ローカル・ガバナンスの再構築

羽貝正美 編著

A5判・272頁・定価 本体3000円+税
2007.8.30発行
ISBN978-4-7615-3154-6

■■内容紹介■■
本格的な地方分権改革が始動して10年、現場ではさまざまな取組みが実践されてきたが、今も課題は少なくない。基礎自治体と住民自治のあるべき姿、それを実現するための行政の制度・仕組み・権限、そして参加や協働のあり方について、その問題と解決の方途を、政治・社会学の理論、地域づくりとまちづくりの実践から示した。


 
読者レビュー

バナンスという視点が現代社会を考えるうえでどこまで有効であるのか、別の言い方をすれば役に立つ道具であるのか、評者自身、必ずしも確信があるわけではない。それにもかかわらず、ガバナンス概念の含意を敷衍することにそれほどの違和感はなく、むしろ共通する前提で事象を見ることができるという点で有利にすら感じられることがある。まして、本書のように、ガバナンス問題をローカル・ガバナンスの範囲からの検討に限定し、参加と協働をキーワードとして分析を加えるとき、様々な題材からの議論にもかかわらず、その検討結果には近年注目される市民社会論の特質が共通して浮かび上がってくる。翻って読者は、古典的な自治問題に正対させられているかのような錯覚すら覚えることになる。
 本書は、地域社会における統治の過程が変化しつつあることを踏まえながら、そこにおける地方自治の諸相について、近隣社会と都市型社会の管理に焦点を当てながら検討したものである。まず参加と協働を支える多元的な地域社会の担い手による「共同」に着目しつつローカル・ガバナンスの意義を確認している。そしてコミュニティ政策への注目からパートナーシップの意義を読み取ると同時に、都市内分権型の身近な自治の可能性に触れる。また財政危機の中で新たな社会統合が小さな自治に期待されるガバナンス状況があり、現実に地域コミュニティも行政も変化を余儀なくされるという。そこでマンション管理組合には市民自治的な管理主体としての成長が見通され、自治体行政においては協働型への政策や組織の転換が論じられる。
 都市自治の古典的問題である都市計画やまちづくりにおいても、分権・参加・協働の視点からの変化がある。具体的には、都市計画審議会の運営においても徐々に自治や参加への転換が求められていること、市民参加型のまちづくり条例の制定過程が住民によるまちづくりの組織化や計画化そして地域個性の発揮を進める可能性があること、条例による事前の基準の明示と協議調整システムが新たな開発抑制・誘導システムとして機能しうることが論じられている。
 興味深いことに、本書が扱う共同、パートナーシップ、コミュニティ、小さな自治、自治組織、NPO、都市計画審議会、まちづくり組織等々をめぐる制度とその運営という検討テーマは、それらを問題にするなかで、住民や市民の自治能力が問われその成長が展望されるという共通の将来的課題へと収束しているように見える点である。本書の次に来るのは、自治を担う住民あるいは都市管理を担う市民を問う作業かもしれない。いずれにしても著者たちの次の挑戦に期待したい。
(同志社大学大学院総合政策科学研究科教授/新川達郎)

民参加という経験が数十年積み重ねられ、協働という試みも一般的な認識を得つつある今日、逆に現場では、その難しさや課題が顕在化してきている。他方、第二次地方分権改革が始まろうとするなかで、住民参加型自治の重要性があらためて問われ、自治、参加、協働の新たな局面への展開が求められている。
 本書は、こうした状況において「ローカル・ガバナンスは適切に機能しているのか」という問題意識のもとで、基礎自治体と住民自治のあるべき姿、それを実現するための制度、権限、そして政策を実現するための参加や協働のあり方を、理論とまちづくりの現場から追究している。具体的には、コミュニティ政策、近隣政府、自治体財政、マンション管理組合、NPO活動、都市計画審議会、まちづくり条例、まちづくり活動などを取り上げているが、特徴的なのは、「自治」「参加」「協働」という身近なようで難解な理念と方策を解明しようとしている点にある。
 評者が惹かれたのは、それぞれのテーマについての論拠を歴史的経緯や豊富な情報によって導こうとしている点である。ここに、都市研究に対する「誠実さ」が感じられる。そして、これらの論拠は、研究者としてもこれまでの論理の展開を確認でき、自治体職員にとっては施策の合理性、住民にとっては自らの位置を知るのに役立つだろう。都市計画、まちづくりを専門とする評者にとっては、著者各自のより踏み込んだ見解を期待しなくはないが、本書は、「自治」「参加」「協働」にかかわり、また関心を抱く、研究者・自治体職員・住民が共に議論する格好の素材になることは間違いない。
 また、政治学、社会学、経済学、法哲学、都市計画学など様々な分野から共通のテーマを論じている点も興味深い。そこには、各学問分野固有の視点や作法に支えられながらも学問分野の接点を見出そうとする意気込みがうかがえる。その意味で本書は、「一つの総合的・学際的・体系的な」学問分野としての「都市科学」を追求しようとする都市科学叢書シリーズの一冊目にふさわしい。
(駒澤大学法学部政治学科/内海麻利)

担当編集者より

市計画・まちづくりの分野の参加・協働論は随分読んだが、政治学・社会学などの本格的な論考はあまり読んだ事がない。
 それだけに、なぜ参加や協働が必要なのか、より大きな枠組から俯瞰した本書の第1部は私にとってとても有用だった。原科幸彦編著『市民参加と合意形成』とともに是非お読みいただきたい。
(Ma)