竹原義二 著/絹巻 豊 写真

A5判・240頁・定価 本体2600円+税
2007.3.10発行
ISBN978-4-7615-2400-5

■■内容紹介■■
素材の力、職人の技、「間」の観念を重視した建築は、自然との融合による静かな迫力をもって場に佇む。数々の建築に出会い、対峙することで空間を捉え、実作へと昇華してきたその試みは、新たな可能性の探求を伴って、101番目の家である自邸に結集された。これまでの住宅設計の軌跡と建築に込めた思想を余すことなく綴る。


 
読者レビュー

書は、近年、数と質のいずれの点においても、他を凌駕する建築家である竹原義二氏による、自らの建築への視線や設計の手法を克明に記した待望の書である。すでに、建築文化誌の1997年3月号(間と廻遊の住宅作法)および同誌2000年3月号(職人の技/建築の力)において、本書に示される基本的な内容に言及はあるものの、本書は柳沢究氏が構成を手がけることにより、竹原氏の建築に対する考え方を、より明快な形で手に取ることが可能となった。
 閑谷学校、自らの原風景、師である石井修氏、写真家・多比良敏雄氏や絹巻豊氏との出会いを、建築の原点とした序章。手仕事の痕跡、素材の力、木の可能性、内へいざなう、ズレと間合い、つなぎの間、余白と回遊、そして「101番目の家」へ、という主題の計8章からなる本文は、いずれの章も、まず、古今東西の建築が1作品取り上げられ、それが竹原氏独自の眼力で測定され、解剖される節から始まる。ついで、主題に関わる各論が手際よく展開された後に、自作への展開が語られ、最後は、見得を切るように1つの作品が詳述されるという構成で統一されている。この構成は、独自の眼力で掴み取った空間のフレームを、記憶し、設計の思想や手法に転化し、作品に昇華するというプロセスをトレースするものでもある。
 各章の題目とされている言葉、それ自体は、わが国の建築の特徴を示すものとして、決して新しいものとは言えないかもしれない。しかし、それが、あまたある「和風」に召還されることがないのは、竹原氏が「建てる」ことの原点にこだわりぬき、構築を執拗に検討するとともに、手仕事の痕跡を残した素材に光と影をともなわせ、空間として昇華することによるものであろう。竹原氏の眼力は、他者を測定するだけでなく、自らをも測定し、そうした測定の交信から「建築の力」を回復させることにある。その眼力の射程を、本書は余すことなくこと伝えている。
(神戸大学工学部建築学科准教授/末包伸吾)

担当編集者より

原義二氏は、よく「もの」をみる人である。同じものを見ても、思いもよらない見方をしていたりする。写真を撮る時のアングル、切り出し方からも、その一端が窺える。つくりだす空間の美しさは、持前の感性はもちろん、そういった蓄積によって練られ、計算されつくされて生まれてくるのだろう。
そして、いつまでも少年のような人である。自作に込めた仕掛けを、とても楽しそうに語る姿が印象的だ。話をしていても、次々に話題が展開し、時に、はぐらかされるような気がするのは、きっと頭の中では新しいことをどんどん考えているんだろうな、と思う。
この本には、まとまった形で語られることのなかった、建築への眼差し、空間づくりの鍵が詰まっている。
(N)