酒井一光 著

A5判・208(カラー16)頁・定価 本体2200円+税
2006.4.30発行
ISBN4-7615-2387-5

■■内容紹介■■
出窓、天窓、三連窓…。建築のファサードを彩る窓に着目し、建物に対するその存在感を読み解きながら、近代以降、日本に根づいていった新たな建築文化の姿を浮き彫りにする。近代建築黎明期の名作や、戦前の有名建築だけでなく、街中の目立たない建物をも取り上げ、建築鑑賞に新たな視点を提供。形と機能を網羅した窓事典付。


読者レビュー

書を実際に手にした時、題名から勝手に抱いていた想像が誤りと知った。
 自分は本書を「窓」を偏愛した内容と想像したが、現物はこれまでの建築鑑賞本と若干毛色が異なるものの、その系譜上に位置する概説書であって、「窓」の詳述書ではなかった。
 今日、建築の「外壁に配された窓の形や並びが、人の目や鼻、口になぞらえられる」こと(p.27)を考えれば、建築を「窓から読みとく」ことはそれらを輪郭や造作、部位の比例などに着目して語ることに他ならない。これはごく一般的な建築鑑賞の流儀であり、そこで敢えて「窓から」と念押ししたのは、開国前の日本では家屋の構造上、窓への意識が稀薄であった(p.178)ことを踏まえ、近代建築史を日本人の窓に対する意識の変遷を軸に綴ろうとしたためだろう。

 本書は序章と本論4章分の約200頁で構成され、事例建築の鑑賞を中心に、それらを手がけた建築家の経歴や人柄にも言及がある。鑑賞の着眼点はいずれも「窓」で、本論の4章それぞれで異なる。第1章では建築物に対して窓の外側から接近し、外観の均整、規則性(p.35)を語る。第2章では逆に内側から接近し、「内部と外部の接点」(p.81)としての機能、すなわち眺めや採光などを語る。第3章では6名の建築家が窓を通して建築美(安井武雄と吉田鉄郎)や光と空間の問題(ライトとレーモンド)、あるいは異文化同士の融合(コンドルと村野藤吾)を追求した足跡を辿る(p.158)。第4章では近代化の過程で窓がどのような表象であったのか(p.161)を語る。
 その筆致は叙景詩風で印象的である。これは建築構造と開口部の関係をめぐる技術史的・論理的なくだり(p.25、p.40、p.49など)とも違和感がない。また、全頁の7割以上に写真が配され、文章を視覚的に補助する。
 事例建築はいずれも名高い116件。東西でほぼ半々であるが、西日本事例の8割以上が「大阪、京都、兵庫」に集中している。本書に意見を言いたいのはこの部分だけで、無名な事例や(関東人としては)東日本の事例を中心に扱った続刊を期待したい。
(田中 傑)


担当編集者より

物を見て歩くのが好きです。
 もっと自分に知識があったら、もっと楽しいだろうな、と思うことがよくあります。本書は、そんな人にこそ読んで欲しい一冊。
 著者の細やかかつ平易な文章が、文字通り「窓」を「窓口」に近代建築の魅力を、浮かび上がらせます。
 読後は、今まで通りすぎていたビルの窓、そして建築にも、ふと目を留めてしまうことが多くなるはず。
(G)