西村幸夫 編著

A5変型判・272頁・定価 本体3000円+税
2006.12.30発行
ISBN4-7615-3147-9

■■内容紹介■■
近代都市計画が否定してきた路地が、そのヒューマンなスケールゆえに生活空間として、また賑わいや設えの空間として注目されている。本書では、界隈の魅力を保全・再生しつつ、まちづくりに活かしている各地の取り組みを報告。路地の復権を目指し、保全に向けた法制度と、ネックとなる防災・交通問題の解決手法を提起する。


 
読者レビュー

市計画の世界では密集市街地とか狭隘道路の路地の街は、政府レポートに「20世紀都市の負の遺産」とまで断言され、下流の街あつかいのはずだ。それを一流の都市プランナー21人が手をかえ品をかえ保全せよとのたまうのである。「三丁目の夕日」現象の世間に押されて都市計画屋も転向か、公共投資抑制の居直りか、司波のいう潮目が変ったって本当か。
 路地といってもその様態はさまざまである。住宅街では暮らしが滲み出し、商業地では店先がはみ出し、職人町では仕事場となる。そこには人間くさい日常の濃密な時間が滞留する。であればこそ自動車という機械系を拒否する。わたしも鎌倉の谷戸の路地に四半世紀暮らしたが、車に気をつけてと子どもに言った覚えがない。
 寺田の「しつらえの路地」論の神楽坂や祇園の花街・料亭街の路地は、それらとは異なるものだ。非日常へ凝縮していく過程の空間は、千利休の茶庭の露地あるいは能舞台の橋掛かりであるとわたしは思う。
 「路地は細街路であっても、細街路はかならずしも路地ではない」「細街路であっても歴史性や文化性を持ったもの、生活の表徴やにおいが発現しているもの」とする室崎の定義は重要だ。山本の言うように、それぞれの文化を背負っているが故に否定される路地もある。よそ者が路地を口にするとき気をつけなければなるまい。
 路地なんて全国どこの街にもある珍しくもないものだ。であればこそ、今井が提唱した路地のまちづくり全国ネットワーク活動が、文化としての路地再発見の意義を持つ。近代化から取り残されていた街並みが、ある時から一周遅れのトップランナーになった伝建地区の例があるが、さて、今度は路地地区がそうなるだろうか。
 とにかく、当代まちづくり名シェフたちが、細街路なる食材を料理して美味しい路地の街に仕立てる秘伝レシピを公開したのだから、活用したいものだ。半世紀遅れのジェイン・ジェイコブスやいかに。
(地域プランナー/伊達美徳)

担当編集者より

地は危険だ、木造は危ないというが、なぜなんだろう。
 不思議なのは、70年も前の「4mなければ危険」といった技術レベルから一歩も進歩していない事だ。
 2mの路地を4mに広げるのも技術なら、2mのままで安全にするのも技術のはずだが、後者は最近まで顧みられることがなかった。
 そのうえ、4mに広げることも、永年の精力的な努力にも拘わらず遅々として進まない。
 根本的に方向を間違っていたのではないか。いくら優れた技術と努力を注ぎ込んでも、人々が望まない商品は売れない。望まれない政策は成果があがらない。
 路地には魅力がある。少なくともそう思う人は少なくない。ならば、2mでも安全で快適という選択肢を実現することに精力を注ぎ込んではどうだろうか。
(Ma)