に疎いのも事実だ。カタカナだらけの金融用語や、ちょっと難しげな数式を持ち出されてもビビラナイようになってほしい。そんな思いから執筆をお願いした。
 お金を儲けて悪いですか!?と村上氏は言ったが、一人だけ儲けて後は野となれ山となれで良いはずがない。会社を育てない投資なんて長続きするのだろうか。同様に街を育てない不動産投資が長続きするだろうか。著者の言う「地域価値の向上」は、現実無視の、遠い理想論のように思われがちだが、本来お金儲けの基本だったはずだ。本当に儲かるのは、どちらなのだろう?
(MA)

「リスクは得意なものが負担することによって小さくなる」という、言われると当たり前だが大変賢明な論理により、公民連携の大きな可能性を説いた魅力的な書である。
 幅広い意味での公民連携は、必ずや地域再生プロジェクトを推進する大きな力となること、プロジェクトの実現には、実は金融が重要な役割を担っていることを、金融人として地域再生の現場に永く関わってきた著者ならではの視点で、やさしく読みといてくれた。
 日ごろ金融とは無縁でも、こんな銀行マンだったら会ってみたいと思わせる、賢く頼もしい提言なのである。
(O)