矢作 弘・瀬田史彦 編

B5変・272頁・定価 本体3800円+税
2006.9.10発行
ISBN4-7615-3143-6

■■内容紹介■■
三法改正の狙いと課題を、国交省・経産省担当者をはじめ多様な立場から論じ、さらに「広域の都市圏構造をいかに再構築するか」「まちづくり組織はいかにあるべきか」について多数の事例により詳述する。寄稿者:石原武政、中沢孝夫、木田清和、光武顕、中出文平、北原啓司、服部年明、庄司裕、卯月盛夫、三橋重昭ほか多数。


読者レビュー

2006年に、まちづくり三法(正確には中心市街地活性化法と都市計画法)の改正が行われ、今はその運用開始をまつばかりである。今回の法改正は、特に地方都市において大型店の郊外立地が加速し、中心市街地に大きな影響を与えている一方で、その中心市街地のマネージメントが十分な効果を上げておらず、結果的に中心市街地の空洞化と拡散的都市・地域構造の形成に歯止めをかけることができていない、という実態を受けてのものである。
 本書の第一部においては、都市計画と商業政策の専門家によって、制度上・運用上の問題点に関する分析が詳細になされており、非常に興味深い。最大の問題点は、都市計画に関しては明石が指摘しているように「原則規制・例外的解除」の仕組みになっていなかった点であり、商業政策に関しては石原が指摘しているように自治体内(行政組織内も含むがそれにとどまらない市民レベルも含めて)の合意形成が十分に取れていなかった点にあるのだろう。
 しかしこの改正によって「一件落着」となったわけではない。
 F1レースに例えるならば、1998年の法整備に伴いスタートを切ったかに思われたが、ルールの不備などから第一コーナーですでにクラッシュが続発したためルールを変更し、リスタートの準備をしている途中とでも言えるだろうか。確かにクラッシュの程度が激しく、再スタートを切れないのではないかと思われる自治体も一部では見受けられる。また「ペースカー」に相当する暫定的規制がかけられておらず、再スタートを切るまでは走行自由となっているため、それまでに新たなクラッシュが発生することも懸念される。しかし、多くの自治体にとっては、レースの本番はまだこれからである。
 そこで重要になってくるのが、自治体やTMOによる、よりより街を形作るための計画構想や戦略の立案力、そしてその実現能力・努力である。
 本書の第二、三部は、その点で非常に参考になる事例が多く集められている。これを読むと、自治体によって求めるべき解が異なっており、それぞれが個別解を見つけ出さなければならない、ということがよく分かる。先ほどF1レースに例えたが、勝負はスピードだけではない。むしろ「自分らしい走り」が問われていることを、改めて感じさせられた。
 一方で共通する部分も少なからず見受けられ、そこから多くのヒントを得ることができるだろう。特に「自らが行動せよ」という服部の一言は重い。
(大阪市立大学大学院工学研究科助手/姥浦道生)


担当編集者より

心市街地活性化三法の改正議論が聞こえてきたころ、改正にあわせ、是非、本をだしたいと思った。改正の背景となる議論や今後の課題をまとめた本書が第1弾である。
 ヨーロッパの街を訪ねると、小さな街でも中心市街地が素敵で、LRTが走っていたりして感心する。日本でもそういう魅力的な場所が欲しい。
 しかし、ヨーロッパといえども、中心市街地が商業に占める割合は低下し、いわば心の拠り所として残されているのだ、という話もある。逆に、地域の消費の1割を掴めれば、日本の中心市街地も十分生き残れるという話もある。
 都市計画が方向転換しコンパクトシティを目指すのは歓迎だが、そうは言っても、ガソリンが破滅的に高騰でもしないかぎり、都市構造が大きく変わるとも思えない。
 しかし素敵な中心市街地が生まれる道はあるはずだ。本書の後半の事例では、横浜元町や自由が丘、神戸居留地など、横綱級の街も取り上げた。衰退した中心市街地には関係がないと思われるかもしれない。しかし、彼らがどれだけ頑張っているかを知ることは大切だと思う。アメリカやイギリスの例にはない、日本的な知恵を組みとって欲しい。
(Ma)