木村麻紀 著

四六判・176(カラー16)頁・定価 本体1800円+税
2006.6.10発行
ISBN4-7615-1214-8

■■内容紹介■■
1200の醸造所と5000の銘柄がある、地ビール王国ドイツ。水や原料の品質を守るために自然環境を保全し、伝統的な手法で副原料を含まない純度の高いビールを生産し、鮮度を保てる地域内で消費される。地域循環の理想形ともいえるドイツの地ビールづくりに、コミュニティビジネスや地域活性化を成功に導くヒントを探る。


 
読者レビュー

4年暮らした北海道・知床から福島県会津若松市に3月転勤した。転勤初日、雪のなかで飲んだ会津のお酒を涙しながら飲んだ。芳醇な味わい。これは世界一のお酒だと思った。会津地域は酒蔵がたくさんある。こんなおいしいお酒はたくさん造れるはずもなく、ほとんど地域で流通して終わる。地産地消ということだ。一方で、大量生産大量消費の波に乗れない、乗ろうとしない小さな酒蔵が毎年、一つずつ消えている。
 7月、この本の著者の木村さんにミュンヘンを案内していただき、飲んだビールにまた、涙した。これは世界一のお酒だと感動した。会津で飲んだ日本酒とミュンヘンで飲んだビール。これは比べてはいけない。どちらも世界一なのだ。その秘密を、木村さんはバイエルン州を舞台に、見事に解き明かしてくれる。細かい技法だとか材料がなんだとか、食の雑多なうんちく本は、この世に氾濫しているが、木村さんはジャーナリストとしての視点から、ビールを通して、ドイツ・バイエルン州の風土、歴史を明らかにし、地域自治や社会のあり方を提示。食は、世界の根っこなのだと教えてくれる。こういう本を待ち焦がれていた。
 「ビールは、大麦、ホップと水のみで造られるべし」としたビール純粋令をバイエルン王ヴィルヘルム4世が16世紀に公布したという。ビールへの地域の思い、誇りが地域を育てた。塩素消毒を原則行わないミュンヘン市の水道、有機農業、リサイクルなどの政策は、このビール純粋令に起源があることを知ることができる。会津地域でもぜひ「清酒は、米と米麹と水のみで造られるべし」という条例を念願する。
 食はその地域、民族、国家の政治や哲学をも作り上げる。食そして地域、地方自治をおろそかにする国家、民族は亡びるに違いない。声高に民族主義を叫び、戦争責任を棚上げにして、軍備をもてあそぶ愚かな日本の政治家にまず読ませなければならない警世の書だ。
(読売新聞会津若松支局/石原健治)


担当編集者より

近「地域ブランド」と称して地元の特産物で地域おこしを目指す自治体が増えてきた。BSE問題をはじめ食べ物の安全に対する意識、食育への関心も高まりつつある。こうした動きは、地産地消の取り組みを後押しする動きといえる。しかし日本で出版されている地産地消に関する本は、まだ驚くほど少ない。それは、日本で地産地消に取り組むには、あまりにも多くの困難を伴うことと無関係ではないだろう。
 この本では、地産地消の題材としてドイツの地ビールを取り上げたが、奇しくも日本の地ビール業界は苦境に立たされていると聞く。これも先述した地産地消を阻む様々な困難さゆえ。地域と共に生きるという、実にシンプルで当たり前なドイツの人々の生き方、暮らし方は、多くの知恵と努力のもとに達成されている。そのことを真摯に学び、1日も早く、地産地消が私たちの地域社会に根を下ろす日が来ることを願う。
(MY)